第44話 異世界のオタク特有の早口
「どうした二人とも?」
「ヴィクが。先生の代わりに、皆で探せばいいんじゃないかって」
「吾輩これでも話を聞いていましたがね。ええ、ええ、強大な敵だ。そして潜むゼロゾーンとて細く長い土地で相互不可侵なれど、その実、組織模様はモザイク。一筋縄では行きますまい。当然衛兵が外側から見ているだけではーー」
「ヴィク、早い。長い」
「これは失敬エステル嬢。要点を言おう。先生の強さは比類無きものだが、まだスラムに、そしてゼロゾーンに浅い。なれば我々古株が一気に調べ上げれば、すぐに鎧の影を掴めようモノ。内外のウワサもしっかりと集まるだろうよ」
それで要点言ってるの?
と、突っ込んだらややこしくなりそうだから言わない。
まあでも理解出来た。
要するに……。
「スラムに長い君達による人海戦術。そういう事だねヴィクトール?」
「ご明察。そも本案件は思うより、事態が逼迫している。ノア嬢も変装は見事であるがいずれ限界がくる。故に先生達の活躍はクリティカルであればあるほど、都合も良く、何より成功率が増すと見た」
キラリと眼鏡が光る。
言葉がとっても長いけどけっこう良い案だぞヴィクトール。
この中で輪を掛けてやべーヤツみたいな雰囲気が出ているけど、君がそこそこマトモなのは僕も理解しているよ。とにかく言葉が長いけど。
「ということで先生は厨房でどーんと構えて頂いて。我らが頑張って情報を集める。先生は美味しい料理を作る。我らは疲れて帰ってきたら、ホカホカの料理が用意されている。これは実にエネルギー効率がいい。そして誰かが鎧を見つけたら即座に報告、先生が秒で解決。首尾良く行けば、上級貴族様からの報奨金がっぽり皆で山分け。誰もがハッピーだと思うが、如何かな兄弟達?」
「「「乗った!」」」
ヴィクトールの長~い説明が終わった途端、ギルドメンバー達がドカドカと立ち上がる。
「ご飯!」
「先生の美味いメシ!」
「そんで金!」
……と、各々目の色を変えてドバーッと出ていってしまった。
そのあまりの速さ。
機動力。
そしてバ……単純さ。
残ったのは僕とカーラさんそして唖然としているノア。
あとミタマがうっつらうっつら船をこいでいるのと、腰をトントンと叩いてゆっくり立ち上がるヴィクトールだけだった。
「吾輩は闇錬金術の界隈から当たるとしよう。先生、吾輩は今日の夕飯はホワイトシチューを所望する。吾輩あれを食べていると天にも昇る心地でーー」
「解った解った。美味しいの作るから。頼りにしてるよ」
そう言うとヴィクトールは鼻歌を歌いながら出て行ってしまった。
……またテーブルに調合セットを残してある。
あいつ、テーブルはご飯の為にあるって何回言ったら解るのだろう。
ふとミタマを見てみると……なんと彼女、もう寝ていた。
まだ出番は無いと悟っているのか、それともドのつくマイペースなのか。
日当たりのいいテーブルに陣取って気持ちよさそうにしていた。
うーむ、あのままだと風邪引いてしまうな。
後で毛布でも掛けておこう。
「? どうしたノアの嬢ちゃん」
カーラさんの心配したような声。見てみると、ノアがよろよろとカウンターの席に座り、頭を抱えていた。
「い、いえ。あまりにこう、色々ありすぎて。目眩が……」
わかる。
ここの連中、すっごいキャラ濃いよね。
僕も四ヶ月前ほとんど同じリアクションしたよ。
カーラさんはホッとしつつも、ノアの背中をさすって笑っている。
「慣れだ慣れ。バカしかいないけどね、みんな気のいい奴さ」
★
結論から言うと、ここ数日間『灰狼』の皆はめっちゃ頑張った。
「たっだいま! 話聞いてきた!」
ドバーンとドアを開けて帰ってきたのはモカだった。
でっかいボウガンを小脇に抱えて、メモを束をどーんと受付テーブルに置く。
「おう、またエラい量だなモカ」
「そうでしょ。知り合いのサキュバス嬢に片っ端から聞いてきた。ニックまた来いって言われてたよ。へたれ可愛いだって」
「ヘタレは余計だ。というか勘弁してくれ。こっちがミイラになっちまう」
そうやって下品な会話をしながら、ニックがメモを簡単に分けると、他の厳ついメンバー達に手早く配る。
彼らは情報をしっかりと吟味してニックに返すと、彼はクエストボードに貼り付けられた王都の地図へ細かく点を打ち、情報の確度の順にメモをピン留めしていた。
「これは、何だか……軍議のような?」
カウンター席に座るノアが不思議そうにその様を眺めては、「何故、こんな高度な事が?」と首を傾げていた。
僕も驚いた。
ニックの他、どう見てもゴロツキの連中が陣頭指揮を執って情報を集めては整理しているのだ。
パワータイプだと思ったらメチャクチャ頭脳戦してくるような感覚と言えば伝わるだろうか。
「アイツらはあんなナリでも兵法を学んでるっつったら、驚くかねえ」
そう言ってワインをラッパ飲みするカーラさん。
お行儀悪いからグラスを使ってと言っているのだけど、これが性に合っていると言われてしまいもう文句言わないでいる。
外に出る仕事が無ければカーラさんは大体昼間からこんな感じだ。
「没落騎士、元傭兵。元軍師。そんなのはゴマンといる。中にはそこそこ使えるのに、素行が悪いだとか人付き合いが悪いとかで弾かれるのもいる。アイツらはその類いってだけさ」
またディープな所を掻い摘まんで話してくる。
要するに彼らは元々ちゃんとした家柄で、兵法も戦術論も捜索に転用できるほど機転が利くということか。
やるじゃないか。
見直したぞゴロツキ衆。
今度コロッケを一つ多く作ってあげよう。
「カーラ卿は」
「さん、な」
「……カーラさんは、何故そのような者達を囲っていらっしゃるのですか?」
「ハッ! 囲っていると来たか。まだまだ貴族根性抜けないねえ」
うぐっとノアが言葉に詰まっていた。
「エステル、男嫌いなのにヴィクトールは仲いいんだ」
「ヴィクは一周回って大丈夫」
「どこをどう回ったら大丈夫なのか。吾輩ショック」
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