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ぽっちゃり転生は二度美味しい! ~武術と料理で異世界無双~  作者: 西山暁之亮
第五章 貴族の令嬢? 何それ美味しいの?
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第42話 『不可視の獅子』に名高き剣

「スラムは油断していると簡単に死ぬ。子供相手でも、石で頭を割られる。何より、女は悪夢を見ることもある」

 スーッと、もう一方の手でノアの胸を下から押し上げるエステル。

 目にほんのりと魔力の灯火が浮かんでるのは怖い反面、ちょっとエッチだ。

「それにわたしは貴方が嫌い。先生をこれ以上侮辱するなら殺す。そんなのと一緒にいる覚悟はある? 寝込みは得意だよ、わたし。()()()()()()()()

 うあーこわーい。

 こんなの耳元で言われたらチビりそうだ。

 しかもエステルがやるといったらやるだろうし、本当に得意なんだろう。

 何て子を拾ってきたんだよとカーラさんを見たが、彼女はじーっとノアの事を見ていた。

 え、何その真面目な顔。

 まさか本当にノアの覚悟を見極めようとしているのだろうか。

 この人いつも本気なのか冗談なのか解らない。大人って難しい。

 少しの間の後。

 ノアが静かに口を開く。


「……みくびるなよダークエルフ。これでも覚悟は出来ている」


 と言いながら足ガックガクなノア。お気の毒さま。

 上半身はシリアスで下半身がコミカルだけど、ここは笑っちゃいけないところだ。

 ただ、ノア芯にはしっかりと勇気があるみたい。

 それが証拠に、背後に回ったエステルにゆっくり顔を向けて、キッと睨んでいた。今にも刺されるかもという相手にだ。

「私とて温室育ちじゃない。王宮もまた魔窟。貴族の晩餐会は煌びやかな決闘状だ。マナーを一つ損じただけで酷いことになる。子供の頃から常にカミソリの上を歩くような事をしながら、剣を学んだ。今更地獄が何だ!」

 そう聞くと中々どうして。言葉に重みがあった。

 甘ったれと思ったけど、けっこうな人生送ってるんですね。

 カーラさんは満足そうに頷いて、パチンと合図のように指を鳴らした。

「エステル、そこまで」

 カーラさんがそう言うと、エステルがナイフをしまって、トテテと僕の横に来る。再び僕の腕にキュッと抱きつき始めた。

「先生、褒めて。殺さなかった」

 あ~そっちか~。

 ビビらせたのを褒めてとか思ったけどもうちょっとハードなヤツだったか~。

「あ、ああうん、えらいえらい」

「えへへ」

 見てこの百点満点の笑み。

 美少女が頬を赤めて少しはにかむこの顔。絵にして飾りたい。

 ……ここだけ切り取れば可愛いのになぁ。

 やってること完全に狂犬なんだよなぁ。

 手に持ってるのがゾンビなんか一撃で倒すような肉厚ナイフなんだよなぁ。

「――んふ。いいねえ。王宮の時からこの子は違うなって思ってたけど。アタシの目には狂いはなかったねえ」

「カーラさん?」

「何でもないよケント。さあノアのお嬢様? 覚悟見せて貰ったよ。なら早速行こうか」

「へ!?」

 緊張の糸が切れたのか、素っ頓狂な声を上げるノア。

 その額には汗が吹き出していた。

「行くって……カーラさん、ホントにノアを冒険者にするつもり? てか僕が担当するの!?」

「一度決まったことにガタガタ言うんじゃないよ。きっといい事になるさ。この子にも、アンタにもね」

「ホントぉ!?」

「さ、ノア? もう一度家に戻って支度だよ。暫くウチの家族になるんだから」

 無茶苦茶だ。

 相変わらず無茶苦茶だこの人。

 一体どんな理由でノアを冒険者に化けさせるのか。

 本当に貴族根性をたたき直そうって魂胆なのか?

