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ぽっちゃり転生は二度美味しい! ~武術と料理で異世界無双~  作者: 西山暁之亮
第五章 貴族の令嬢? 何それ美味しいの?
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第47話 ただいま違法品の大特価セール中!

 例の『デモンズメイル』が、エリクサーを欲している。

 そう言ったヴィクトールはクエストボードに貼ってある王都の地図にペンでバッテンをつけていった。

 ただそれは、皆の情報と似たか寄ったかの足取りだ。

「ほとんど俺たちが集めたような感じじゃあねえか。なんだそのバッテンはよ」

「ここは違法に開かれたアイテムショップの位置。さてこれを、数ブロック分を半径にした円にするとどうなるか?」

 ヴィクトールがショップを中心にマルを描いていく。

「こ、これは……!!」

 するとどうだろうか。

 鎧の行動範囲が、その円の半径数ブロックに納まっている。

 それは『あっち側』も『こっち側』も同じ。

 日付をつけてゆくと、最初こそスラムから遠い場所ーー金持ちや上流階級向けの違法アイテムショップだったが、日を追う毎にゼロゾーンやスラムに近づいていた。

「ふむ。皆の情報の厚さで吾輩の推理が確信となった。『デモンズメイル』は他者の命を自分の力にため込み、糧として動く。対軍用に作られたなら、この街でゴロツキや札付きのワルを倒したところで雀の涙であるな」

「だからエリクサー。強引に回復、か。納得だよ。でもヴィクトール、違法って言ってもこんなにエリクサーがあるものなの?」

 ノアの言葉から推測するに、エリクサーは殆ど人前に出ないはず。

 違法製造したところで、値崩れするほどに作らないはずだ。

 なのに皆が集めてきた目撃情報と、ヴィクトールの示した証拠からバカバカ使っているのが目に見えてわかる。どういうこと?

「そこなのであるが、その。少し言いにくい……が、言わないとどうにもならないのであるな」

「勿体ぶらないで。パパッと言っちゃいなさいよ」

 モカがそう言うと、ヴィクトールが眼鏡をクイッと上げる。



「ならば言おう。この違法エリクサーの氾濫……実は先生が原因である」



 ヴィクトールが「誠に遺憾ながら」みたいな口ぶりで、そうハッキリと言った。

 バッと集まる皆からの視線がちょっと痛い。

 あとノアの「お前……信じてたのに……」みたいな絶望顔ほんとやめて。まだわかんないじゃん!

「覚えておられるかな? 皆も記憶に新しいだろう。先生はこの前、一つの抗争をたった一人で叩き潰してしまった」

 あったあった。

 大立ち回りした。

 もうアレ、二度とやらないからな。

「抗争は迷惑極まりないが、違法アイテムショップにとってはかき入れ時。なのに、先生が一人で全部解決したのだよ。見込んでいた怪我人はほぼゼロ。商売あがったりである」

「何、今余った劣化エリクサーがワゴンセール中ってこと? 先生のせいで? 何それウケるんですけど!」

 ヴィクトールが肩を竦めて是と言う。

 モカはゲラゲラと笑っていた。

 僕も思わずずっこけそうになった。

 僕のせいじゃないじゃん。

 いや、半分僕のせいか?

 だから最近、違法アイテムショップに在庫がいっぱいあった。

 そのせいで鎧がスラム内で動きやすくなってしまったということか。

「なら話は早いですね。その店に聞き込みをしましょう」

「それが出来ないんだなぁ、ノアの嬢ちゃん」

 少し引いたところで眺めていたカーラさんが口を開いた。

「カーラさん? 何故ですか?」

「そこんとこがお嬢ちゃんの失敗したとこでもある。いいかい、後ろめたい職業で一番重要なのは『信用』ってヤツなのさ」

「信用……」

「顧客情報をペラペラ喋るヤツはいないって事だ。例えカネを積まれても、世界平和に繋がることでもね。それに、こういう相手だ。生きてるかどうかもわからない」

「その通りですよママ。旧知は何とか生き延びておりましたがね。こことここ、それからここ。ゼロゾーンから特に遠い場所の店主はカラカラに干からびていました」

 ヴィクトールが眼鏡をクイッと上げて、残酷な現実を語っていた。

 改めて僕も現実を突きつけられたと思う。

 僕はチートスキルで強くなったけど、ここは異世界。

 元の世界よりも弱肉強食なんだ。

 生と死は常に隣り合わせ。

 僕でさえ、油断していればあっけなく死んじゃうんだ。

「既に情報が回っていたようで、違法ショップや闇ブローカー達は暫く雲隠れするとのこと。半分は置き手紙でもぬけの殻。エリクサー違法販売の筋を追うのは難しいかもしれませんなあ」

 そりゃそうだ。

 客かと思って箱出したら殺されるとか。

 たまったもんじゃないからね。

「くっ……な、ならもう手詰まりではないですか!」

「残念なことに、もう一つ問題もありますよノア嬢。吾輩はヤツの補給路を発見しましたがね、行動理念がサッパリなのですよ。手当たり次第、見つけたワルを狩る。最近はスラムなら本当に誰でも、食い散らかすように。一体何故? 吾輩には理解ができませんなぁ」

 鎧の価値を知る犯人が、輸送隊を襲ってでも鎧を奪い取りたかった。これはわかる。

 でもヴィクトールの言うとおり、「何故」がわからない。

 この鎧、マジで何がしたいんだろう。

 王都の転覆ならもっと大きなテロ事件に発展しているはず。

 正義感をこじらしたヤツがスラムの掃除と称してゴロツキ狩りをしているなら、もっとここは血みどろの地獄になっているはずだ。

 そんな相手の次なる一手を読む必要があるわけだ。

 無理ゲーですそんなの。

 五分でコントローラ投げる。

 ただ手がかりはある。エリクサーだ。

 ヤツはこれを求めて動いている。

 つい最近まで溢れかえっていたけど、鎧が暴れて売られなくなった。

 僕が鎧を着て、何か目的のために動くとするならば。

 雲隠れした違法アイテムショップの主人を血眼になって探しに行くか――



 ――今度こそ無差別に人に襲いかかるか。



 ……自分でそう考えて、ゾッとした。

 え、もしかして大事件とかの前触れじゃないのこれ?

 王都でテロとか冗談じゃ無いぞ!?

やべえよ……やべえよ……


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