第48話 あやしいブツ達が集まる場所
ノアもその危機に気付いたようで、顔が青ざめていた。
皆もこの異常事態に気付いたようで、ずーんと暗い空気が流れ始める。
「……でも、エリクサーが手元にあれば、相手をおびき寄せることができる。ヴィクトール、作れない?」
「残念なことに。吾輩の専攻は爆発物と劇薬で」
お前の方がテロリストなんじゃないか、というツッコミはノドから出かけて止めておいた。
「じゃ、じゃあノア、宝物庫とかに無い? 余りくらいあるでしょ?」
「残念ながら『宝物庫』にはありません。あるとしたら王国騎士団ですが、こちらは将校が持つのみ。余分なものはないでしょう。あとは序列第三位、『儀典局』ですかね」
儀典局と聞いて出てきたのは、あの辻プロポーズして来た厳ついオッサンだ。
世が世なら独裁者とかそんな感じの大貴族。
あんなのがエリクサーを持っているだなんて。
「ファビオのオッサンが?」
「儀典とは国内外に王の威光を示す祭りの一つであり、同時に王を始めとした重要人物達が最も危険にさらされる場。『儀典局』はもしものためにエリクサーを所持しているハズですが……その……」
「言いたいことは解るよノア。あの堅物、貸してなんて言っても貸してくれるヤツじゃあない」
「その通りですカーラさん。ダラス卿は一切の例外を認めない男。何のためにと詰問されてしまったなら最後です」
ついでに言うと、あのオッサン二回りも若いノアに、王宮パワーゲームのアドバンテージ取るために求婚までしてきたヤツだ。絶対その辺りをチラつかせてきますね。
最悪その手を借りたとしてだ。
ノアが求婚を受けた瞬間、プレストン家の支払い能力がアイツに移動するんじゃないかな。
そんな時カーラさんがカネを請求したとして、果たしてちゃんと支払ってくれるだろうか。
「払ってくれないだろうね。それどころか、場合によっちゃたかったアタシらも立場が悪くなる」
「たかったのは自覚あるんですね。というかまた僕の顔に書いてあったんですか?」
「アンタは解りやすいね、ケント」
さいですか。僕の顔は電光掲示板か何かか?
それよりこの事態、もしかして八方塞がり?
うっそだろオイ。何か、何か無いの?
ようするにだ、あの鎧はエリクサーが欲しい。
けどもうそろそろ乱獲しすぎて無くなってる。
これ以上暴れるなら生命力の補填を今度こそ人で補うしかない。
おびき寄せるならエリクサーが必要だけど、手に入らないのは僕らも同じ……か。
思わず頭を抱え始めた、その時だった。
「ん!」
腕を伸ばしたのは、またもやエステルだった。
もっちゃもっちゃ咀嚼しながら片手でピッツァ持ってるのは絵になるね。
「エステル。ちゃんとゴックンしてから話してね」
そう言うとモシャモシャとしっかりと咀嚼して、コクンと飲み込むエステル。
一つ一つの所作がなんかエロいなこの子は。
本人としては普通なんだろうけどね。
「……エリクサーあるとこ思いついた」
グワッと、皆がエステルを見た。
「どこ!? どこそれ!?」
「先生。こないだの事覚えてる?」
「こないだって。いつ?」
「ゴロツキ三人くらい連続で絡まれたとき」
それ毎回じゃん。
思い当たるのがありすぎてハッキリと思い出せないけど、その後エステルが「コロッケ」と言ったところで思い出した。
「マフィア達が言ってた。闇市があるって」
「闇市?」
『――近々闇市がありますんで! ブツ運ぶときのお供してもらいてえんでさ!』
――言ってた。
そういや言ってた!
ブツを運ぶって言ってた!
ご禁制だの違法だの集まる場所あった!
「闇市。そうか、そういう筋があったか! 闇市なら、王都でハケない違法品のエリクサーが集まるじゃん! えらいぞエステル」
違法アイテムショップが店を開けないならやることは一つ。
それは、在庫を委託すること。
表に出せないブツが集まる闇市なら、間違いなくある!
