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ぽっちゃり転生は二度美味しい! ~武術と料理で異世界無双~  作者: 西山暁之亮
第四章 吸血鬼? 何それ美味しいの!?
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第33話 なまっちょろい拷問にて

「この野郎! まだ吐かないか!」

「そう言われてもナー」

 ペチーンと、鉄の棒で殴られる。

 けど、全然痛くない。

 ただノアさんの部下の彼らはさっきからフルスイング。

 僕を殴っては肩で息をしていた。


 ――あれから半日くらい経っただろうか。


 目覚めると地下牢にいて、すぐに尋問が始まった。

 彼らの言うことは「鎧はどこだ」の一言だけ。

 僕の言うことは「知らんがな」の一言だけ。

 その次は「一体どこの手の者だ」と来て、「ただの冒険者です」と答えて以下無限ループ。飽きるわ。エンドレスも八回までって知らないのか。

 そんな平行線が二時間か三時間続いたところで、いよいよ尋問は拷問に切り替わった。

 ここは正式な牢というより、個人が所有している地下牢。それ故か悪趣味な拷問器具とかは無かった。

 代わりにさっきから鉄の棒でぶっ叩かれる。

 こりゃ終わったなと思ったんだけど、なんと僕の【わがままボディ】は弱体化しても鉄の棒くらいは跳ね返すみたい。スキル様々だ。やったぜ。

 そのお陰で、ドッキリかと思うくらいなまっちょろい拷問だった。

 最初はビビり散らかして半泣きだったけど、痛くないと思ったらほとんどマッサージ気分だ。

「吐け! この野郎!」

「すいませんもうちょっと右肩の……そこそこ。毎日料理しているから肩コリしちゃって」

 落語のまんじゅうこわい的に

「あー今は肩が弱いかな」

「今は腰かな」

 ……みたいに言ったら衛兵の彼らは馬鹿正直にそこを殴ってくる。

 茶化してるのも気付かずにご苦労様です。

「この! この! チクショウ!」

 ようやく僕がバカにしているのに気づいたのか、私兵のおっさんは鉄の棒を地面に叩きつけていた。

「ハァ、ハァ……ど、どうなってんだ。ハイ・オークってこんなに頑丈なのか!?」

「何度も言いますけど。僕は人間。名前はケント・タカクラ。登録されているギルドは『灰狼』。ギルドメンバーと一緒にヴァンパイアを追ってゼロゾーンをうろついていたら、貴方たちの言う鎧に出会って戦った。それしかないっすよ」

「ふざけやがって。そんな嘘、誰が信じるか!」

「嘘じゃないです。ちょっと頑丈なだけの人間です」

「貴様!」

「ほんじゃマッサージ続けます? 次は左の足の裏が弱いかも」

「クソが!」

 大声出して疲れませんか、と(あお)りたいところだけどやめた。おっさん顔真っ赤だもの。

 しかし、いい加減付き合うのも面倒になってきた。

 相変わらず右足が効かないから逃げることはできないんだけど、今すぐ縄を破ってこいつらをぶっ飛ばしたのち、そこの牢で寝てるくらいはできる。

 やらないのはちゃんと理由がある。

 あのヒロインの皮を被った悪役令嬢の言葉を信じるなら、仮にも相手は貴族。しかもなんか偉いっぽい人。大暴れしてギルド『灰狼』に面倒がかかったらやだ。

 流石にこの体型を維持しろというスキルでも、一日か二日なら何とか頑張れるはず。その間流石にカーラさんが何とかしてくれる……と、思いたい。

「このデブ。調子こきやがって。もういい。ブチ殺してやる」

 そう言うと、鉄の棒を持っていた私兵のおっさんがズラッと剣を抜いた。

 見ていた見張りが「おいバカ止めろ!」と止めているけれど、おっさんは興奮して聞かない様子だ。

 (あお)りすぎたか。

 いやでも許してほしい。

 そもそもこれ、えん罪だし。

 前ならもうちょっと命乞いしてたんだけど、ボケっとしてるだけで絡まれるスラムのお陰で耐性ついたかも。

 というかさ「ブチ殺す」だって?

