第50話 同じ釜のメシを食うということ
ブツだけじゃない。何やらステージ会場まであって、スケベなお姉さん達が際どい防具とかローブとか来てファッションショーみたいなことしてる。
奥では金網で四方を囲まれた特設リングみたいなのがある。闘技場なのかな?
なるほど、確かにこの規模はマフィア達が出品したくなる。
人もかなりいるし、仮面で隠しているけど完全に貴族めいた人もいる。多分すごい量のお金が動いているんだろう。
「こ、こんな規模の闇市が!」
クラッとよろけるノア。
そうか、彼女『王の宝物番』だもんね。
違法品やご禁制のものには敏感だし、持ってるスキルで何もかもお見通しだからね。
「これは森エルフの結晶剣!? こっちは影龍の鱗で出来た盾!? 何でこんな所に一級品の武具が!」
目玉品とか、今夜限りとか書かれているものに驚いては倒れそうになるノア。
ちょっとそんなんで大丈夫か。
酔っ払いみたいな足取りになってるぞ。
「凄い事なの?」
「これらは最低でも金貨五、六枚ほどの価値があります。一個二個ならいい。その程度は。でもココにある量は尋常じゃない! どうして? 何でこんな所に!?」
えーっと、待ってね?
頭の中で計算する。
僕が前B級モンスターのコボルト倒して出てきた魔物石が確か、サーラの村で換金するの難しいって言ってた。月初めなら何とか、とかも。
何でも質の良いものは金貨一枚か二枚に相当するんだって。
で、その金貨一枚だけど大判の銀貨一〇〇枚で交換できる。
大判の銀貨一枚がだいたい感覚で一万円か、高くて二万円くらいだから……
……え”!?
ここの商品、最低でも五百万円くらい!?
そこそこの高級車買えるじゃん!
そんなに高いの!?
待って待って出店の中でそれ級一個か二個、貴族っぽい人が集まってる所なんてそんなレベルばっかなんですけど!?
……あ、お安いのもある。バルク品じみた何かなのかな。
いやいやそれでも多いって。流石は闇市って事なのかな。
「なんという事。こんなのが溢れかえっているだなんて。す、すぐに……むぐ!」
ノアが不意に、剣の柄に手を伸ばした。
やっぱりやりやがった!
僕はすぐに手を伸ばして剣の手を制する。
もの凄い力だった。
多分自分の役目がそうさせているのだと思う。
彼女は宝物番であり、よからぬ物を正確に鑑定して時には封印、廃棄する者。
それは王国のものに限らず、王国に入り込んでくるものも対象になるはずだ。
だからだろうか。
この光景は僕が思うよりショックだったんだと思う。
こんなに溢れかえってる現実を見たら、自分の役目の意味がわからなくなるものね。
まあそれはそれ。
これはこれ。
今騒ぎはダメだっての!
「ちょっと! 今なんか変なこと言おうとしたでしょ!」
思わずノアの口を塞ぐ。
闇市の客や出店の店主達は不思議そうな顔をしていたけれど、すぐに興味を失っていた。
「……ぷはあ! 何をするのです! 私は! 役目を!」
「落ち着いて。今お役目とかで力振りかざしたら、せっかくの手がかりがパァでしょ。僕たちのために『灰狼』の連中が駆けずり回ってくれたんだよ!?」
「しかし!」
「僕たちだけじゃない。君の臣下もそうだよ。エステルに足刺された衛兵の事覚えてる? あの人達の痛みもパァにする気なの? そもそもこの件、人が死んでるんだよ?」
「うっ……」
「ノアの目的は『デモンズメイル』でしょ。何のために冒険者のフリしてると思ってるんだよ。その剣に誓ったのなら、落ちついてよ。ね?」
そう言うと、少しずつ興奮が収まってくるノア。
柄に当てていた手をゆっくり下ろした。
手を離しても叫ぼうとはしない。
深呼吸して落ち着きを取り戻そうとしていた。
「……。解りました。本当に今回だけです」
「そうだね。今回だけ。頼むから変なことしないでね。僕護り切れないよこの規模は」
「護る、ですか」
またノアの足が止まった。
何だよもう、と振り向いたけど……彼女の顔はいつになく真剣だった。
「……何故です」
「?」
ノアは震える手でギュッと拳を握っている。
「貴方は私が嫌いのはず。さっき止めなかったら、私は捕まり、もしかしたら辱めを受けていたかも」
「そうかもね。司法なんてアテになんないだろうね」
「意趣返しでもすればいいのに、報奨金は半額前払いしています。貴方は私を捨てても得がある。でもそれをしない」
「そうだね」
「そもそもカーラ卿も。あのギルドの連中も。嫌いと言われながら刺されたり、男共に押し倒されたりはしなかった。それどころかゴロツキ共はあんなナリで礼節があった。何故ですか。貴方を拷問までしたこの女を、何故」
めんどくさいな、とは吐き捨てられない。
もしかしてこれが、さっきから歯切れの悪かったーーいや、ギルドを出てからちょっと変だった理由なのかな。
つまりは。
贖罪の気持ちが出てきた。
そういうことなのかも。
この数日間、ノアはたしかに仮初めの冒険者だったけど、同じ釜の飯を食べて何か変わった。
僕は彼女の顔ずーっとみてたから解る。
眉間の皺も取れたしネ。
ご飯ってそういう力あるよね。
いがみ合ってても、初めましてでも、美味しければ通じ合う。
あのおバカ達もしきりに、ノアが食べたときのリアクションを気にしていた。
貴族様でも同じ事を感じるんだ――そう言わんばかりに。
彼女もまた、そんな事を感じたんじゃないかな~と、僕は顔を見てそう分析していた。
カーラさんはこれを教えたくてノアを冒険者の格好をさせたのかもしれないね。
一人で空回ってる人を見かけたら、手を差し伸べずにはいられない。
あの人はそういう人。
もしかして、僕にバディを組ませたのもこのため?
いやいや、考えすぎか。
超能力者じゃないんだぞ。
さて、そんな彼女にどう答えればいいのやら――。
「カタログはこちらです!」「魔導書の新刊売り切れましたー!」「割り込まないで下さーいゴーレムが排除しまーす!」「水分と栄養補給はこまめに! こちらにポーションあります!」「サキュバス種はここで致さないで下さい! 搬入路の邪魔です!」「誰かスライム落とした方ー!? 性癖が形で残ってますよ!」「あら坊や、闇市は初めて?」
「……なんかあそこだけ別次元で盛り上がってませんか? 並んでるのは薄い……本?」
「ノア、あそこは多分別のお宝があるところだよ」
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