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最終話 異世界は今日も理想に満ちている

 首都ファリズンは今日も晴れ。

 荘厳な城門から王宮まで続く大通りはいつものようにごった返し。

 あらゆるものが集まり繁栄してゆく国ーーその王宮は、ここ数日とんでもない大騒動に見舞われていた。

 貴族の中でも三番目に偉い、『王の儀典長』ファビオ=ダラス。

 儀典という、王の最も華々しい側面を一手に引き受ける彼がまさかの国家転覆を図り、ハイ・オークと名乗る者を後ろ盾に暗躍していた。

 序列第四位『王の宝物番』ノア=プレストンを罠にはめて、外交的にも非常に危険なマジックアイテムを略奪したのち王国内部から武装蜂起する計画を立てていた。

 その動機は今の国のあり方を憂いた上で、自分の理想的な国を作るためだった――。


 ……。

 いやいや。

 いやいやいやいや!

 馬鹿なのなんなの死ぬの?

 どうしてそうなる!

 

 でも、ノアに言わせるとそんな燻りはどこにでもあるのだとか。

 今の世の中は、魔王軍と戦って勝ち取った平和。

 その時の功がそのまま今の貴族の序列なんだとか。

 平和のままだと何が起こるかというと、それ以上位が上がらないとのことだ。

 そう言われて思い出すのが、日本史の授業で習った江戸時代のこと。

 関ヶ原の戦いから外様大名はずーっと外様大名のままで、地位はほとんど動かなかった。

 外様は疎遠故に搾り取られるだけ搾り取られて、ずーっと不遇を受けていた。

 それがくすぶりに燻って二六〇年後、その外様大名達が結託して幕府をひっくり返したのが明治維新。

 で、このアリアンナ王国。

 今ちょうど太平の世がそのくらい続いているそうな。

 どんな世界でも、例え異世界でも人の世界ならば、そのくらいに滅びが来る。

 なるほど見えないところに火種がいくらでも燻っている……かもしれないということか。

 なんちゅうタイミングの悪いときに僕は来たんだ。

 もしかしてカーラさんはそれすら悟って、面倒半分危機回避半分でスラムにいるんじゃないのかな。僕でもそうすると思う。

 まあ、百歩譲ってだ。

 別に偉い人たちが足の引っ張り合いをしようが何をしようが僕ら民は関係ない。

 いっくらでも下剋上してくれ。

 累が及ばない限りは、だけど。

 こんだけの大騒動だけど、大スクープのち記者達が王宮に殺到するかと思いきや、そうはならなかった。

 良いのか悪いのか、長い平和は隠蔽工作の技術を飛躍的に進化させたようで、朝刊にも夕刊にも例の騒動は載らない。新聞に書いてあるのは表向きのカバーストーリーだけだった。

 ファビオの病気引退。儀典関係はダラス家のすご〜〜〜い遠縁が引き継いでそろそろ王宮入りと三面記事の端っこに書いてあった。

 当然こんなことやらかした一族だから発言権も権威もお飾りで、粛々と役目だけやらされる――とノア談。

 ファビオ自体は一命は取り留めたものの、『デモンズメイル』によって体の中の魔力はズタボロ。尚も意識不明の重体だった。

 そのまま死なれてしまうと今回の事件が闇に消えてしまうということで、回復魔術師がつきっきりで看病してるらしい。

 儀典局の兵士達は気がついたらベッドの上だったと口々に証言していた。

 どうやらかなり前からファビオが魅了魔法をかけていたらしい。

 あのオッサンに身も心もメロメロにされていたと知ったらどうなるんだろう彼ら。ちょっと気の毒だ。

 被害者のノアはまるっとお咎めなし。

 ただそれだけじゃあまりにも可哀想なのか、それともプロパガンダ的な意味なのか。外交的にデリケートな存在だった『恍惚の魔鎧(デモンズメイル)』を綺麗に処分したということにされて、知らない人が見れば王宮から過分な表彰をされたとか。これも二面記事の中くらいに書いてあった。

