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つまるところ、厄介払い(1)

 まあ、そうなるよね。知ってた。奇跡はそうそう起こらないから、奇跡というのだ。

 結局まずい料理のままだった私は、日当たりの悪いじめじめした部屋に送られ――ということは幸いなかった。ちゃんと聖女のために用意されていたという、『THE ご令嬢なお部屋』に通された。役立たず認定された私ではあるが、一応聖女ということで丁寧に扱われるらしい。この点においては、過去の聖女様たちに感謝である。


(にしても、漫画のように「ごふっ」って言って吐かなくても……)


 きっと「美味しいに違いない」って先入観があったのだろう。あと、見た目に騙されたのだろう。自分で言うのも何だけど飾り付けだけはハイセンスだからね、私。

 わかってる。私自身も料理も見た目詐欺なんだって。だからあれほど、一口目は少しでと忠告したのに。宰相さんも城の料理人さんも、醜態を晒したところで自業自得だと思う。


(まさか一口目で『まずい』と食べるのを止めたあいつの方が、マシな反応だったなんて……)


 召喚される直前に私が大荷物だったのは、奇しくも「料理好きだから料理上手と思ったのに」と彼氏に言われ、大喧嘩の末に別れたのが理由。その元彼の家からの帰り道、ヤケ酒ならぬヤケ木材を買い漁った。私の一番の趣味、彫刻用の木材だ。

 こちらの趣味は『下手の横好き』ではなく、『好きこそものの上手なれ』が適用されたと思う。コンテストでは毎回入賞者であるし、販売もしていて売り上げもなかなかにあったと自負している。

 しかし喧嘩の最中、元彼は「彫刻が趣味? 一般家庭で飾らないし。そんな趣味、誰得だよ」とあろうことか鼻で笑ったのだ。しかも「料理や菓子ならともかく、彫刻なんて手作りくれてもギャグにしかならないじゃん」とまで言いやがったのだ。あの男とは別れてよかった、うん。


(でもそうか……私の料理はそこまで壊滅的か……)


 その事実は、さすがに心を(えぐ)られる。

 元々、昔好きだった少女漫画の主人公を真似て、私は料理を始めた。主人公が美味しい料理を披露して、男主人公と仲良くなるストーリー。ありがちではあるが、主人公も男主人公も大好きだった私は、自分もそんな恋愛を夢見た。

 異世界に来て心機一転と思いきや、そのまんま向こうと同じ問題に直面させられるとは。世の中、なんてままならない。


(三日後に何を言われるか……)


 (ごく)(つぶ)しとなった私は、例の重要な外交が終わる三日後に、改めて沙汰を言い渡されることになった。これは時間差で追放展開が来るに違いない。


「うぅ、胃がキリキリしてきた……」


 私は両手で胃を押さえた。これは決して自分の料理を食べてそうなったわけではない。……と、信じたい。


「ん?」


 不意に部屋の扉をノックする音が聞こえ、ひとまず天蓋付きベッドに腰掛けていた私は立ち上がった。


「どうぞ」


 言いながら、入口へと向かう。

 すると部屋の中央まで来たところで、「失礼いたします」と一人の女性が入室してきた。

 入ってきたのは、赤毛の女性。グレーなパンツスーツ姿の彼女は、歳は三十代半ばぐらいだろうか。そこに立っているだけなのにデキる女感がバリバリ伝わってくる……そんな印象を受ける。


「モーリス商会のマリアナでございます。情報も品物も何でも御用聞きいたします、聖女様」

「そ、そうですか。私は水無瀬と言います……」


 ああ、これ。聖女に楽しく暮らしていただこうっていう配慮ね……本来は。

 名乗られたので名乗り返しはしたけれど、私にその資格はないわけで。急なことでマリアナさんまで連絡が行かなかったのだろうが、ここまで来ていただいて申し訳ない。


「ミナセ様。事情は聞き及んでおります」

「え?」


 どうしたものかと思っていた私に、マリアナさんがにっこりと微笑みかけてくる。


「三日間で欲しい物、片っ端からいっちゃいましょう!」

「…………」


 ああ、これ。三日で元を取ってやろうって奴ね……(たくま)しい。

 でもそうか。それなら逆に遠慮しない方がいいのかもしれない。私の心を(えぐ)ってきたクノン国に気を遣うより、マリアナさんの商会が潤って欲しいかもしれない。


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