第56話 良薬口にゲロマズ、ホーリーシット!!
あのマフィアの連中、本当に元気いいな。
あとはバーゲンセールの有様だよね。
その上アクシデントには慣れているのか、みんな撤収の早いこと早いこと。
「ぶっげえ!」
ドサッと落ちてきたのは、魔法の手錠がかけられた狒々ジジイだった。
鼻血出してヒーヒー言ってる。
さっきの威勢はどうした。
人っていつまでイキっていても、結局最後の最後で地が出るんだね。
ここで「ハラァくくった! 煮るなり焼くなり好きにしろィ!」とか言うならまだ許せたのに、こんなに情けないと一周回って同情しそう。
「まったく……こんなのがバレたらどうするんですか」
剣を納めたノアが戻ってきた。
その手には趣味の悪い派手な布に包まれた箱がある。
「いいじゃん。全部このジジイになすりつけておけばいいし。それがエリクサー?」
ノアが箱を開けると、そこには小綺麗な小瓶が何個も入っていた。
一つ手に取ってみると、意外と小さかった。
コンビニに置いてある栄養ドリンクの一番小さくて細いヤツの大きさだ。
違法品のくせに、一丁前に瓶にも装飾がしてある。ヴィクトールの持ってたものよりも上級品という事なのだろうか。
いやま、違法品なのに上ものも下の下もないんだろうけど。返して言えば、そのくらい需要がある物なんだなとも思える。
「へえ、これがエリクサーなんだねえ。どんな味がするんだろう?」
「あっちょっと待っ……」
ノアが静止するその前に、コルクの蓋みたいなのを開けて、蓋にちょっとついたのを舐めてしまった。
僕みたいな人種は、食べ物や飲み物に対してだとものすごく無駄のない挙動をする。
人が止める間なんて無いくらいに。
多分ボクサーのジャブより早い挙動でだ。
そして今、それが裏目に出た。
「うっおまっっっっず! おうえええええええええええええええええええ!」
……すんごい味だった。
そもそもこれは味として表現して良いのだろうか。そのくらいのレベル。汚い言葉で言うとゲロマズだ。
苦いとか辛いとか渋いとか、そういうマイナスのものを全部煮詰めて排水溝に捨てたのをもう一度凝縮したような味。とにかくひどい。酷すぎる。この世の悪意が液体になった感じ。
匂いもドブ川そのもの。鼻に抜ける不快感が鳥肌を立てる。
数滴なのに舌もピリピリするし、唾液と混ざったらゴムタイヤのような匂いも混ざってきた。
ギリギリ毒じゃないってレベルだけど、拷問と似てる。
こんなものを飲むなら死んだ方がマシだと思えるものだ。
でも悔しいかな、ちょっと体が軽くなって、肩こりが良くなった気がする。
流石はエリクサー、即効性があるんだな。マズいけど。死ぬほどマズいけど!
そういえば昔動画で見たことあるな。元の世界でもエリクサーは本来ものすんごい臭いって話だ。
いやま元の世界で実在したのかはおいといて、良薬口になんとやら。効果と味は反比例するんだね。
「ケント、大丈夫ですか? 止めようとは思ったんですが……」
「い、いいよ。僕のせいだし。ちょっと回復した気がするのが悔しい。金輪際飲まないからね」
「最後の手段ですから。しかし効果は凄まじいものなのです。この違法品でも、私の【完全鑑定】によればほぼ同等の効能を持ってます」
「欲しい人なら喉から手が出るほどほしいものだろうなぁ。何にせよ、これであの鎧も――わっぷ」
不意に。
ノアがいきなり抱きついてきた。
ビックリして息が止まるかと思った。
いい匂いが鼻腔をくすぐる。
ギルドで美人耐性がついたと思っていたけれども――やっぱり彼女は飛び抜けて美人だ。
「こ、怖かった。貴方があのドラゴンにやられるとばかり」
擦れる声でノアがそう言った。
そりゃそうだよね。
僕もぶっちゃけ怖かった。
ノアは剣の達人かもしれないけど、鉄火場に入ったことはこれが初めてなんだ。
その上僕のために色々と耐えてくれた。
張り詰めていた緊張の糸が解けたんだろうね。
こういう時、イケメンなヒーローなら何て言うのだろうか――
いいや、やめた。
僕は僕だ。
「僕はちっとやそっとじゃ死なないよ。多分」
「……拷問しても平気ですものね」
「そのジョーク、君が言う?」
後ろに回された手がキュッと強くなった。
ここでバシッと何かを言えれば良いのだけれども、ラブコメ初心者かつ非モテな僕はそう簡単に気が利いた言葉が出てきません。
頭を撫でてみる。
許された。
ならもう少しだけこのまま――
「ケント」
耳元すぐそばで囁かれて、さらに強く抱きつかれた。
おいおいなんかノア――めっちゃ寄りかかってこないか。
グイーッとそのままのしかかられる。
彼女の胸当て越しに豊満な胸の柔らかさを感じるレベルでだ。
……え、何?
僕、ここで押し倒されるの?
いや確かにここには誰もいないし!
ジジイはもう目を回してるけど!
クリーピーちゃんは「え、コウビすんの?」みたいに首を傾げてるけど!
待って待って。
こんなところで情熱的過ぎるって――
「危ない!」
「へぇ!?」
間抜けな声を上げて、ガッと押し倒される。
砂場だけど後頭部を思いっきり打った。
何が起こったのと言う前に、ノアがぎゅっと頭を守る。
「ぎぃやあああああああ!!」
ハッとして横を見ると、ジジイの胸に何かが刺さっていた。
これにて第五章は終了。続いて最終章である第六章が始まります。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
最初は趣味で書いていた物語も結構な量となり、ブクマも評価も増えてとても嬉しいです。
正直言うと流行から外れているのであんまり読まれないかな~と思ったら徐々にPVも増え始め、感想も頂いて本当に嬉しかったです!
ここいらでブクマや★を頂いて、ググッとランキングまで押し上げて頂けたなら筆者はものすごく喜びます。多くの人に読んで貰いたい! 是非是非よろしくお願いします!
皆様に応援されて連載した本作、最後までケント君の活躍をお楽しみ下さい!