 僕は全く理解できないのだけど、カーラさんに何か考えがあっての事なんだろう。

 とりあえずは従うしか……無いのかなぁ。



 ★



「と言うわけだ。みんな仲良くしてやんな」


「「「だーっはっはっはっは! 上級貴族が冒険者やってやがんの!」」」


 ギルドの中が爆笑の渦に巻き込まれた。

 どうも貴族が冒険者をやるというのは、ある種没落のテンプレみたいなものらしい。

 疑似とはいえ自分の失敗で冒険者の真似事をすることになった序列第四位とくれば、まあこいつらが笑うのは仕方ないか。

 ああ、でも。

 よ~く観察してると、何人かは笑えてない。

 ……これ多分没落系の連中だ。

 特に傷ハゲ頭のニックとかは没落騎士だから余計にそう。

 いつもゴロツキムーヴかましてるのに「おいたわしや……」みたいな顔をしていた。

「……くっ! ノア=プレストン……です。今日からお世話になります」

 唇噛みしめて、ノアが深々と頭を下げる。

 彼女の格好は前に比べて少しグレードダウンした装備になっていた。

 肩の獅子頭はそのままだけど、前みたいなプレートアーマーではなくて藍色のジャケットのようなレザーアーマーに胸当て。

 下は短いスカートに紺色のレギンスをつけて、膝丈の革ブーツを履いている。

 僕を斬りつけた愛剣の鞘も豪華な鞘から革を撒いた普通のものになってるけど、素材が明らかに高級品。ここだけは妥協できなかったか。

 どっからどう見ても女冒険者。

 蝶々の意匠のあるカチューシャは派手すぎないかなとか思ったけど、『灰狼』のみんなはもっと派手なので浮いてない。

 笑われても凜としている姿は覚悟の表れのようで、笑っていたみんなも少しずつ収まる。

 そうだよね。

 マジな顔してる人笑えないモンね。

 そういうとこは皆いい子だ。

 それにしても頭を下げるなんて。

 もっと貴族然としていると思ったのに。

 殊勝なことだなぁと上から目線で思っていたら、顔に出ていたらしくめっちゃ睨まれた。僕の事嫌いすぎないか?

 さてここからまた喧嘩みたいなのが始まる……かと思いきや、何だかギルドメンバーの様子がちょっと変。

 おいどうした。

 僕の時みたいに斬りかかるんじゃないの?

 なんだかひそひそ話してるし、ゴクリとツバを飲んでるヤツもいる。

 ノアが綺麗とかじゃ無くて、何か強者を前にしているような、そんな感じだ。

「? みんな新人には力比べじゃないの? 僕、審判やるつもり満々だったけど」

「い、いやあ先生。プレストン家っていったら剣豪の家だから、なぁ?」

「王の宝物を奪うヤツは一刀両断ってな。あの獅子の肩鎧は剣を隠すって言われてる……『不可視の獅子(インビジブル・レオ)』に名高きプレストン家ってヤツでさ、先生」

 いや知らんけどそれ。

 でもニックとその周りのゴロツキ強面の連中がビビり散らかして、すっかり怯えている。

 おい、その厳つい顔は飾りかよ。

 未だに僕、君達が迫ってくると怖いのに。

「そっか。説明してなかったか。プレストン家の剣技は御前試合常勝の剣豪の家だよ。剣技を習得してから初めて次期の候補になるってね。ノアはそんな中、兄弟達をねじ伏せて次期当主になった。相当な使い手だよ」

「そういうのもっと早く言って欲しかったな!」

 そしたらもっとこう、手加減するにも気を使えたのに。

 やったことは鎖でご自慢の剣技をかわして、舐めプの上にパンチラ。そりゃ怒るか。

 ……待って。ノアに兄弟いるの?

 お姉ちゃんをキズモノにしたなってヤッパ抜いてカチコミされないよね?

 今更だけど、僕なんかとんでもないのと組まされてない?

 や、やだー!

 悪役令嬢やだー!!

「おーいギル、久々に帰ってきたんだから相手してもらったらどうだい? 正真正銘、由緒正しい本物の剣術だよ?」

 と、カーラさんが部屋の奥を手招きする。

 そこには久しぶりに帰ってきたギルが、定位置でジッとしていた。

 ただちょっと様子が変だ。

 いつもギラギラしてる視線に力が無い。

 僕を見ても睨むでも無くぼーっと見てるだけ。

 何か変なもの食べたのか?

「ギル? どうしたの?」

「…………調子が悪い。こないだ泊まったサキュバス嬢の家で、何か変なモン食わされたみてえだ」

 本当に何か変なもの食べたのかよ!

相棒はご令嬢サマ(険悪)


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