つまるところ、嘘から出たまこと(1)
あれから三日経ち、ディーカバリアの使節団が帰る日――私が彼らの手土産として貰われていく日がやって来た。
クノン国は「聖女に礼を尽くした」感を出すためか、私がモーリス商会から買った物も彼の国へ運んでくれるらしい。荷物が私のついでなのかその逆なのかはわからないが、私もこの部屋で待つよう言われていた。
使節団は昼前には発つという話だったので、そうこうしているうちに人が来るだろう。持ち出せる量に上限がある場合を考え、私は優先順位を伝えるために部屋の入口付近で待ち構えていた。
彫刻はあれからさらに三日分増えて、もはやテーブルに並べるというより盛ってある。何せ時間は一杯あったからね、めっちゃ彫ったわ。どれも捨てがたい作品に変わりはない。幸い手放す分は、マリアナさんが買い取りを申し出てくれた。私は「あげます」と言ったのに、彼女はそれに対し「対価を払うべき作品ですから」と返してきたのだ。
そんなマリアナさんは、今もこの部屋の壁際に控えてくれている。クノン国がただで手に入れようとしたなら、それを阻止してくれるらしい。心強い。
私に良くしてくれたマリアナさんの手に渡るなら、本望だ。何て思いつつも、また未練がましくテーブルを振り返ってしまうわけだが。
と、そこへ扉がノックされる音が聞こえた。とうとう見納めかと一度じっと作品たちを見てから、私は部屋の入口へと目を戻した。
「失礼する」
声とともに入室してきた人々を見て、驚く。
てっきり入ってきたのは城の使用人さんかと思えば、明らかにクノン国の人たちとは違った身なりの人々だった。やはりファンタジー感漂う感じではあるが、こちらは褐色の肌をしていて髪も濃い色だ。名乗られるまでもなく、ディーカバリア国の使節団とわかった。
男女合わせて五名の使節団は、私を取り囲むようにしてずらりと前に並んだ。
この使節団、揃いも揃ってとにかく顔が良い。お国柄という奴だろうか。中でも中心に立っていた人物は、特に美形な男性だった。
針葉樹のようなツンツンした緑の短髪。明るい灰色の瞳。盛年で、背もかなり高い。これはそこに立っているだけできっと多くの女性がうっとりすること請け合いだろう。
――が、どうしたものか。うっとりした表情をしていたのは、他でもない男性の方だった。
「おお、これが異世界からやって来た聖女なのか。確かに珍しい……」
私も私でその神がかったご尊顔に、ついつい挨拶も忘れて魅入ってしまう。
そんな私を彼は、頭の先から足の先までじいっと見てきた。そしてさらに私の周りをグルッと一周――いや三周くらいした。
「よし、俺の宮に祀ろう」
「!?」
え、まつ……祀る!?
あまりに想定外な台詞が彼の口から飛び出し、やはり声を掛けられないままぽかんとしてしまう。
宰相さんが言っていた『飾ってもらえる』という言葉、百パーセント冗談と思っていた。それなのに、『飾る』よりもまだグレードアップしている。竜族の珍しいものに掛ける情熱、半端ない。さすが七ツ葉のクローバーに金貨を出す国……。
驚愕に固まってしまった私の頭を、男性が慎重な手つきでなでなでしてくる。「俺の宮に祀る」と言うからには、この人が私が贈られた相手――ディーカバリア国の第二王子クエルクスその人なのだろう。