第60話 ご託はここまで
「生存と淘汰、その上での弱肉強食。つまりそういう事だ。肉にならぬものは腐るだけ。保冷庫の端の肉が腐り、小さな果実は爛れ萎びるのは汚れるだけ。この国がまさにそう。あの勇者爵のいるスラムがそうだ」
ギュッと握るミスリルの小手が、ビシリと鳴った。
多分握りすぎて端っこに亀裂が入ったのだと思う。
「下賤な民だけじゃない。今の王宮は腐りに腐っている。長く平和ボケした連中はより大きな権力に媚びへつらい足を引っ張るだけ。王も玉座で何もせず、ただただ美しい国が汚れているのを座視するだけ。私にはもう我慢がならない!」
「だから宝物庫のマジックウエポンを使うですって。貴方はその美しい国を戦禍に巻き込む気ですか!」
「全ては理想を叶えるため! 我々儀典局はこれより維新の騎士となる!」
ガッと演説をするかのように拳を振り上げるファビオ。
背後の儀典局の兵士たちも一糸乱れぬ挙動で剣を掲げて「応!」と応えていた。
完全に酔っている。
自分が正義の使者だと本気で信じてるみたいだ。
前なら飲まれて、僕は何もしないクズだなとか思ったけど今は違う。
冷静に考えてみなよ。
このオッサン、盗んだ兵器を使ってクーデター起こそうとしてるんだ。
ただのテロリスト。
それ以外の何者でもない。
「狂ってるな。ここまで来ると」
「私は恥ずかしい。あんなのが貴族にいるだなんて」
「残念だよノア=プレストン卿。誘い出すために随分と遠回りをしたが……なるほど、策に乗ってみるのも悪くない。一度は偶然だが、二度はこうも周到なら罠にもかかるというもの」
……?
今こいつ策って言ったか。
つまり、エリクサーの事も全部誘い出す手段だったのか!?
どうりでおかしいと思った。
全部うまくいきすぎていた。
僕たちの発見や打開策が、まるでパズルのピースのようにはまっていたことを、なぜ気がつかなかったのか。
――もしかして、あの時。
本当はノアを路地裏で仕留めるつもりだったんじゃないか?
だってノアは「ここか!」と、誰かから聞いたような素振りを見せた。
となると、衛兵にヤツと通じていたのがいた、と考えるのが正しい。
けど僕が現れて、失敗して、あまつさえノアが衛兵に頼らなくなった。
今、わかった。
カーラさんは、ここまで読んでいたんだ。
内部犯……裏切り者がいることに。
ギルドで囲えばその脅威は無くなるからね。
その上で、ファビオはさらに策を練った。
いや、乗ったと言ったな?
まあいい、そいつは置いておこう。
奴は彼女を誘い出すために、今度はあの鎧の特性から導き出される悲惨な未来を僕達に予想させて、焦燥感を煽った。
エリクサーばかりが無くなったのも罠。
ここに来るしか無い状況を作ったのも罠。
あの闇市の長もグル。
……やられた。
ここじゃ、カーラさんにも連絡が取れない。
ノアも王国騎士団に助けを呼ぶこともできない。
僕たちがここで殺されたならば、ヤツはノア殺しの汚名を僕に着せて、スラムに入り込む口実すら作りそうだ。
でも。
だから、何だってんだ?
今ここでぶっ飛ばせば問題ないだろう?
「ケント?」
「ごめんノア、ここから見ていてほしい」
ノアが止めてくれたけど、一歩下がって退いてくれた。
あまりにも頭に来すぎて、逆に平静をたもっているから不思議だ。
これが一周回って、ということなんだろう。
僕が頭に来たのはただ一つ。
コイツを野放しにしたら、家族が危ない。
ファビオはテロ行為で理想に叶う者以外を剪定すると言っている。
スラムをゴミだのダニだの汚れだの言って目の敵にしてるけど、それだけじゃない。
多分こいつはもっともっと人を殺す。
自分の理想以外を認めないというのはそういうこと。
理想を人に強いた末路がこんなになるなんて。反吐が出そうだ。
「小僧、何のつもりだ。まだ無駄な戦いを続けるつもりか?」
「無駄かどうかはやってみないとわからないでしょ。それよりさ、その歳でそんな事言って恥ずかしくないのオッサン」
「何だと!?」
「結局やりたいことは自分だけの世界を作りたいでしょ? で、反対するヤツ気に入らないヤツは殺すと。バカなのアンタ?」
「……!」
「僕の世界では『大きな力はより大きな責任を伴う』って言葉がある。ノアはしっかりと責任を果たしてる。アンタはそれを放棄して、あまつさえ刃物振り回そうとするアホ。駄々をこねる子供と同じだ!」
煽るだけ煽ってみる。
こういうプライドの高いヤツは、主張を馬鹿にされると烈火の如く怒る。
ほら来た、青筋がビッシビシ立ってる。
「貴様……やはりスラムの糞だめはさっさと掃除しておくのだったな。口も悪ければ態度も体も大きい。この王国は! この理想郷は! あんなクズどもが生きていい国じゃない!」
背後の部下達が呼応するように、ガチャガチャと武器を構えてる。
ファビオも仁王立ちして、魔王かくやとばかりに見下ろしてくる。
でも全然怖くないのが不思議だ。
正直、あの鎧の打開策は全くと言って良いほど思い付かない。
反撃される前に死ぬ寸前の打撃を叩き込んではみたものの、予想外の耐久度でケロリとしてるんだもの。
それに数。
周りにいる連中は寄せ集めじゃない。
ファビオを始めとして、ノアの言う王国式の剣術をしっかり修めた人たちだ。
同じ数でも質と脅威が全然違う、圧倒的に不利な状況。ちょっと前の僕なら、
「あ、あははすいません。ちょ、ちょっと口が。何でもないです。僕みたいなのは確かにゴミですよね。ゴミ通りますすんませんこの通り逃してください……」
なんてヘコヘコして誤魔化そうとするんだけど。
「御託はいい。さっさとかかってこい!」
ガタガタ言う前に殴れば良かったのだ。
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