つまるところ、嘘から出たまこと(3)
「こちらこそよろしく頼む。それでミナセ、これらスクルナグを加工したのはあなたなのだろうか?」
「はい。そうです」
「宝を生み出す宝……! よくぞディーカバリアに来てくれた!」
クエルクス王子がやはりテンションが高いまま言って、私の両手を取る。その手をブンブンと上下に振られ、彼の全身が歓迎を表してくれていた。
「勿論、これら作品のすべてをディーカバリアへ持って行こう」
「! ありがとうございます」
歓迎されるだけでも嬉しいのに、彼はさらに私を嬉しくさせる言葉をくれた。
「誰か、竜になって運ぶように」
「「では私が!」」
王子の呼びかけに、使節団の皆さん全員が揃って声を上げる。挙手も綺麗に揃っていた。
『竜になって運ぶ』。そうか、運び出す手段がまず馬車ではなかったのか。クノン国が用意してくれるのは、せいぜい手荷物を持って乗れるくらいの馬車と思っていた。だから彫刻の持ち出しをはなから諦めていたのに、まさかそんな手段が在ろうとは。
「わかった。俺から見て手前にいる者から、テーブルを四等分した南東、北東、南西、北西の順で担当するように」
「了解しました! 記録が完了しましたので、これより搬出に移ります!」
一番手前にいた男性が代表で答えて、彼が担当となったテーブルの南東側に移動する。他の三人も続々とそれぞれの配置についた。とはいえ、誰一人運搬用の袋なり箱なりを持っていないのだけれど、どうするつもりなのだろうか。
そんな私の心配を余所に、使節団の皆さんは一様にして自然な動作で彫刻の上に手を翳した。
「わっ、浮いた」
「ちゃんと個別に保護魔法を掛ける。作品同士がぶつかって欠けたり崩れたりなんてことはさせない」
ふわりふわりと次々浮き上がる作品たちについて、クエルクス王子が状況説明をしてくれる。
よく見れば、どれもがシャボン玉のような薄い膜のようなもので包まれていた。それがきっと保護魔法なのだろう。
「先触れにスクルナグを持たせたのにこの数日まったく見かけないと思えば、ミナセに贈られていたのか。ミナセの技術を思えば、その判断は正しいな」
保護膜に包まれた彫刻がさらに大きな保護膜に一纏めにされるのを見ながら、クエルクス王子が独りごちる。うんうん一人頷いている彼に、早々に厄介払いされて私に回ってきたことは口が裂けても言えない。
搬出作業の最中王子は、まるで大好物でも見るかのような蕩ける表情で彫刻を見つめていた。その熱い眼差しは、口だけで「価値がある」と言っていた宰相さんのそれとまったく違う。上っ面だけでないのが、見ている人にまでわかる。
これほどまでに私の作品に関心を示してくれた人は、それなりの評価を受けていた元の世界にさえいなかった。
王子だけではない、使節団の皆さんの反応もかなり良い。私としては、冷遇が確定しているクノン国よりマシだといいなくらいの気持ちだった。であるからこのディーカバリア国の歓迎振り、良い意味で期待を裏切られた。
異世界に来てまで『料理で相手の胃袋を掴む』という夢は夢に終わってしまったが、彫刻の方をこれだけ認められる世界で第二の人生が始まるのなら上々だ。私は先程の王子よろしく、一人うんうんと頷いた。
と、そこへ「ミナセ」と王子に名を呼ばれる。
振り向けば、何故かそわそわした様子で私と彫刻を交互に見る彼の姿があった。
「その、ミナセは俺に贈られたのだったな?」
「はい、そうです」
事実なので即答すれば、今度は何故かわくわくした感じの王子が「それならっ」と前のめりで彫刻を指差した。
しかし――
「ディーカバリアに着いたら、ここにある作品すべて――俺が食べていいんだろうか!?」
その切実なお願いに対し私は、「ん?」としか反応のしようがなかった。