第40話 一騎当千なるは外道鎧
僕を責めるのはまあ置いといてだ。
なんで彼女、剣にこだわるのかな?
確かにあの剣筋は凄かったとは思う。
マジでスパッと斬られるかと思った。
昔見た動画で「早回ししてるだろコレ」とか思うくらいの鋭い踏み込み。
今でも鮮明に、彼女の体の流れを覚えてる。
アレは一朝一夕では身につかない、本物の剣技だった。
ただ本人の真っ直ぐで素直なのが剣に出ちゃってるのがなあ。
――兵は詭道。
戦いは外道にならずとも卑怯が大前提。
武術でもそれは同じ。
ケンカはターンバトルとか、必殺技の出し合いじゃないんだ。
どんなに威力が高い技でも、どんなにリーチの長い技でも、起こりを防がれたり事前に読まれたらそれでおしまいなんだ。ダメージ表示があったなら「ミス!!」だね。
ノアの剣はまさに正面から虚を突くものだった。
肩の装甲と脇構えで剣筋を隠していたのは良かったけど……お行儀の良さが仇になった……なんて、本当の武術家みたいなコトを言うのはよしておこう。火に油を注ぐだけだ。
五分くらい泣き喚くと、ノアさん――いやもうコイツはノアでいいや――がチーンとハンカチで鼻をかむ。そしてサラッと唱えた着火魔法で燃やしていた。勿体ない。
「……お見苦しい所を見せました。どうぞこちらへ」
「本当にお見苦しかったね」
「黙りなさい。それと今後馴れ馴れしく話しかけないで。斬りますよ?」
ツーンとそっぽを向くノア。
ちょっとしたジョークだったのに。
マジレスされて怒られた。
これ以上茶化すとそこら辺に置いてあるレアモノソードで斬られそうだ。
「嫌われたねえケント」
これ理不尽だと思うんだけどなぁ。
まあいいや。僕にはみんながいるし。
もう帰りたいんだけど、せっかくここまで来たのだから頑張って彼女についていく。
たどり着いたのは宝物庫の奥も奥。
そこは真っ赤な絨毯が敷かれた一角で、所々から魔力の燐光が上がっている。
置かれている武具も何だか一掃禍々しいかったり、神々しいものもあったり。
共通しているのは、気軽に触れてはならないというオーラ。
さっき興味本位で手を伸ばそうとしていたエステルも何だか怖がっている。
「ここは?」
「封印指定されたアイテム達の区画です。かつて魔王軍との戦いで使用された武具達。そして、廃棄予定のもの」
「廃棄? 勿体ない。アタシにくれよ。有効活用してやるからさ」
「いくらカーラさんでもそれはできません。ここにあるのは地形すら変えるマジックアイテム。悪用すれば各国から非難を浴びるものです」
やべー宝物庫の中の特段やべーところってのは解った。
なんでさっさと捨てないのかって言えば、逆にこれが抑止力になるからなんだろうな。
「かつては英雄の所有物。今は無用の長物ですが、武力の意味では簡単には廃棄できないもの。私が綿密に鑑定を行い、この泰平の世に不要と判断したモノは私の上申から議会の評決を経て、国王様の認可によって処分しています」
「……お嬢ちゃんがスタートとはね。大役だねえ。つまり、外交の急所をお嬢ちゃんが埋めているってわけだ」
「恐れ多くも。ですが、それ故にプレストン家は序列第四位なのです」
とても現実的な話だなとは思った。
持っているだけヤバいなら捨てるが一番だもんね。
例え大昔に活躍した兵器でも、今は厄災のタネ。
だから国王の信頼ある者が処理する。
失敗すれば失脚、ゆく果ては国の外交沙汰……か。
確かにすごい大役だ。
失敗が王国の危機に直結してるなんて。
僕よりちょっと歳を取った人ができる事じゃない。
そういう点では、ノアは凄いなと思う。
焦って冤罪の上拷問、ご乱心の上に鼻水びちゃびちゃでプラマイゼロな気はするけどね。
「でもどうやってだい? まさか遠くのどこかに捨てるんじゃあないだろうね?」
「そのまさかですカーラさん。このアリアンナ王国の南東……世界樹の森を越えた先には『深淵の湖』があります。底なしの湖は世界樹の恩恵預かり、全てを大地に返す場所。投げ込めば全てが分解され、二度とこの世界に現れる事はありません」
「……で、捨てる予定だったのが、件の『鎧』とやらかい?」
僕たちの前には空になったガラスのケースがある。
長く置かれていたのだろうか。中にある鋼鉄製の鎧掛けがちょっと歪んでいた。
「ここにあった鎧の銘は『恍惚の魔鎧』――別名、『デモンズメイル』。使用者の生命力を糧に無尽蔵の力を与える、典型的な呪装備。過去には『慈悲の聖鎧』とも呼ばれていました」
「慈悲ぃ? あの真っ黒な鎧がぁ?」
慈悲というより狂戦士って感じだったけどね。
目も真っ赤だし、中の人は完全にモンスター化してるんじゃないか?
