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ぽっちゃり転生は二度美味しい! ~武術と料理で異世界無双~  作者: 西山暁之亮
第六章 死闘? 何それ美味しいの!?
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第66話 秘策のための秘策

 渾身の跳び蹴り。

 まるでライダーキックのようだけど、重量も速度もそれ並みの強さだと思いたい。

 真っ直ぐに伸ばすのはファビオの胸あたり。

 ただ、彼も即座に反応して盾を作り、正面から受ける。


 ゴガン!!

 

 砲丸がコンクリートに叩きつけられたような音。

 けれどファビオは大きく仰け反るだけ。こいつ本当に頑丈だな!

 バンザイしたファビオは即座に魔法の武器を作り出し、僕の脳天に叩きつけてくる。

 鈍い音と、剣にしては切っ先が太い。

 多分スレッジハンマーのような打撃武器だ。

 こんなの小手では受けきれない。

 出がしらを抑えようとも、柄の長い武器は簡単には止まらない。

 ドッ!

 僕が避けた場所に土煙。

 けれどファビオは即座に魔法のスレッジハンマーを放って、今度はショートソードを突き出してくる。

 僕はそれを外側に弾いて、ボディーアッパーをぶちかます。


 ゴン!


 派手な音が鳴ったけど、浅い。

 ヤツは僕の拳を警戒していたようで、半歩間合いを開けていた。残念ながら、与える威力は半減だ。

「小僧!」

「あああああああ!!」

 魔法の剣が、ナイフが、ファビオの作り出したありとあらゆる武器が僕に襲いかかる。

 僕も応酬する。

 上中下の突きに、手刀。

 背刀打ちに肘打ち。

 膝蹴りに、フェイントを入れての後ろ蹴り。

 最初こそ相手が遠かったけど、徐々に、徐々に当たるようになる。

 ファビオの武器は尽きること無く迫ってくる。

 息つく暇も無くて、受けて一発反撃するのも精一杯。

 いつの間にか一足一刀くらいの間合いで、僕たちはどつきあい、斬り合った。

 もう嫌だと根を上げた方が負ける根比べ。

 ノーガードで殴り合うが如く、ドンドンとその速度があがっていく。

「さっさと死ね!」

 段々と苛立ちが見えてきた。

 いいぞその調子。

 さっきまで間合いを取りたがって長物しか出さなかったのに、段々鉈とか肉厚のナイフとか、間合いが短いものを乱発している。

 あと少し。

 あともうちょっと。

 コイツがへばるまで我慢……痛ッ!

「……! 血が出たじゃ無いかこのやろ!」

 僕もちょっとへばってきた。

 ファビオの魔法の刃物が大切な防具を裂いて、血が滲む。

 肩に、胸に、腕に。

 それはどんどん僕の急所に迫ってきている。

 チリチリと熱い線が僕に走る。

 斬られるって、掠っただけでもこんなに痛いのか。

 このまま耐えられるかどうか。

 無限の地獄の中にいるような気分。



 ――そして、見えた。



 魔法の武器を作らず。

 やってきたその瞬間。

 ファビオが目を輝かせて、グワッと右手を開いた。

 その手のひらは紫色に妖しく輝いている。

 あの生命力を吸い取るヤツだ。

 そう来ると思った。

 僕がそう誘ったから。

 剣の間合いからジリジリと近づいて、本当に気付かれないようにミリ単位で迫って。

 ロングソードからショートソード、手斧にナイフや鉈と変わって。

 そうやって魔力を消費して、ようやく僕に刃が通り始める。

 ヤツにしたら、ようやく巡ってきたチャンスなんだろう。

 それを――



「捕らえたぞ、小僧!」



 胸ぐらを掴まれるように、胸に手を当てられる。

 僕の肉を、鎧の手がぎゅううと掴んだ。

「この快感に抗える者はいない。貴様も私の理想の糧になれ!」

 やがて伸び上がってくるのは快楽。

 膝から力が抜けそうになる。

 この前のモノとは比べものにならない。

 前は体の端、しかもブーツ越し。

 今回はほとんど直触りで、心臓に近い。

 這い上がってくるモノが全部頭に向かってくる。

 ステータス表示をしなくたってわかる。

 今僕の力は、チートは完全に無効化されている。

 いやそんな余裕もない。

 気を張ってないとそのまま死んじゃう!

「うぅああああああああああ!」

「異世界転生者といえどただの人間だ! 何が世界樹だ! 私が! 国を憂う私こそが! 選ばれし者なのだ!」



「先生!」

「ケント! いやあああ!」



 剣戟の中から、二人の悲鳴が聞こえる。

 目の前から高笑いが聞こえる。

 誰がみても負けに見えるんだろう。

 僕は快感に負けて、萎れて終わり。



 ――()()()



 この快感、一度は跳ね返しているんだよな。

 今回のは確かにハンパない。

 粗相してないかなとか、他人事に思えるほど。

 ならどうするか。

 ゴリ押しもいいところだけれど、快感には苦痛で打ち消す。

 正直こればっかりはやりたくなかったけど。

 虚を突くなら、これしかないだろう。

 咄嗟に思いついた僕は僕を褒めたい。



「えへ、えへへ」



 快感とこれからやる事の恐怖で変な笑いが出る。

 ファビオは勝ち誇った顔をしていたけれど――

「な、何だそれは。貴様、何をする気だ!?」



「これ? アンタが僕達に撒いた餌――()()()()()()()



 僕が左手で握っていたのは、あの違法品エリクサー。

 蓋を開ければドブ川の匂いがして、一口舐めれば吐き気を催す味。

 さっきポケットに手を入れて思いついた。

 快感に打ち勝つならこれしかない。

 家族のためなら。

 この圧倒的不快感を、僕は甘んじて受け止めよう。

 ――いや正直に言うとこれ、殴られるより嫌だ!

 チクショウ!

 こんな作戦やりたくなかった!

 意を決して、小瓶の中身を口へ放るちっくしょおおお嫌だああああああ!



「うおうえええええええええええ! マァァズいいいいいいいいいいいい!」



 もう最悪しか言えない味。

 コレが地獄か。

 ぶっちゃけコイツの掴みよりヤバい。

 こっちの不味さの方で三途の川が見えた。

 っていうかこれ味なの?

 これ作ったやつバカなの何なの死ぬの!?

 鼻から突き抜ける不快感が僕を覚醒させる。

 舌がピリピリして、上がってくる胃液の方がまだマシ。

 けれど体の快感が全部吹っ飛んで、吸い取られるはずの体力が戻ってゆく。

 滾る。

 ものすごく滾る!

 ビンッビンに滾る!

 これが、これがエリクサーの効力!

 いやこのくらいアガってこないと、地獄を味わった意味が無い。

 そして僕には解る。

 ステータスウィンドウを開かなくても、僕のステータスが全快しているのが解る!

 吸い取られてもあまり有る力が、僕の腹の底から登り上がってくる!

「何いぃいいいいいい!?」

「マズい! もう飲まない! けどオイシイ位置に来た!」

 さあ、奥義ってやつを見せてやろう!

ゲロマズの中に勝機あり!


「面白かった!」「続きが気になる!」「ナイスカロリー!」などありましたら、ブクマや★★★★★などで応援いただけると嬉しいです。

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