 それはこっちの台詞だよ馬鹿野郎。

 よし、もうこいつら殴ろう。

 そろそろ眠くなってきたし。

 鍵ぶんどって内側からかければ、牢屋も安全だろう。

 そう思った矢先。

 久々に階段上の扉がキィ、と開いた。


「何をしているんですか」


「お、お嬢様!」

 私兵のおっさん達がザッと背筋を伸ばした。

 僕もチラリと見ると、そこには確かにお嬢様、ノア・プレストンの姿。

 さっきの鎧姿とは打って変わって瀟洒(しょうしゃ)なドレスに身を包んでいた。

 一瞬目を奪われるほど美しいとか思ったけど騙されないからな。あの悪役令嬢め。

「直ちに尋問を止めなさい」

 透き通った声が地下牢に響く。

 僕もおっさん達も聞き間違えかと思ったけれど、ノアさんは再び、

「聞こえませんでしたか。直ちに彼を解放するように」

 と、震えた声でそう言っていた。

 おっさん達は「ハッ!」と元気よく答えると、僕の縄をすぐに解いた。

「一体どういう風の吹き回しですかね、お嬢様?」

 そう言うと、ビクゥとなったノアさんが震えだした。

 ……あれ?

 なんかさっきとえらい違いだ。

 こう、(おび)えた子リスのような。

 あれだけ凜としていたのに、何が起きたんだろう?


「おーいケント。生きてるかーい?」


 再びノアさんがビクゥ! と体を震わせていた。

 そして聞こえてきたときに、ようやく安堵の息が漏れる。

 コツコツと地下牢の階段を降りてきたのはカーラさんだった。

「カーラさん! 助けに来てくれたんですね!」

「もちろんさ。元気そうで何よりだ。間に合ってよかった」

「間に合ってないですよ。拷問かけられてました」

 ほら、と手渡すのはさっきから殴られてた鉄の棒。

 カーラさんのこめかみに、僅かだけど青筋が立った。

 あ、怒ったぞ。しーらね。

「へー、ほー。ご公儀の為なら冒険者の一人や二人、地獄の底を見せるような拷問もやるってね。さっすが王国序列第四位の大貴族様だ」

 カーラさんがノアさんの肩をガッツリと抱くと、ノアさんはそれこそ卒倒しかねないくらいに青ざめていた。

「それは、その……おおおお役目が」

「お役目だぁ? お役目なら平民嬲っていいのかい。これだから貴族は。王様の手前民にいい顔しといて、やっぱり心の中では選民思想かい」

 え、この世界の貴族ってそんな感じなの?

 王様の手前民にいい顔ってのがまたエグい。

 平和な世界だから民の顔をおだてつつ心の中で舌出してるやつか。

 選民思想って言うくらいだから、昔は平民なんて奴隷扱いとかそんな感じ?

 こりゃまた、もの見事な中世めいた司法と権力だこと。

 技術水準は僕の世界で言う近代に足突っ込んでるのに、社会の仕組みはまだまだってところか。まあ、僕のいた日本でも、そういうのけっこうあるらしいけど。

 そりゃ僕みたいなの衛兵に渡さず、コッソリ拷問しちゃうわけだ。

 苦労したところ悪いんだけど、僕には全く効かないけどね。

「そそそそそそそんなことは! わ、私は平民をそんな風には! か、彼は重要参考人で――」

「ふーん。ま、お役目ならいいけどさ。そんな事より何か言うことは無いのかい? 別に言わないなら言わないで、あたしゃいいけどねえ――()()()()()()()()()()()()()


「お前、先生を痛めつけた。殺す」


 氷のような声が響いた。

流石カーラさんだ! そこに痺れる憧れるゥ!

……でも何故この人は、簡単に貴族の屋敷に出入りできるのだろう?


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[一言] よ~し待て待て待て……(限界を見極め) ゴー!
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