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ぽっちゃり転生は二度美味しい! ~武術と料理で異世界無双~  作者: 西山暁之亮
第六章 死闘? 何それ美味しいの!?
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第59話 健全で正常な社会というもの

 ノアの震える指の先。

 さっきまで大の字で伸びてた鎧の男がいきなり動き出した。

 相当な力で蹴り、殴ったはず。

 人に当てれば確実に死ぬ――そのくらいの力でやったのに!?



「なるほど、なるほど。確かに強い。()()()()()()()()嘘というわけではなさそうだ」



 起き上がった、その顔。

 厳つくて常に眉間に皺が寄っている初老の男。

 首元から察するに、そこそこの歳なのにかなり筋肉質な体をしているはず。

 鷲のような全てを見下ろす目に、極太の眉。

 マチズモにそのまま手足が生えたような威圧的なその男は――

「貴方は! まさかファビオ=ダラス!?」

「マジか。ノアと王宮でバチバチやってたオッサンじゃん!」

 ファビオ=ダラス。確か序列第三位の『王の儀典長』だったはず。

 ノアに出会うなり私の妻になれとか、頭おかしいんじゃねえかと思ったヤツだ。

「魔王軍の軍勢を単騎で止めたこの鎧の、兜を脱がせるとはな」

 顎に手を当てて、僕のことを値踏みするように見つめるファビオ。

 あれだけのコンボを叩き込んだのにピンピンしている。

「貴方は! 何をしているのかわかっているのですか!」

「わかっているともプレストン卿。これは全て私の理想のための行動だ」

「オッサン、その鎧で暴れるのが理想だっていうの? 何考えてんだアンタ」

「小僧。口の聞き方に気をつけろ。誰にモノを言っていると思っている」

 何だこいつ。

 まだ儀典局の長のつもりで話しかけてくるのか。

 もうとっくに犯罪者だってのに。

 盗人猛々しいとはまさにこの事だ。

 ファビオが突然、ザッと手を上げる。

 するといつの間に近寄ってきたのだろうか、観客席から次々と武装した集団が闘技場に降りてきた。

 ピッカピカに磨かれた鎧を着込んだ兵士達。

 足並みもビシッと揃っていて、ファビオの背後に集まっては綺麗な隊列を組み、流れるような動作で防陣を組んでいる。

「儀典局!?」

「ノア=プレストン卿。貴方はここで死んでもらう。安心するといい。ちゃんと闇市の取り締まりの末に命を落とす。貴方の名誉は保たれる」

「周到だねオッサン。何が目的? ノアにフラれた意趣返し? それとも貴族を少しずつ間引いて国家転覆でもするの?」



「――何故それを知っている」

「へ?」



 え、テキトーに言ったのにマジで国家転覆すんの?

「まあいい。お前が知ろうと知らないだろうと結果は同じだ。だが一つだけ。転覆ではない。浄化だ。この薄汚れた王国を私が完璧な姿にする」

 いやいや。

 アホなのかこの人は。

 でも目がマジだ。

 マジというか完全にイッちゃってるひとの目。

 何かおクスリでもキメてるのか?

「馬鹿な。国家転覆など、王国騎士団が黙っているハズがありません。かつて魔王軍を跳ね除けた末裔達! たかだか儀典局が反旗を翻そうと――」

「だから、だ。貴方が必要なのだよノア=プレストン卿。正確には貴方の鍵だ」

「何!?」



「かつて魔王軍を押し退けた『宝物』――比類なきマジックウエポン達。それらを使い、王国騎士団もろとも対抗勢力を押し潰す」



 言葉も出なかった。

 ノアもあまりの事にあんぐりと口を開けていた。

 馬鹿げている――と思ったけど。

 もしかしてこれ、けっこう効率のいい、それでいて相当ヤバい()()()()なんじゃないか?

 ノアが管理している『宝物庫』は、名前とは裏腹にほとんど武器庫に近い。

 その処理一つで外交問題に発展するほどのヤベーやつばかりが格納されている。

 中には『デモンズメイル』みたいに魔王軍を押し返したものもある。

 それらを全部使ったならば、なるほど確かに国家戦力に匹敵する。

 世迷言に聞こえて、その実本当に国家転覆もできるんだろう。

 鍵は常にノアの胸の中。

 彼女は達人でありVIP。

 影で襲っても正面から襲ってもリスクが高い。

 ――だからこんな搦め手を?

「ふざけるな! 貴方は『宝物』が何なのか理解していない! あれらの危険性は国の中にとどまらない。下手なことをすれば隣接する国にも! この大陸にも危険が及ぶものもあるのです!」

「貴方こそ理解していないよプレストン卿。力を持ちながら何故理想に使わない!」

「理想だと。法から逸脱して、人々を命の危険に晒し、国を脅かすそれが理想なのか!」

「全ては些事。それに私は人の命を奪った覚えはない」

「何を、言って――」

「私は、この王国の()()を潰し回ったまでのこと。むしろ理想の養分になれたことを、誇りに思ってほしいくらいだ」

 こいつハッキリ言った。

 しかも真顔で。

 自分が手をかけた命は、ダニだと言い切った。

 人の命じゃないって言い切りやがった!

 ……確かにコイツの被害者は、札付きのワルが多かった。スラム街でも厄介な奴らを片っ端から吸い取った。

 でも、時にはただただ居合わせた人も入っていた。

 ニック達が集めた情報を流して見て、顔を顰めたから覚えている。

「ダニ、か。アンタ人のことダニって言ったのか」

 ぎゅううと、握る拳が強くなる。

「なんだ小僧。命を大切にとでも言いたいのか?」

「アンタはそうママに習わなかったのか?」

「学がないようだ。貧しきものが飢えて死ぬ。持てるものが栄え、国を回す。それが健全で正常な社会というものだ。私の餌になった人間は、その自然淘汰よりも遥かに少ない。つまりは、全て些事だ」

 最初のくだり、どこかで聞いたな。

 極端な帝王学だか何だかにあるんだっけそういうの。

 動画流してたらたまたま聞いただけだから、よく知らないけどーー。

 ハッキリ言って、クソッタレな考え方だ。

 お前はマクロ経済学学んで全部を知った気の大学生かよ。痛いぞ。

 そんなのが健全と言うなら、その社会とやらに追いやられた、割を食う人の気持ちはどうでもいいのかよ。

 弱いから、劣るから、無駄だから。そんな小さな物差しで線引きしていいのかよ。

 ――僕もそういう、割を食う方の人間だった。

 見た目で不満の吐口にされる、エスケープゴートみたいなもの。

 袋叩きに合うのは、太っているやつの自己責任――そう言われたら今なら全力で殴りたい。

 百歩譲って、劣っているから馬鹿にされるのはまだいい。比較も競争も優劣も、絶対にどこの世界でもあるんだから。

 でも殺していいだなんて。

 人の命にカウントしないだなんて。

 そんなクソな理由は、この世界のどこにも無い!

さては異世界意識高い系だなオメー。


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