番外編 episode1 ─ くまくま ─
今日はくまくまの昔話の回です。
これはまだ、ママが生まれる前のおはなし。
ボクはとあるデパートのぬいぐるみコーナーに、ボクとおなじお顔をしたくまのぬいぐるみさんたちと並んで売られていました。するとある日。
『おおー!かわいいぬいぐるみだな!母さん、孫に買おう!』
優しそうなおじしゃんが、ボクの体を抱きあげると、まるで子供のように瞳をきらきらと煌めかせながら、ボクのことを見つめた。
『あらほんと、かわいいくまさんね~…って、ちょっとあなた!今さっき、すごくたくさんおもちゃ買ったばかりじゃない!ていうか、孫が生まれてくるのはまだだいぶ先よ!楽しみなのはわかるけど、もうこれ以上はダメ!』
『え~…でも、ぬいぐるみはひとつも買ってないじゃないか。あと、この熊五郎だけ買おう、な?』
え?『くまごろう』ってボクの名前?ボクがそう思っていると。
『やだ~…さっそく名前まで決めて。でも、たしかにかわいいくまさんね。このぬいぐるみさんなら、生まれてくる子が男の子でも女の子でもどっちでも合いそうね』
そう言って、おばしゃんがボクのことを抱き上げ見つめ、そして。
『仕方ないわね~…でも、孫にあげるぬいぐるみやおもちゃを買うのはこのくまさんまでだからね!』
『ああ!よろしくな熊五郎!』
そう言っておじしゃんは、ボクににこっとやさしく微笑んだ。
。.:*:・'°☆
ボクがおじしゃんたちのおうちに来て、しばらくすると。ママのお父さんお母さんが、生まれたばかりのちいさなママを抱っこしながら、おじしゃんおばしゃんのおうちにやって来た。
そう、そのおじしゃんとおばしゃんは、ボクの飼い主しゃん…ママのおじいちゃんとおばあちゃんだったのです。
おじいちゃんは生まれたお祝いに、ボクを孫に…赤ちゃんママに渡しました。
赤ちゃんママは、ちっちゃくてとってもかわいくて。ボクはいつも、赤ちゃんママの傍に置かれてました。時々、ボクのお手々をちゅーちゅー吸うのが驚きつつも、とてもかわいくて。
その時のボクはまだ動いたりおはなしすることができなかったので、赤ちゃんママを傍でしずかに見守っていました。
赤ちゃんママがお父さんとお母さんに「パパ」「ママ」と言うようになった頃、おじいちゃんとおばあちゃんがおうちに遊びに来ました。
『じぃじが遊びに来たぞ!』
『じぃじっ!』
『ふおおお!!そうだぞ、私はじぃじだ!』
『じぃじ~!』
『はあああ!かわいいなぁ~…』
おじいちゃんは赤ちゃんママのところに来ると、いつも赤ちゃんママにデレデレで。
『お!熊五郎じゃないか!ほぉら、この熊の名前は熊五郎だぞ~。言ってみ?』
おじいちゃんはボクを赤ちゃんママに見せながら、そう言った。すると。
『くっ…くぅ…』
『くーま、』
『くんま!』
『く、ま、ご、ろ、う。ほれ!』
『くっ、くう…くまくまっ!』
赤ちゃんママが『くまくま』と言った瞬間────…
ボクのお胸のところがふわふわっ…と、あったかくなった。
『お~!くまくま!そうだぞ、この熊の名前はくまくまだぞ!えらいぞ~よく言えたな~!』
え、いやいや、ボクは熊五郎じゃないんですか?!そう思ったけど。
『くまくま♪』
屈託なく微笑みながら、赤ちゃんママの発する「くまくま」という響きがとても心地よくて。ボクは。
『…名前を呼んでくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします!』
ボクが赤ちゃんママにそう言うと。
『『『『ぬ、ぬいぐるみがしゃべったーーーー!!!』』』』
と、おじいちゃんたちにとても驚かれました。
とにもかくにも、ボクはその日、ママになまえを…たましいをもらったのでした。
*プチおはなし*
くまくまが未だに「さしすせそ」が苦手なのは、赤ちゃんの頃の主さんの話し方で覚えてしまったためである。