第39話 ヒロインブレイク
爆発!?
危ねえ!
何でそんなのがここにあるんだよ!
……もしかしてここ、そんなのばっかなの?
「エステル! 他のも絶対触っちゃダメだぞ!」
「先生がそう言うなら」
銀色髪の頭を突き出してくるエステル。
慰めてくれってコトなのだろうか。
ワシワシと撫でていると今度はミタマが刀みたいなのを触ろうとしたので、むんずと首根っこを掴んで持ち上げる。「なにをする~」とばたついたので、肩車してあげた。
なんか最近、先生は先生でも幼稚園とか保育園の先生になった気分だなぁ……。
「あぁ~ここいいなぁ~。もにもにふかふか。わらわの特等席~」
「ミタマも。絶対触っちゃダメだよ」
「あい解った。そんなに子供扱いせんでも~」
「前、僕に十四歳って言わなかった?」
「……? あ、そう、そうじゃ! わらわ、じゅうよんさい!」
設定忘れかけてるぞお狐様。
「やれやれ、本当に他の連中連れてこなくて良かったね。しかし宝物庫って言うからもっと派手かと思ったけど?」
ホントそれだ。しかも並んでいるのは呪物ばかり。
よ~くラベルを見ていると「広域殲滅」とか「装備したら手から離れない」とか「ランダムで死ぬ」書いてあったりする。おっかねえ。見た目は確かに宝物なのにとんだトラップだよ!
「金や資産化できるものは序列第二位の『金庫番』です。私は『宝物番』。ここにあるものは全てお金に換えられない程に貴重なもの」
「あら、金にならないのかい。残念」
何が残念なのだろう。
もしかして報酬に頂くつもりだったのだろうか。
さっきの見ると爆弾貰うようなレベルなんだけど。
ノアさんはコホンと咳払いして話を続ける。
「どれもこれもが超常の力を持つレアアイテム達。数百年前、魔王軍と戦っていた頃からずっと貯蔵されているものもあります。太平の世になってからは、人の手に余る魔道具や呪物などが集まるようになりました」
なるほど、だから博物館のような感じなのか。
アメリカとかで言う航空博物館とか兵器博物館みたいな印象だ。
そう見ると、目に入ってくるのは確かに武器防具が多い。
よくよく見れば棚も普通じゃない、色んな呪文が書かれている。
悪い魔力を中和するとか、そういう感じなんだろうな。
奥にある本棚は多分、魔導書の類いなんだろう。ズモモモモとオーラ出てるけどアレで管理大丈夫です?
名前こそ『宝物番』なんだろうけど、実際の所は『危険物管理』とかそういう意味合いか。
そりゃ、家柄と信頼が必要になりますね。
「このアリアンナ王国は古くから何でも受け入れるが故に、時にはこのようなもの達がたどり着く。それらを鑑定して、魔王軍に立ち向かう有用なアイテムを王国騎士団に献上したのが、プレストン家の始まりです」
一転してフフンとドヤるノアさん。この人面白いな意外に。
陰キャのクセが取れないから、ニューフェイスに対してはじ~っと観察するようにしてる。
ノアさんは外見は僕よりちょっとお姉さん名感じなのに、中身が子供っぽい気がする。生まれの地位の高さから来るプレッシャーの、その反動と見たね。
普段はちゃんとやってるけど、基本的にこのお役目は彼女には荷が重すぎるもの。だからこそボロが出た……というのは可哀想かな?
「ってえことはだ。ノアの嬢ちゃん、シクって何か盗まれたんだねえ?」
心の中でほんの少しだけフォローしようとしていたのに、カーラさんは容赦なくズバっと言う。鬼か?
「ええと何て言ったか。それが件の……」
「確か『デモンズメイル』ですよ、カーラさん」
「そう。それ。それがココから盗まれて使われてるんだ。そうだろう?」
僕もそれ思った。ノアさんが自分だけで事件を処理をしたいと言うならそれしか無い。
大当たりのようで、カーラさんがその言葉を放った途端にノアさんが震え始める。
次の瞬間、どびゃっと涙が溢れた。
「あうう……そうなのです。そうなのですカーラさん。まさかこの『王の宝物番』が! 宝物を盗まれるだなんて!!」
ここに入れるのは王族と、特別な許可を貰った人とノアさんだけ。
扉はいつの間にか閉め切られているので、誰かに聞かれることはない。
ということで。
ノアさんが堰を切ったように泣き始めた。
「う、うああああああああああん! どうして! どうして盗まれるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお完璧な仕事をしてたのにいいいいいいいいいいいいいいい!」
……ギャン泣きって初めて見た。
お屋敷での涙はまだ不完全燃焼だったのね。
鼻水まで垂れ流して……ハンカチびっちゃびちゃじゃん。
「あだぢいっしょうけんめいがんばっでだのにいいいい! お父様はメイド侍らせて旅行いっちゃうしいいいいいいいいい! そんな中で盗まれるだなんてえええええええ! 国王様に死んでお詫びするぢがないじゃないでずがああああああ!!」
オー。
気の毒すぎてとても突っ込めねえ。
これずっと我慢してたんだろうな。
人前は当然のこと家の中も家臣いっぱいだし、本当に一人になれるのがまさかの職場だけ。皮肉にも程がある。
僕たちの前でも我慢してたけど……さっきのオッサンで限界が来たんだな。
そりゃな。二回りくらい年上のオッサンがうら若き乙女にゴリゴリ圧のあるプロポーズとかヤバすぎ。余程お互いに愛し合ってなけりゃ、僕の世界なら即通報です。
流石のカーラさんも「ちょ、だ、大丈夫かい?」と若干引き気味。
エステルはポカーンとしてるし、頭の上のミタマに関してはクックと声を押し殺して笑っていた。
良い性格してるなこの子。絶対十四歳じゃない。
「ごんな! ごんなオークみたいなのに剣は止められるし! スカートの中見られたし! そこのダークエルフはおっかないし! びゃああああああ!!」
「お、落ち着いて……そもそも僕、オークじゃないんですけど……」
「どぉみたってオークでしょおおおおお! デブじゃん! デブがなんであんなに機敏に動けるのよおおおおおおおおお反則でしょおおおおおおおおお斬られなさいよおおおおおおおおお!」
「むっちゃくちゃな事言ってるぞお嬢様」
「うびゃああああああああああああオマケにあの妄言ジジイにも出会うしいいいい気持ち悪いんだよちっくしょああああああああああああああああああああああ!」
なだめてもブンブン顔を振って喚き散らしている。
その高貴なお胸もブルンブルン揺れて眼福……。
……になりませんね。
これは、酷い。
というかさっきのファビオのオッサンも妄言ジジイ呼ばわりしてて笑う。確かにそんな感じだよね。
「あの〜、話進めてくれないと」
「うるさいうるさいうるさーい! 盗まれたのも辛いけど! 私は! あんたに負けた方が悔しいいいいいいいいいいいいいいい! どれだけ! どれだけ宝物番として修業したと思ってんのおおおおおおおおおおおお!」
知らんがな!
完全に八つ当たりなんですけど!?
僕、被害者なのに何で責められてるんだろう……。
「先生、わたしも揺れるくらいあった方がいい?」
「……君はいつまでも君のままでいいよエステル」
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