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つまるところ、嘘から出たまこと(2)

「うーん……日当たりが良いところがいいのか、それとも日陰の方がいいのか。その前に気温は大丈夫だろうか……湿度の心配もあるな。困ったな……お世話の仕方がまったくわからない」


 まるでデリケートな植物の育て方について悩むかのように、クエルクス王子が至極真面目な顔つきで言う。

 聖女は御神木だった……?


「あの、複数候補があるなら実際に見て私が選んでいいですか?」


 私は控え目に挙手して、意見を述べてみた。

 ディーカバリア国の気候や環境がまったくわからない時点では、私の方でも正解を答えようがない。今いるクノン国であれば日当たりの良い部屋がいいだろうが、向こうが砂漠のような環境とも限らないのだ。

 ――くらいの気持ちで、私は相槌を打っただけのつもりだった。


「喋った!?」


 クエルクス王子が、私をなでなでしていた手をピタッと止める。

 いや何でそこで驚くの。

 と、内心突っ込むも、


「精霊の(けん)(ぞく)たる聖女は人語を解すのか」


 次にはそれ以上にツッコミが必要な台詞が、彼の口から出てきた。

 精霊の眷属ではないし、人だから人語も解すよ……と思ったところで、今度は私が「あっ」と気付かされ驚く。

 言われてみれば、クノン国で言葉が通じてることからして不思議なことだった。異世界物あるあるだが、私が逆の立場なら確かに「日本語お上手ですね」と言ってしまいそう。まあ今の王子のはそんな感じではなく、本当に「植物が喋った」レベルの驚きようではあったが。


「意思疎通できる宝……な、何て貴重なんだ」


 あ、やっぱり『宝』が基本カテゴリなんだ? 『宝のような人』ではなく、『人型の宝』なんだ?

 なでなでしていた手がぷるぷるし出した王子に、私は再度心の中でツッコミを入れた。


「! 他に祀る――いや聖女が暮らす上で、希望はあるだろうか」


 一応、御神木よりは人へ認識が近付いた模様。良かった。

 そういえば私の知り合いに、推しのぬいぐるみと推しの暮らす街のジオラマ(自作)だけを置いた部屋を作った人がいた。これはさっき意見を述べなければ、神殿や祭壇などを用意されてもおかしくはなかったかもしれない。危ない。


「希望はというなら……あの作品たちをすべてディーカバリアへ持って行きたいです」


 希望はあるかと問われれば、何はともあれ彫刻に関することが最優先。向こうに行っても彫刻ができるような環境が欲しい。が、ひとまず私は目下の問題である、生き別れになりそうな作品たちを手で示した。

 そうしつつ応接テーブルまで歩いて行って。その途中、私を追い越した王子の背中が目に入った。

 そのことに私が驚く間もなく、王子は――


「素晴らしい!!!」


 部屋中に響くような声で、叫んだ。

 応接テーブルの周りをぐるぐる回りながら、「素晴らしい!」を連呼するクエルクス王子。(あお)りや()(かん)の角度チェックも大事なのか、背伸びをしたりしゃがんだり。

 突然の王子の奇行に使節団の皆さんはどう反応しているのか。気になって振り返って見れば――


「誰か記録水晶を持て! そしてすべての角度から記録しろ!」

「既にやっております!」


 テンションの高い王子の指示に、勝るとも劣らないテンションで返事をしていた。

 しかも皆さんお揃いで、いつの間にか至近距離まで来ていた。そして王子は「誰か」と言ったのに、使節団の方々は「誰も」が『記録水晶』らしきものをビデオカメラよろしく構えていた。おそらく機能も『写真機』または『録画』だろう。これがディーカバリア国……!

 王子は使節団の迅速な働きに満足げに頷き、それからハッとした表情で私を振り返った。


「すっかり名乗るのを忘れていた。俺はクエルクス。もう察しが付いているようだが、ディーカバリア国の第二王子だ」

「あっ、私はミナセと言います。よろしくお願いします」


 言われて気が付く。そういえば私も名乗っていなかった。

 出会いが御神木(仮)とその受贈者だったのもあり、すっかりタイミングを逃してしまっていた。


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