第51話 理想のカタチ、ヒロインの気品
「答えて下さい。私は頭がおかしくなりそうだ。私は恥ずべき事をした。もう没落かと思った。カーラ卿に身ぐるみ剥がされることも覚悟した。なのに! あんなに美味しいご飯を毎日毎日! 何故!」
えええ、そこまで僕のご飯って悩ませてたの?
ムキになって本気を出したせいかな。嬉しいやら悲しいやら。
うーん、答え辛いなあ。
……飾ったところで仕方が無いから、正直に答えるか。
「わかんない」
「わからない!?」
「僕の思う理想の武術家は、そういうのじゃないから」
自己満足の極みだと言われたら、甘んじて受け止めます。
でもこんな僕には理想しか無いからね。
元の世界で卑屈になって、顔色を窺ってでもそれなりにやっていけたのは、常に映像や創作物に僕の理想があったから。
弱気を助け、強きを挫く。
たとえ恥辱を受けようとも、相手が改心したならば手を差し伸べる。
得た力を壊すことに使わず、助ける事に使う。それが僕の思う武術家。
笑われたっていいよ。
結局僕が知識をため込んだ武術は人を殺める技。
残忍で狡猾で卑怯で心の無い方が強い。世の常。
そんなルールの中でも自分を律してスマートに勝てるなら、その方が格好いいじゃん。
だから、僕は理想の武術家の先生がやる事をしたいだけ。
「理由なんて無いよ。僕がそうしたいだけ」
前はそうしたいのに、できなかった。
今だってスキルが無ければずっとビクビクしていただろうけど。
ふとカーラさんの言葉が重なったような気がした。
アホだなと思う。
僕はスキルがあるだけのただのデブなのにね。
言葉が過ぎる。
身の程をわきまえろってね。
ヒーローはイケメンがやるべきだ。
わかってますよ。
「拷問をしたのに?」
「もういいよ。因みに。内緒だけど僕これでもエキゾチックスキル持ち」
「!?」
「君がいくら拷問したところで、痛くもかゆくもない。僕もほとんどマッサージだった。黙ってて悪かったけど、カーラさんに上手にやられたね」
「……そう、ですか。そうだったんですね。あはは」
顔を上げたノアの頬に、つーっと一筋涙が出ていた。
やべえ。
何か変なこと言っただろうか。
「卑しいオークは、私でした」
「どどどどどういうこと!? 僕何か変なこと言った!?」
「何でもありません。さあ、長とやらに話を。できたらここにあるエリクサーを全部頂いて行きましょう」
それまでおっかなびっくり、時には子供みたいに感情を露わにしてたのに。貴族根性丸出しの悪役令嬢かと思ってたのに。
今のノアにはちょっとだけ、ヒロインめいた気品がでてきた。そんな気がした。
★
「エリクサーねえ。確かにあるぜぇ」
ぷかぷかと水タバコを吹かす老人が、ドラゴンの頭骨で出来た豪華な椅子に座っていた。
両脇に半裸の美女侍らせてる。いかにもって感じだ。
眼光が鋭い短髪白髪の老人。
この人が闇市の長か。
おっかねえ。ヤのつく人の親分じゃん。
「僕はケント。こっちはノア。ギルド『灰狼』の冒険者です」
「聞いてるぜぇ。カーラからも、ウワサでもな。何でもスゲえ使い手だそうじゃねえか。ええ?」
「ただの武術家ですよ」
「ただの、と来たか。おめえさん、抗争を一つ潰したそうじゃあねえか。たった一人で。殺すかと思いきや、双方ゲンコツで納めやがったと。シビれるねえ」
水タバコを再びぷかーっと吸っては吐く闇市の長。
口では僕の事を評価しているように聞こえはするけど、何だか値踏みをされているような、そんな視線だ。
「それでだ。今お騒がせの吸血鬼野郎が、何でかエリクサーを欲しがってる。もう街の在庫がねえから、ここに来たって事だな?」
「……もしかしたら、その吸血鬼がここを狙ってるかも。僕たちはそいつの身柄を抑えたい。だからエリクサーを譲ってくれませんか」
今のところは吸血鬼ということにしておく。
あれが宝物庫から盗まれた鎧っていうのは秘密中の秘密だからね。
「言い値で払いますよ。何なりと。こちらはそれなりの報奨金を貰っているので」
お、何か凄い。
ノアが完全に冒険者を装ってる。
しかも堂々としているから凄みも出てるし、百戦錬磨って言われても解らないかも。
暫くの沈黙の後、闇市の長ははぁーっとため息交じりで煙を吐き出した。
「やだねえ、金、金、金って。俺を誰だと思っていやがる。この闇市を一手に率いる男だぞ。何だおめえら、俺が残りのエリクサーがめてつり上げようって腹だと思ってんのか。ああ?」
どこだよ怒りポイント。
と、思ったけどこれ怒ってないね。顔が嘘ついてる。
これで僕たちがどう出るかを見てるんじゃないかな。
うーん、参ったな。
僕こういうの苦手なんだけど。
「吸血鬼が来ても備えがあるから大丈夫、ということですかね」
「ハッ! 今さら何が吸血鬼だよ。逆にエリクサーを餌にして返り討ちにしてやらあ。見ろ」
長が指を鳴らすと、ゾロゾロと出てきたのは屈強な男達。
身に纏うのはいかにも聖なる装備みたいな感じの鎧と槍。
白銀のフルプレートに身を包んだ彼らは、誰も彼もが強者なのは見て解った。
「……破魔の祝福に、不死殺しの槍。ドレインバスターの剣に、銀の杭」
「おお、何だ姉ちゃん。鑑定スキル持ちかい。その通りだ。ってワケでご足労願ってなんだが、間に合ってるよ。カーラに伝えとけ、舐めんなってな」
「別に舐めては無いですけど……」
「あぁ!? テメエなんだ。俺に口答えするってか?」
この人……いや。
このジジイ、典型的な親分タイプだ。
めんどくさ。
話を聞いているようで最初から聞いてない。自分の言葉を聞くか否かの輩だ。
主の空気を読んでか、側近のゴリゴリマッチョが僕の胸ぐらを掴んできた。
これで僕の顔に一発か二発入れて、「はひぃ! すいませんでしたぁ!」って言わせるヤツだね。ついでに僕のウワサが本当かどうかも試してる。
なら、ちゃんと応えるけど。
正当防衛ってことでいいよね?
ということで、反撃させて頂きます。
いきなり雰囲気が変わったノアに少しドキドキするケント君。
自身も変わっていることに気付くのはいつだろうか。
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