 なんだこの顛末。

 ファンタジーにしては灰色すぎるってばよ。

 そんな風に騙し騙しやってるからバカが生まれるんだぞ。

 ――ただ、まあ。

 国はクラスの学級会で運営されている訳でもなし。

 数えきれないほどの人間がいるからこそ、こんな着地点になるのかな。

 僕にはよくわかりません。

 だって僕は単なる学生――いや。

 ギルドの『先生』で、武術家で、料理人なんだから。



 ――数日後。

 ギルド『灰狼』の厨房。 



 僕は積み上がるイモを剥きながら、キャッキャとはしゃぐモカの言葉をうんうんと聞いていた。

「それでさそれでさ。ギルのアニキったら実は別であの鎧の情報集めてたんだってよ」

「だから何日も開けてたのか。僕達と一緒に探せばよかったのに」

 そう言うとモカはプークスクスと笑う。

 まるで鬼の首を取ったよう。

 いや、面白ネタを掴んでカラオケでダベる女子高生って感じか。

「それがね、アニキは先生より早く手柄上げたかったんだって」

「なんでまた」

「せめて賞金稼ぎとしては先生に勝ちたかったんじゃない? ずーっと負けっぱなしだったから。それで馴染みのサキュバスの家転々として、食あたりだってよ!」

 ギャッハッハと笑うのはいいんだけど、ここ厨房なんだけどなぁ。

 ちゃんとエプロンしてくれるし、しゃべってる時は近づいてこないけど。とにかく彼女の声はやかましい。

 それにしてもギルの負けず嫌いは一周回って感心する。

 情報のためにあのサキュバス嬢の家を転々とするとか。もしかして彼、絶倫か?

