満月とスネービー。
「う~ん…トイレ……」
真っ暗でなにも見えない寝室。寝てると、トイレに行きたくなって目が覚めた。私の周りでは、ぬいぐるみたちがすぴょすぴょと寝息をたてていた。
ぬいぐるみたちをふんずけてしまわないように、スマホのライトで布団の周りを照らしながら静かにベッドから降りて、トイレに向かった。
──────ジャーッ…
「ふぅ~…喉も渇いた…水飲も」
そう言って台所に行き、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、ゴクゴクと飲む。
「ぷ、は~!…さて、また寝ますか─…ん?」
喉も潤ったことだし、また寝室に戻ってぬいぐるみたちと寝ようと思ったら。ベランダの窓の前に、何かがいた。
「…スネービー?どうしたの、眠れないの?」
ベランダの窓から入ってくる月明かりに照らされるスネービー。満月の光を浴びて、白いスネービーの体が蒼く染まっていた。
私がスネービーの背中に声をかけると、くるりとこちらに振り向いた。
「…ママさん。起きたんですか?」
と、スネービーは小さな声でそう言った。
「ああ、うん、トイレに行きたくなってね。明日休みだからってビール飲みまくったからね~」
はははと、私が頭を掻きながら言うと、ふふふとスネービーが笑った。にこっと微笑むことはあっても、スネービーが声をたてて笑うことは滅多にない。貴重な瞬間だ。
「あ、笑ってすみません」
「ううん、それよりどうしたの?こんな時間に」
私はそう言いながら、スネービーのとなりに座った。
「特に、何かあった訳じゃないのですが…なんとなく目が覚めてしまって…」
「ほんとに?何か悩んでたりしてない?スネービーってさ、普段あんまり自己主張しないからさ~…もしかして、何か悩みごとでもあったりしないかな~って、思ってさ」
私がスネービーにそう聴くと、スネービーは窓向こうの月を見上げるようにして頭を上げ、舌をちろちろとさせた。
「…悩みは無いですよ」
「ほんとに?たとえば、ちゃとにゃんのイビキがうるさくて寝られないとか」
「あ~…まあ、ちゃとにゃんさんのイビキはアレですが…もう慣れましたので」
「え~?私は時々『うるせー!』と思っちゃうな~。まあ、お腹丸出しで寝てるちゃとにゃんを見ると、可愛くてイビキのうるささなんてどうでもよくなるんだけども」
私がそう言うと、スネービーはまたふふふと声をたてて笑ってくれた。
「…悩みなんて無いですよ。そりゃあまあ、色々とイライラしたりすることもありすが、でもそれが良いと言いますか。…ママさんがいて、くまくまさんがいて、うさろんさんがいて、柴田さんがいて、ちゃとにゃんさんがいて…みんなが居るので、わたしは幸せです」
「そっかぁ…」
私とスネービーは少しの間、静かに満月を見上げていた。
すると。
「…ママさん」
「ん?」
「あの時、売れ残っていたわたしのことを手に取ってくださり…ぬいぐるみのみなさんに出会わせてくださり…そして、わたしと出会ってくださりありがとうございます」
スネービーは私の方に向いて、ぺこんと頭を下げた。
「…私の方こそ出会ってくれてありがとう、スネービー」
零れそうな嬉し涙を我慢しながら、スネービーの頭をなでなでした。
おやすみなさい~。