「おー、あったあった。闇市への護送。こないだケントに渡そうと思ってすっかり忘れてた」
一端クエストボードから外された依頼の束の中から、妙に豪華な装丁の羊皮紙が出てきた。
マフィアとか暗黒街あるある、綺麗な文書。
裏社会の人達ほどこういうのしっかりしてるよね。
何でかって言われたら、礼儀上粗相したら相手の程度が知れると舐められるから。
これだけ聞くとなんか王宮のマナー合戦もそう変わらないような。
というか、僕の世界でもSNSで頻繁にこういうことある。
人ってどこにいても同じような戦いが起こるんだね。
それはそうと、良いこと聞いたぞ!
「でかしたぞエステル。確かに闇市! ああ忘れてた! チックショウ、俺あそこでいつも調子に乗ってサキュバス嬢に引っかかるのに!」
ニック……君、お祭りで羽目外すタイプなんだね。
「吾輩も失念していた。確かに闇市。あそこほど余ったエリクサーを捌ける場所もなかろうよ。しかし……吾輩、出禁になってるんだよなぁ……」
お前は何をしたんだよヴィクトール。
だいたい予想はつくけどさ。
グレネードポロッと落としたとか、毒物落としたとかそんなんだろ。
整理整頓しておけとあれほど言ってるのに。もう。
「次の闇市は……ははあ、郊外の廃ダンジョンか。そりゃ護衛を頼むわけだ。ケント、これに乗じる他ないよ」
羊皮紙の依頼を受け取って、マジマジと眺める。
まさか自分のやったことが、こんな所に巡り巡ってくるなんて思わなかった。
闇市はこんな感じでツテでもなければ入れないだろうから、鎧も簡単には来られないはずだ。
来たとしても流石に闇市側も対策してるはずだから、闇雲にゼロゾーンを歩くよりはマシだ。
「アタシから闇市の長に話は通しておこうか。先回りしてエリクサーをガメとくのも手だよ。餌を横取りするんだ。その後はゆっくり、腹が減ったヤツをおびき寄せればいい」
「買い付けは得意な方ですよ。ノア、行ける? 場所はスラムじゃない。ゼロゾーンよりも無法地帯だけど……」
「無論です。鎧を盗んだ輩を今度こそ剣の錆にしてあげます」
ズラッと剣を抜いて掲げるノア。
そのビシッとした佇まいは美しくもあり、剣のように鋭くもあった。
でも顔から今までの鬱憤を晴らしてやるって滲み出てるねこれ。
現地でいきなり大立ち回りしてヘマやらかさないといいなぁ……。
★
三日後の夜。
ゼロゾーンの奥、北西の端に勝手に作られた門から、僕たちは王都の外に出た。
「センセイ。こりゃまたべっぴんさん連れてるんスね~」
黒ジャケットのマフィア達がノアをジロジロみていた。
ノアは早くもそういうのに慣れたのか、ツーンとして取り合わず僕のあとについてくる。
背後には馬車隊とも言うべき列。
依頼してきたシンシアファミリーの『例のブツ』達が満載していた。
因みに中身を検めたけど、不思議なお薬とかハイになる錠剤とかは無かった。
何だかよくわからないアイテムばっかり。何個か高級そうなもの。
反面ノアは目眩をしていたけど、「い、いいです。今は……」と見逃してくれるようだ。
彼女の持つ【完全鑑定】だとまた別の世界が見えたのだろうか。
表に出せないブツというくらいなのだから、多分そうなのだとは思うけど。
「センセイともなると、女も勝手に寄ってくるんですかね。へっへ。今度俺たちにその武術教えてくだせえや」
「いいよ。今度またシンシアの親父さんにご飯作る約束してるから。その時ね」
「「「イヤッホォォォゥ!」」」
黒ジャケットの連中がぴょーんと飛び跳ねて喜んでいた。
このバカ共!
城壁の上の衛兵に見つかったらどうすんだ。
当然袖の下を渡して、この時間だけは見張りがいないんだろうけどさ。
「貴方は何故、そんなに慕われているのです?」
ノアが不思議そうに聞いてきた。
いやぁ、そんな事言われてもなあ。
こっちが聞きたいくらいなんだけど。特にこいつらマフィア共はね。
「さあ。僕はゲンコツ振り回して、ご飯作るだけしかできないし」
「――嘘をつかないでほしい」
なんでここ食い下がるんだよとノアの顔を見ると、何だか複雑そうな顔をしていた。
何気にマフィアにも慕われているケント君であった。
彼らの何人かはケント君のジャイアントスイングの餌食になったらしい。
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