 確かに娼婦のピロートークほどいい情報源はない。

 ゼロゾーンはいい意味でも悪い意味でも無法地帯。

 実のところ女を買いに貴族もお忍びで来るところだ。

 ギルはネタ提供代わりに吸い取られるだけ吸い取られて、精のつくものばっかり食べてたら食あたりしたと。

 やっぱりギルもここのメンバー。

 おバカだ。

 そりゃやつれる。

 そんなに僕に勝ちたかったのか。

 前は冷たいなー仲良くしたいなーとか心を痛めてたけど、今は一周回ってそんなところも可愛く見える。

 いよいよ僕も本当に保護者みたいな気持ちになってきたみたいだ。

「でも必ず定期的に帰ってきてたよね。何でだろ?」


「……ハンバーグ」


 ボソリと言うのは、僕の横で同じくエプロンを着てイモの皮を向いてくれるエステルだ。最近は単純な作業を手伝うようになってくれた。

 流石は職業『ナイフマスター』といったところか。僕より倍の速さで、あれよあれよという間にイモが剥かれてゆく。

「エステル? ハンバーグって?」

「ギルの兄さんが帰ってくる時は、大体ハンバーグ」

 そうだっけ? と思って厨房に掲げておいた献立表を見てみる。

「うわホントだ。あいつハンバーグの日だけ帰ってきてる!」

「兄さんは先生のハンバーグが大好き」

 ハンバーグといえば、確か僕が一番最初にここに来た時作ったやつだ。

 ここのメンバーは相当気に入ったのか、このハンバーグをかなりの頻度でせがんでくる。

 仕方ないから週に二回、味を変えて出してるけど――なるほど、ギルが帰ってきていた周期と合致する。

「なーんだアニキ、やっぱり先生の事大好きじゃん。からかってやろ」

「やめておきなさい。君たちの喧嘩は洒落にならないから――」



「キュエエエエエエエエエ!!」



 急に外から金切り声が聞こえてきた。

 外のクリーピーちゃんがお腹空かせたみたいだ。

 もう少し静かにしてほしいけど、まだ赤ちゃんだから仕方ない。

 アレから色々あって、一番処遇に困ったのはあのサンダードラゴンだった。

 長い間見せ物にされて人間不信になった幼龍。

 自然に返すわけにもいかず、かといって処分は大反対。

 ただ僕やギルドメンバーに懐いたので、最終的にここで引き取ることにした。

 違法建築のようなギルド『灰狼』の真横には、今や立派な厩舎のような建物が建っている。

 番犬ならぬ番龍。

 ギルドがドラゴンを飼うなんて前代未聞らしいけど、このギルド『灰狼』は前代未聞だらけだから今更だった。

 実はドラゴンを飼うには許可が必要らしいけど、カーラさんが王様に『お願い』をしたらクリーピーちゃんの寝床代を添えて、即日許可証が発行されたらしい。

 カーラさんがどんなお願いをしたのかは聞かないでおこう。

 時々興奮して雷落とす以外はアレはアレでけっこう可愛い。

 ストレスから解放されたのか、今はもふもふの産毛が生えているので女子達に大人気だ。

 意外だったのはニック率いるゴロツキ衆が率先して面倒見ていること。

 なんでもドラゴンテイムは男の子の夢だとかなんとか。

 君たちほんとに見た目は大人、中身は子供なんだね。

 先生、そういうのは嫌いじゃないぞ。

「先生〜、あたしもお腹減ったんですけど〜」

「クリーピーちゃんの鳴き声が合図になってきたな。ほら、そう言うなら手伝って。今日はカレーだよ」


 ★


「いい匂いですね。今日は何を作ってくれたのですか?」

 ちゃっかりカウンター席に陣取っているのはノアだった。

 もう冒険者の姿がしっかり板についている。

「金髪女、まだ居たんだ」

「まだとは何ですか。私は当分、ここのメンバーですよ。ねえカーラさん」

「はぁ?」

 モカがノアにつっかかるも、ノアはもう慣れたのか堂々としている。彼女最初会った頃とは別人みたいだ。

「あんまいじめるんじゃあないよモカ。アタシが認めたんだ。それに、親父殿からカネ貰ってるからねえ。文句はないさ」

 カーラさんに言われてはモカも文句は言えないようで、ものっすごいほっぺたを膨らませて不服そうにしていた。ボウガンを構えないだけえらい、ということにしておこう。

「ノア、ここにいて大丈夫? お役目は?」

「問題ありませんよケント。父からは仕事を引き継ぐから当分姿をくらませろと言われています。国王陛下からもお墨付きです」

 ならいいや。ノアもずーっと休まず宮廷で働いていたっていうから、今はゆっくり羽根を伸ばしたほうが良いかもしれない。

 しばらく姿をくらませろ、はナイスな指示だ。

 王宮は相変わらずギスギスしてる、お上品なヤンキー校みたいなところ。

 挨拶の『ごきげんよう』に『やんのかテメェ』ってルビが振られてる。

 今話題のノアがいつも通り務めれば、余計な詮索が入るというもの。

 それは国益にダイレクトにつながるから、国王陛下も許したってことか。

 抜けてるのか冴えてるのかわっからねえなこの国の王様。

 それにしても、あのお父様か。

 この騒動の最後らへんに会ったけど、ノアとは似ても似つかない二メートル越えの大剣豪みたいな人だった。

 戦国時代なら大手門を背に「ここは一歩も通さん!」みたいな武人。

 ただ英雄よく色を好むとは言うようで、左右に可愛らしいメイドさんを侍らせていた。

 出会った瞬間大刀を抜刀されてノアとの関係を詰問されたんだけど、数分後には何故か意気投合してメイドさん談義に花を咲かせていた。

 何を言っているかわからないと思う。

 僕もさっぱりわからない。

 同じ武人として通じるところがあったと思いたい。

 あまつさえ最後には娘を頼みますと言われてしまった。

 僕の何があの人の琴線に触れたのかはわからないけど、好意的に捉えてくれるならいいだろう。

「ノア。結局あのファビオって男、ハイ・オークと何か繋がりあったのかい?」

「それはまだ。王国騎士団が邸宅や別荘地を隈なく探していますが、手紙もメモも契約書も無く、目立った魔力の痕跡は無いと。ハイ・オークの線は薄いのでは無いか、という報告を受けています」

