パン屋にて
「来月号はないの?」
そう聞いてくるお客さんがいる。
ここで勘違いをしてはいけない。うちはパン屋だ。地元のフリーペーパーを扱っているだけの。
「すみません。担当ではないのでわからないです」
「そうなんだ。じゃあ、間宮さんあっ、店長さん呼んでもらえる?」
店長の名前知ってるよ?ともとれるアピールをして、なぜフリーペーパーで店長を呼ばなきゃいけないんだと思いつつ、「かしこまりました」と言って480円のお会計を済ませてそ店長を呼びにいく。店長を呼びにいくと「また?」なんて言われても心を強く持たなくてはいけない。
いや、わかるよ?店長呼ぶようなことか?って思うよ?
でも、毎回店長名指して呼び出して後ろからフリーペーパーの来月号を持って来させてくるのだ。
何度も繰り返されるその行動に店員一同(店長含む)は呆れていた。
1、2日が待てないのだろうか。店頭に並べるのは一日だと決まっているのに。
以前に、別のパートさんが「そこになければないですね」と言っても店長を呼び出して。
また別のパートさんが「来月の配布の予定になっています」と言っても店長を呼び出して。
こんなに店長、店長というのなら店長と知り合いなんでしょ!知り合いにガツンと言ってよ店長!!と思っていたし、みんなでその想いを伝えた。
「私じゃなくて私の奥さんの知り合いなんだ」
えっ、そうなの?何度も呼び出してるから店長の知り合いかと思ってた。
ここで知り合いの旦那なのにあんなにしょっちゅう呼び出してたのか、と新たな疑念が出てきたがここで掘り下げないでおこう。
「しかも奥さんがいうには、変な人だから関わらない方がいいっていうんだ。だからフリーペーパーの来月号を渡すくらいで済んでいるならいいじゃないか」
奥さんそんなこと言ってたの?そんなにやばい人なの?それってゴネ得じゃないの?なんであの人のわがまま聞かないといけないの?なんてさまざまな感情が混ざってどうにも腹がたってもやもやした。
もやもやした、が仕事はやってくる。そして、あの人がやってくるだろう月末もやってくるのだ。
店にあの人がやってきた時「ああ、きちゃった」なんて思ってしまった。表情に出ていないことを祈るばかりである。
店長、いるけどいないよ!!なんて自分でもよくわからないことを考えつつ、トレーを持ってやってきたその人のお会計をした。
今回のお会計は100円。うちで一番安い塩パンがひとつである。
店長は?と言われるのかと身構えていたら何も言われなかった。塩パンの会計がおわったら何も言わずに帰っていった。
どうして?と思っていたらその疑問は顔に出ていたのであろう。パートの一人が教えてくれた。
「来月号、置いておいたんですよ」
そう言ったのは「そこになければないですね」と言い放ったパートだった。
え、そんなことしていいの?なんだかわからないが、負けたような気持ちになった。
「気にしたら負けですよ」
あなたはどうして私の心を読むんだ。
でも数冊のフリーペーパーを置いておくだけであのストレスから解放されるならいいか。なんて考えている自分もいた。
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