エピローグ つまるところ、ハッピーエンド(2)
「よし、結婚の準備をしろ!」
「既にやっております!」
記録水晶のときと同様、王子の指示に打てば響く返事が来る。見ればその言葉通り、使節団の男性はスケジュール帳らしきものを開き高速でペンで何かを書き入れていた。
「殿下。是非、私、モーリス商会のマリアナをミナセ様の御用聞きとして雇っていただきたいのですが」
「よし、採用しよう」
マリアナさんの申し出に、クエルクス王子が二つ返事で了承する。
「ミナセには俺たちとは違う食事が必要だろう。それ以外にも必要なものを揃えるための人間が、丁度要ると思っていた」
上機嫌で王子は、そう続けた。
確かにディーカバリアで、さっき冗談交じりに想像した木材な食事を出されても困る。私としてはとても助かるが、これは当分マリアナさんが私に掛かりきりになるのではないだろうか。食べ物以外でも人間が暮らすには、きっと足りないものが多いはず。
そう思い、私はチラッとマリアナさんに目を向けた。
「商売敵がいない国単位の市場……ふふふ……これは見逃せません。何を売ろうかしら……」
あ、全然大丈夫そう。なるほど、私を足がかりに向こうで商売を始める訳か。逞しい……。
「ああ、そうか。ミナセの食べ物でここにしかないものもあるわけか。となると、クノン国はまだ必要だな。父上から出方次第ではこの地を焦土にしていいと言われていたが、仕方がない。止めておこう」
「え?」
何だか今、さらっと恐ろしいことを言いませんでした?
え、国交回復の外交と思っていたのはクノン国だけで、ディーカバリア側はそんなつもりはなかった的な? 国交回復どころか、これまで静観してきたのを止めてとうとう手を下しに来ていたとかそういう?
クノン国は、実は本当に聖女が必要なほど国滅亡の危機だった……!?
「よし、搬出作業が終わったようだ。さあ、ミナセ。俺たちの国へ行こう」
クエルクス王子がにこにことしながら、私に手を差し出してくる。
私がこの手を取ることで、私を厄介者としたクノン国は救われる。そう、私が国の命運を左右した者になる。
その事実は、そう遠くないうちにクノン国の耳に入るだろう。そちらの方が、クノン国が焦土になるという後味の悪い復讐よりずっと胸がすく仕返しになる。
この国は私に借りができた。とてつもなく大きな借りが。
「連れて行って下さい、あなたの国へ」
色々な意味で自然と笑顔になれた私は、王子の手を取った。
そして聖女の責務をきっちり果たした私は、大手を振ってクノン国を後にしたのだった――
-END-
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
楽しんでいただけたなら幸いです。