 それを聞いてちょっと安心した。

 僕は数百年前の魔王軍との戦いなんて知らないし、奴らの目の敵にされているなんて迷惑極まりないと思ってたけど……この分だと、ハイ・オークを語った詐欺師が濃厚だ。

 頭のいい奴ほど、育ちがいい奴ほど普通なら鼻で笑うことに騙されるって聞くけどマジなんだね。

 特にあのオッサンは完全に妄言と妄想に取り付かれていたから、余計引っかかりそう。

「ただ確かなことは、序列第三位の貴族を誑かした者がいる。今は王国騎士団が衛兵と連携して、総出で捜査をしています」

「そりゃいいね。騎士団もヒマだから張り切ってるだろうよ」

「ええ。それはもう。暇を持て余して筋肉ばかりつけている騎士団ですが、一人一人が一騎当千の強者です。近いうちに何かが解るでしょう」

 因みに王国騎士団はマジでムキムキでした。

 事情聴取でノアと一緒に王宮行ってビビった。ボディービルダー養成ジムかと思った。

 あんなのが都市を練り歩けば悪人なんか裸足で逃げ出す。早晩ノアの耳にいい知らせが届くはずだ。

「なら、この一件はもう終わったようなモンだね――それはそれとして、だ。良い匂いがするねぇ。今日のメシはなんだい、ケント?」

「今日はカレーライスですよ」

 カーラさんから始まって、ギルドメンバーにカレーを配る。

 このカレーを作るのは苦労した。スパイスを発見して混ぜ方を工夫して味見してまた工夫して。この世界の人間に合う納得の味になった。

 あとお米。お米はあるにはあるけど東の国の特産品だからか、専用の釜を一から作るハメになった。

 そこのところはヴィクトールほかギルドメンバーの面々と頑張ったけど、それはまた後日談ということで。

 とにかく、僕は異世界でカレーを作ることに成功した。

 味も風味も完璧。

 自信を持ってお届けできるはずだ。

「これは……また、ホワイトシチューとは違うものですね。このコメ? と一緒に食べるのですか?」

「そうだよ。混ぜても良いけど、そのまま匙ですくって一口いっちゃって」

 ノアが匙にコメとルーを載せてまじまじと見ている。ニックも他のメンバーもその様子をじっと見てる。ギルもだ。

 ノアはしばらく見つめていたけれど、すぐにパクリと一口。

 するとキツめの吊り目がいきなりトロンとして、モニュモニュと幸せそうに咀嚼。

 勿体無いとばかりに長く噛んでいたのち、頬を赤らめてゴクンと飲み込んでいるのはちょっとエッチな感じ――


「美味しい。本当に。幸せで蕩けてしまいそう」


 何だか色っぽい声。

 でも、聞いているこっちが美味しくなりそうな言葉だ。

 それを合図にギルドのメンバー達が次々と口に運んでは絶叫に似た歓喜を上げている。

 よしよし、うまくいった。

 ここの世界の野菜は選べばすごく美味しいし、肉も相変わらずよくわからない牛なのか恐竜なのかわからないのがあるけど質は良い。

 スパイスも朝市に行けば無数にあるから、そこから厳選に厳選を重ねたカレーは美味いに決まってる。

「ケ、ケント! これ、本当に美味しい! お、お代わりありますか……」

「もう食べたの!?」

 ノアは恥ずかしそうに、けれどもお皿をしっかりと両手に持って僕に掲げていた。

 何その王様から剣を賜るみたいな。

 あと顔に恥じらいが無くなってきたねノア。目が子供みたいに輝いているよ。

「もう貴族やめてここにいようかな」

「冗談言わないの。ほら、いっぱいあるから――」


「「「おかわり!!」」」


 いっぱいあるけど一度に来るのはどうなんだ。

 ギルも片手で皿掲げてるし。顔を赤らめてそっぽ向いてるんじゃないこのツンデレめ。

 というかみんなよく噛んでくれよ……

 といいたいけれど、そんな事聴ける奴らじゃないよね。知ってる。


 ――料理というのは本当に不思議だ。

 こんなに多種多様、色んな生まれの、いろんな考えの、いろんなクセのある人達が『美味しい』というたった一つの感情を共有できるのだから。

 僕は武術より何より、もしかしたらこっちの方が理想としていたのかもしれない。

 一人で寂しく厨房に立って共働きで忙しい両親に作り置きをしつつ。

 僕自身は多めに作った料理をスマホの動画片手に飲み込むのはもう勘弁だ。

「先生~! 美味いぞ~!」

「ミタマ。これ汚れ落ちにくいから気をつけて食べてね」

「ぬ! そういうことは早く言うてたもれ~」

 キツネ顔の美幼女の口元を拭いて、頭を撫でてやる。

 多分僕よりかなり年上のおキツネ様は、満足そうに尻尾をブンブン振っていた。

「……いいものですね、食事を囲むというのは」

「ノア?」

「私は貴族ですから。小さいときから食事一つでも躾と戦いの場でした。けれど貴方が作った料理は。こんなに笑顔を作るだなんて」

 ノアが微笑んだ。

 あれ、何そのヒロインムーヴ。

 ちょっと抜けた凄腕剣客が、なんでそんなに。

「貴方は宝です」

「え?」

「いいえ。私は宝物番。だから、責務を全うする。そう誓ったまで」

「???」

「解らなくていいですよ。ステキな先生」

「ちょっと」

 グイーッと腕を掴まれた。

 頬を膨らませたエステルが僕の腕に抱きついている。

「先生を取るな」

「取りません。護る。誰に、なんと言われようと」

 ノアが立ち上がり、エステルも立ち上がる。

「取ったら殺す」

「どうぞ。できるのなら。後ろから狙われてるのは慣れています」

「……! この!」

 お、おーい。

 なんでここでバチバチするの?

 和やかな雰囲気はどこいった?


