第65話 力とは納めるべくしてあるもの
あのジジイ、いよいよ言葉も怪しくなってきた。
理想だの美しい世界だの言ってる中で、自分だけが身も心も悪魔に成り果てているのは一周回って滑稽にも思える。
僕、良かった。力に溺れないで。
チートスキルだって調子こいてたら、行く果てはあんなのかも。
力は、武は修めて、そして『納める』もの。
空手だかでは『血気の勇を戒めること』とか言うんだっけ?
ありがとう動画の師匠達。
精神論だと馬鹿にしてたけど、ああいう格言はこういうヤツのためにあるんだね。
「哀れな。あの『デモンズメイル』に完全に取り込まれている。ケント、あれはもうモンスターです」
「……おい先生、あのバカ倒す秘策あるんだろうな? 先生の打撃が通じねえなら、俺倒せねえぞ」
殊勝なこと言うじゃん、と茶化そうとしたけど。
やっぱりギルは強者だ。ちゃんと戦力分析ができるんだから。
そのうち僕なんか簡単に追い越して勇者めいたことするんだろう。
さて、秘策と来たか。
あるっちゃ、ある。
けど、かなり接近する上に――多分、僕はただじゃ済まない。
アイツは今、僕の手の届く範囲はかなり警戒している。
潜り込むには自己犠牲が必要だ。
その上で、ハズレたらおしまい。
一か八かの勝負。
でも、ギルとノア、二人の援護があるならアリかも。
「近づく必要がある。周りの雑魚頼める?」
「つゆ払いは癪だがいける。おいノア。アンタもできるな?」
「当然です。もうケントのお荷物にはならない!」
拳を構える。
ギルが大剣を担ぐ。
ノアがロングソードを構える。
事態は仕切り直しただけで、尚も劣勢なのは変わらない。
でも何故だろうか。
こんな事になったら、昔の僕なら泣いて逃げ出したのに。
ギルに先生と言われて、ノアに頼られて――自然と手足に力が漲ってくる。
武術とは、人を打ち倒す技。効率よく殺す技。
でも、それは何でも同じ。
ハンマーで家具を作れもすれば、人も殺せる。ようは、どう使うかだ。
僕は正義の味方でも何でもないし、世界を救う勇者でもないけれど。
この手の範囲で守れるモノを守る。家族なら尚更だ!
「さア! 殺セ!」
ファビオの歪んだ声の号令に、儀典局の兵士達が雪崩のように襲いかかってくる。
指示するまでも無く、ギルが飛び出す。
グッと握りしめた大剣を横に倒して、横薙ぎ一閃。
切れ味もへったくれもない重量の一撃が、迫り来る隊列を切り崩す。
ただいくらギルでも振るうのは重量武器。
振り抜いた大剣の二の太刀を出すには数秒の時間がかかる。
その間に、後続の儀典局の兵士達が両サイドから襲いかかる。
「ノア!」
「言われなくても!」
ギルの背中から僕たちが飛び出す。
彼に槍を突き出そうとしたヤツに渾身の一撃。
僕は槍を払いのけ、柄に沿って体を入れ込む。
直前で体をひねり、背中から体当たり。
――貼山靠。
ゲームが好きな人なら、鉄山靠と言った方が解るかな?
ギルの戦い方を見てヒントになった。
固まってくるなら、誰かを吹っ飛ばして巻き込めばいい。
強かに背中からぶつかると、兵士はくの字に折れて吹き飛び、さらなる後続を巻き込む。
まるでボーリングのピンのように崩れてゆく。
相手が列を成していたなら、こうはならなかった。
陣形に必要な人数が減って、今や殺到するように襲いかかるこいつらはもう烏合の衆と同じだ。
「はぁああああああ!」
ノアを見ると、僕と同じ結論に達したのか突き出した肩から兵士にぶつかる。
そして電光石火の早業で、相手の内ももに一撃。
たたらを踏んだ兵士を蹴飛ばして、僕のように後続に突っ込ませていた。
「二人ともどけ!」
バッとギルの背後に引く。
ギルが再び踏み込む。
今度は逆からの横一線。
命を省みず突っ込んでくる兵士が、またなぎ倒される。
けどまだ兵は残っている。その後ろにはピンピンしたファビオが腕を組んでいる。
「ラチがあかねえ……先生! 飛べ! あのアホ面蹴ってやれ!」
一瞬意図が分からなかったけれど、ギルが振り抜いた大剣を再び背中に背負い、切っ先を地面につけて大剣の腹をスロープのようにしてくれた。
ノアもハッとしてギルの正面に立って護っている。
「ケント! 彼は私が!」
「ありがとう二人とも! まっかせて!」
正面を見る。
ギルの背中越しに、ファビオが余裕の表情でこっちを見ている。
その魔王ヅラ、あっと言わせてやろうか。
そう思った時、僕はとっておきの『武』の引き出しを開ける。
踏み出す足は地面と水平に。
まるでホバーのようにして地面すれすれを滑る。
後ろ足は力まないで、前足が地面に接地するか接地しないかのギリギリで浮かせて前に出す。
地面を蹴らず、体重移動をドンドン前に加速させてゆくこの歩方。
多分剣で台を作っているギルにはいきなり僕が近づいたように見えただろう。
「は、速っ! 先生なんだそりゃ!?」
「古武術――縮地ってやつさ!」
あっという間にギルの剣を駆け上がり、大ジャンプ。
「――!?」
砲弾のように射出された僕に、ファビオは度肝を抜かれたようだ。
「いやああああああああああああ!」
自分でもビックリするほどの声が出た。
でも、ここが勝負所だから。
プラスになることは何でもやる。
力を漲らせて、思いっきり右足刀を突き出した。
その厚い脂肪の中に秘策有り
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