「お前なら理解出来るはず。『恍惚の魔鎧』は触れた相手の生命力を使用者の糧とします。その時に感じるのは痛みでは無く快感。天にも昇るような気持ちに抗う事はできず、故に無敵とも称されていました」
で、僕が生きてる事自体がおかしいから犯人扱いね。ガバガバ推理どうも。
確かに触れられた瞬間はビックリした。
もうこのまま死んでいいやって一瞬思ったからね。
人の仕組みを逆手に取るマジックアイテム、か。
なるほどタチが悪い。作ったヤツは相当性格が悪いとみたね。
「もともとあれは魔王軍の軍勢を単騎で倒すために作られました。装備車には一騎当千の力を与える代わりに、敵の命を吸い取らねば装備者自身が絶命する。文献では何人もの勇者がこれを着て魔王軍を押し返し、そして死んだ。恐るべき対軍団兵器なのです」
訂正させて。
作ったヤツは悪魔だよ!
数百年前の戦いってチラチラ出てくるけど、そんなのを使わなきゃいけないほど大変だったって事だよね。今この時代に来れて良かった!
「強さと危険を天秤にかけること数百年。やっと私の代で廃棄できるところまでたどり着いたのに! ……世界樹の森を越えた辺りから、輸送隊ごと消えてしまいました」
輸送隊ごととはおっかない話だ。
そういえば馬車って襲われやすいとかカーラさん言ってたっけ。
世界樹の森も綺麗な場所だけど、魔境だからなあ。
モンスターはウヨウヨいるし、山賊もいっぱいいた。
だからサーラの村は半ば砦として機能していたんだと思う。
そりゃ、ギルドも縄張りの垣根を越えた総合出張所を作るわけだ。
「盗まれたのはいつだい?」
「二月前。最初はコボルト達の仕業だろうと」
いやそれはないです。
僕がボッコボコにしたからね。
ついでにその後、あらかた山賊もぶっ飛ばした。
逆にその事実が、事の重大性を示しているんだけどね。
この鎧はたまたまではなく、狙われたんだ。
明確な悪意があってこの街に潜んでいる。
やばい。
こわい。
語彙力が落ちるくらいに深刻ってコトだ。
「私もあそこに巣くうコボルトの群れのことは知っています。ボスは相当な個体であると。輸送隊もそれ相応の装備を施したのに」
「――ただ盗まれたならいい。どうせ所有者は使い切れず死ぬだろうから。よしんば山賊が拾ったとて同じ事。端から山賊の根城を潰せば、鎧も見つかり一石二鳥というところかの~」
「……ミタマ?」
「……強制ア○メアーマーじゃの」
「ミタマ、今ボソッと何て言った?」
「先生、アク○って何?」
「エステル、知らなくて良いこともあるんだ」
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