第36話 口止め料の爵位
確かサーラの村で三馬鹿が言ってたっけ。
カーラさんは元々山賊だったけど、グリフォンをたった一人で倒して王様を救ったって。
「門前払いなど! カーラ卿の持つ勇士爵は王族の次の地位。訪問はむしろ光栄の極み……」
めっそうも無いという感じで手を振るノアさん。
綺麗な金髪と豊満なお胸が揺れて眼福ですが、顔が引きつってますね。
彼女の口にしたのは聞き慣れない爵位。なんかファンタジーっぽい。勇者枠ってコトかな?
というか今、サラッととんでもないコト言ってなかったか。
王族の次?
上級貴族より上?
どいうこと?
「卿はやめな。さんで結構。そもそもだ。たかだかグリフォンでションベン漏らした王様助けただけだろうに。元山賊相手に大袈裟過ぎるんだよ」
あ、これ口止め料入ってる。健人理解した。
王たるもの常に民の上であれが、まさかの山賊の前でションベン漏らし。
オマケにグリフォン退治の栄光まで持って行かれた。
ざっくり言えば、王族にとっては口外されたら末代までの恥。
それをカーラさんが握っている。
ノアさん相手にソレをおおっぴらに言うってコトは、そのションベン漏らし沙汰は上級貴族の恥まで食い込んでるなこれは。聞かなかった事にしよう。
「で? 何でアンタみたいなのが、あろう事か腰に剣を吊ってスラムに来たんだい。ただ事じゃあないね?」
「そ、それはその。たまたま近くで騒ぎを聞いて――」
「……ミタマ?」
「陰を記したなぁ~。嘘じゃなあ~」
嘘発見器かよ。
しかもノアさんがビクゥとしてるあたり、しっかり探知している。
いつの間にかミタマが羅針盤なのか香炉なのかよくわからないモノを持っていた。
ふんわり燐光が上がっている。魔法で扱う道具みたいだ。
彼女こういう事もできるのか。
ますます解らないぞこのゆるふわキツネっ娘は。
「嘘はいけないねぇ、ノアお嬢様?」
「ちちち違うんです! そ、そうじゃ無くて。その!」
「みなまで言わないでいいさ。あのヴァンパイアだか何だかを張ってたんだろう?」
「あうう……」
そういや最近、やけに衛兵さんに職務質問されるなと思った。そういうことなら辻褄が合う。
場所も大通りとか市場とかではなくて、町外れとかそれこそゼロゾーンのすぐ側とかが多かった。
「大方、サキュバス達にも手を出してたんだろ。ああいうとこの連中は昔から良い情報源だからねえ」
「はう!」
いちいち反応するノアさんが段々可愛くなってきた。
最初会った頃はザ・女騎士って感じだったのに。
どちらかと言えば、ポンコツ委員長みたいな印象になってきたぞ。
「余程切羽詰まったってコトだね。はてさて、何があったのやら」
「……これはプレストン家の問題であって、その。ご迷惑をおかけしたのは誠に申し訳ないのですが、そのぉ……」
こんなになってまで、ノアさんはモジモジとしている。
チラチラ僕を見ては複雑な眼差しを向けて、時々「このまま舌を噛み切って死んだ方がマシ」みたいな顔もする。
え、何それ。
もしかして『お前さえいなければ』っていう視線ですか?
流石にそれは八つ当たりだと思うけどなぁ。
「なあノアのお嬢ちゃん」
急にカーラさんの声が優しくなった。顔もニッコリ、まるで聖母……は言い過ぎだごめん。
でもうっかりしてると本当にママとか言っちゃいそうな、そんな表情だ。
……僕知ってる。
カーラさんの声音が変わるのは人を絆す時だ。
「アタシは確かに元山賊だが、一応爵位持ち。アンタが頼れる数少ない人間の一人だと思うんだ」
ハッとして、再び目線を下げるノアさん。
揺らいでる。
切羽詰まってるから正常な判断が出来ないんだ。
普通ならこんな甘言、はね除けるんだろう。
けど揺らいでるってことは、もうノアさんがなりふり構ってられないってコトだ。
そういうのを嗅ぎつけて救いの手を差し伸べようとするこの手口。
……控えめに言って悪党です。
悪いようにはしないだろうとは思うけど、僕も半分騙されたからなーこれ。
「今更隠し立てするコトも無いだろう。ケントも怒ってないようだし。どうだい、いっちょアタシに依頼するってのは」
え、普通に怒ってるんだけど……。
あ、これは「黙ってな」のウインクですね。
わかりました黙ります。
「依頼、ですか?」
「そうさ。アタシはギルドマスターだよ。爵位を持ってるからこそアンタら本当の貴族は依頼しやすいはずだ。しかも書類上、冒険者ギルドって王国公認機関のお墨付き。後ろ指さされるってコトは無いだろうけどねえ?」
「ですが、貴族が冒険者ギルドに依頼など聞いたことがありません!」
「その第一号になりゃあいい。相手は勇士爵持ちのギルドマスターだ。格式だけでモノを見る上流階級には筋が通ると思うけど?」
ノアさんの訝しんだ顔が、段々と「その手があったか」みたいな顔になってきた。
確かに聞いてると理に適っているような気もする。
ノアさんはそれなりの地位があって、越権ながら衛兵も動かすことができる。
けど、ヴァンパイア一人相手にこの城塞都市は広すぎる。
もっと大々的にやろうと思ったら他の貴族達にバレて足下をすくわれるから、ノアさん自身も出る必要があった。
結果、失敗。
ヴァンパイアの注意喚起を末端ギルドにまで知られるようになる。
コトが一般に露見するまで時間は無い。
だからこそノアさんが焦ったんだ。
僕をオークだの何だの言って話を聞かなかったのはまさにココなんだろう。
当然冒険者ギルドに頼むなんて言えばいい笑いもの。
そこへ来てカーラさんのように爵位持ちで、格式上『品の良い』ギルドの出番というわけだ。
カーラさんは冒険者の中で飛びっきりの悪党とか言われてるけど、たかだか冒険者の与太に貴族が耳を傾けることもない。
それどころか、ここでノアさんが首を縦に振ったなら、逆に王族より下、しかし貴族より上の地位を持つカーラさんとの繋がりを見せつける事になる。得しかないね。
『――また下らない案件押し付けられてさ。こっちはそこそこの所帯なんだから、たまにはカネになる仕事よこせってんだ』
不意に、カーラさんの愚痴を思い出した。
……この人、もしかして貴族相手に仕事の間口広げようとしてないか?
善人なのか悪党なのかほんっとわかんない(ケント談)
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