「おお怖え。ノア嬢、エステルにガンくれてやがるぜ」

「モカに続いて一番怒らせちゃいけない女をよくまあ。でもノア嬢もどっこいだな」

「おい皆、この件は刺激するなよ。爆心地は勘弁だぜ。先生はご愁傷様だ」


 そこ。

 ゴロツキ共。

 外野からうるさいぞ。

 カレーをモシャモシャしながら首を低くして「くわばら、くわばら」とか言うんじゃない。

 皆も怖い怖いとか言うな。ヴィクトールも我関せずやめろ。

 モカは……あ、ボウガン構えたところをギルが止めてる。ナイスだ。

「いいねえケント。お望み通りじゃないか。美女に囲まれて幸せかい?」

「カーラさん、面白がってません?」

「面白いに決まってるさ。子供達を眺めてる以上に楽しい事なんて、この世にあるもんかい」

 さいですか。

 でも、それは僕も同意見かな。


 異世界にたどり着いて、半年が過ぎようとしている。

 僕は流されるだけ流されて、何故かスラムにいて。

 でも、理想を手に入れたのかもしれない。

 この手の届く皆を護って、この腕で生み出す料理で家族を幸せにする。

 思っていた武術家とは違うけど、だからこそ僕は僕という武術家になれた。

 幼馴染みに――(すすむ)にこの姿、見せたかったなぁ。

 どうだ、内弁慶が治ったぞ。

 会えなくなったのは寂しいけど――。

 でも、ありがとう。

 お前の言うとおりだった。



『健人なら何でもすぐできそうなんだけどな』


 

 すぐじゃなかったけど、色々できた。

 ようやく自身が持てた――。



「ギュエエエエエエエエエエ!!!」

「うおおおお暴れるなあああああ!」



 おい、何だ何だいきなり!

 外のクリーピーちゃんが悲鳴上げてるぞ!

 そうかと思ったらドバーンと扉を開けたのはニックだった。

 服が半分焦げてる。

 さてはクリーピーちゃんに雷を当てられたな?

「先生! カレーあげたらクリーピーちゃん猫舌だった! 暴れて手が付けらんねえ!」

「ドラゴンにカレーあげたのかよこのおバカ! みんなクリーピーちゃん止めるよ!」

 バタバタと、ギルド『灰狼』のメンバー達が外に出る。

 せっかくしんみり感慨に浸ってたのに。もう。

 なんだか泣けてきた。

 背後からカーラさんの「だっはっはっは!」という笑い声が聞こえてきたのはイラッとしたけど――

 こんな異世界もまた、いいもんだなと。

 慌ただしいからこそ、楽しいなと。

 影に隠れてコソコソしていた前とは大違いだ。

 そう思ったら不思議と、僕は笑っていた。



(了)

ここまでお読み頂きありがとうございます。


陰キャで卑屈、ただただオタクなぽっちゃり系が異世界で頑張る物語、いかがでしたでしょうか。

最後はまさしく先生に成長したのかなと、書いている私でも見守っていた気持ちになりました。


本当はもう少し卑屈なままのキャラクターをデザインしていましたが、小説とは不思議なモノでキャラクターをしっかりデザインすると一人歩きしてしまいます。自分が思っていたのと違うのは、どうやら物語の進行もそうのようです。言い意味で、どうしてこうなった。


理想を抱きつつければ、自分が思いもよらない場所で現実になり得る。

これは物語だけではなくて、現実世界でもそうだと私は信じています。


この物語はこれにて閉幕。総合50位くらいに上がったら続きを書こうと思いましたが、とりあえず完結とさせて下さい。


「ケント君の物語が面白かった」

「もっと続きが読みたい!」

「ナイスカロリー!」

などなどありましたら感想やレビュー、ブクマや★★★★★など頂ければ嬉しいです。

それでは次の作品にてお会いしましょう。


西山暁之亮

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。 文体も読みやすくて最高です。 この作品の続きも別作品も是非読みたいので、今後も創作活動を続けてくれると嬉しいです。
[良い点] 完結おめでとうございます! 私は武術系はさっぱりなので、ご飯おいしそーだなーと思って拝見しておりました 物語のテンポ感だとかキャラがとても大好きで、楽しく読ませていただいておりました 番外…
[良い点] 完結おめでとうございます! 前編主人公のツッコミでテンポ良く楽しく読めました! [一言] 後日談というか他のメンツの好物のストーリーとか色濃いギルドメンバーについての追加ストーリーとか読ん…
感想一覧
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