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ぽっちゃり転生は二度美味しい! ~武術と料理で異世界無双~  作者: 西山暁之亮
第二章 異世界転生? 何それ美味しいの!?
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第03話 大きな異世界の木の下で

 目が覚めたら森の中にいました。

 何を言っているのかわからないと思う。僕もわからない。

 夢かと思って、ベタに頬をつねってみる。

 痛い。以上。おしまい。

 現状は何も変わらない。

「おーい?」

 おーい、という声がこだまする。

 残念ながら返事はなかった。

 周囲を見回すと、僕の背にある巨木を囲むようにして木が立っている。

 まるで巨木に恐れ多いと端に寄っているような……。

 この感じ見たことある。

 中国拳法とかでだだっ広いところに門下生たちがバーッといて、老師に(こうべ)を垂れているようなアレだ。

 確かに背後の巨木には謎の威厳(いげん)を感じる。自分も大声を出しちゃいけないような……姿勢を正さないと叱られてしまいそうな……そんな感じだ。

「そもそも日本なのかここ?」

 巨木というと中学の社会で習った、屋久島(やくしま)の杉の木くらいしか思いつかなかった。

 こういう時は検索(ググる)かな~と、ポケットを弄ってみるもスマホがなかった。


 ……いやいや。

 いやいやいやいや!

 スマホ落とすとかありえないんだけど!?


 色々と探してコートまでひっくり返してみたが何もない。

「スマホどころか財布もパスもポイントカードも割引券もないじゃん!」

 チックショー!

 クーポンいっぱい貯めてたのに!

 と、叫んでみても僕の声が響くだけ。

 恐ろしく静かな場所だ。

 鳥の声すら聞こえてこないなんて。

「空は青いし、太陽が真上……何でお昼? さっき夕方だったよね?」

 もうわけわからん。

 とりあえずここを離れないと。

 ネットが入るところ……と言っても今スマホ持ってないので、せめて文明的なところに出たい。

 そう思って立ち上がるけれど、何だか背後から見られているような感覚。

 振り返って見ても、晴天を()くような巨木がヌーンと立っているだけ。

 よく見るとメチャクチャでかい。森突き抜けてるじゃん。

 多分だけど、視線のようなものは多分ここからだ。

 僕は幽霊とかは信じないけれど、霊験(れいげん)あらたかなものには敬意(リスペクト)を払う方だ。

 この巨木はしめ縄こそしていないけれど、この森の守り神かもしれない。

 もしかしたら急に現れた僕に、


「なんやワレ、どこのモンじゃい」


 ……的な目線を向けているのかも。

 であれば粗相(そそう)してしまったかな、なんて思ってしまうわけで。

「すいません、お邪魔しました」

 頭に手を当てて、へコーっと頭を下げてしまう。

 すいませんねこんな時でもチキンで。

 ハリウッド映画みたいに「ガッデム!」なんて言いながら蹴っ飛ばすとか、逆に武侠(ぶきょう)ものみたいに深々と礼をすればいいのだけれども。

 僕はとりあえずお辞儀だけして立ち去ることにした。


 巨木の広場を抜けて、森を散策(さんさく)すること小一時間。

 いや小一時間なのか定かではないのだけれども、太陽の傾き具合からそのくらい。

「何だこのだだっ広い森は」

 ただいま絶賛遭難(そうなん)中です。

 見回しても木、木、岩そんで木。

 苔に腐葉土(ふようど)、時々見るのはタヌキのような小動物。

 富士の樹海で迷ったならこんな感じなのかな?

 なんて呑気(のんき)に思っていたけれど、だんだんと洒落(シャレ)にならなくなってきた。

 同じような場所が無限に続いている。

 進んでいるのか戻っているのかもわからない。

 コレが精神的にくる。

 もちろん僕だって馬鹿じゃない。

 さっきの森を突き抜けていた巨木を目印にして、何度か振り返ってはいた。

 けれども不思議なことに、歩いて十分もするともう見えなくなった。

 あれだけ大きな木だったのに。意味が分からない。

「おーい誰か! (すすむ)! この際ストーカーちゃんでもいいから! 誰かいないのっ!?」

 ありったけの声で叫んでみる。

 しかし悲しいかな、「のっ!?」のところだけ反射して、またすぐに同じ静かな森になった。

「もうっ! これじゃ遭難(そうなん)じゃないか!」

 八つ当たりはいけないと解っていても、何かを殴らなくては納まらない時もある。

 僕はたまたまいい感じの朽木(くちき)を見つけると、壁ドンの要領でつい叩いてしまった。


 バキャン!


「へ?」

 腐っていたのか、そもそもこの木が(もろ)かったのか。

 大きな音を立てて、叩いたところが爆散。


 メキメキメキメキ!


 続けて嫌な音を立てたかと思うと、朽木はそのまま向こう側にズシーンと倒れてしまった。

 足下に振動が響く。

 三桁超えの体重の僕でも浮き上がる。

 やがて野鳥も飛び立つような大きな音が森にこだました。

「うあ! ……もう! 何だってんだよ!」

 確かにこの壁ドン、いや『拳槌(けんつい)』は威力の高い拳の一つだけどさ。

 まさか折れて倒れるとか思わないじゃん。

 ちなみに拳槌(けんつい)鉄槌(てっつい)とも呼び、拳を握って小指の方の側面で叩くシンプルな技だ。

 大ぶりにやってもいいし、コンパクトにグラウンドで打ってもいい。

 最近総合の方で見直されているそうで、使う選手もけっこういる。

 僕が調べた範囲では空手の形に多く取り込まれている。たとえば手首を(つか)まれたのを外しながら、その返しに鎖骨(さこつ)や鼻頭を打つとか。バリエーションもメッチャ多い。

 それもそのはず、拳槌(けんつい)は空手の前の唐手(トーディー)とか那覇手(ナーファディー)って武術からあるものだし、調べればもっと古い起源に当たると思う。

 偉そうに言ってるけど、その情報源は動画と古書店で見つけた空手の本からなんだけどネ。


 ……長々と頭の中で語ったのは現実逃避の一種です。

 これでもわりと「やっちまった」と焦っています。


 もう()ちて死んでいる木とはいえ、ブチ折ってしまった。

 環境破壊じゃんコレと罪悪感が僕を(むしば)む。

 こうやって人間追い詰められると、色々とうまくいかないんだよね。

 僕も急いで朝ごはん作っていると、お味噌汁にダシ入れ忘れる。

 そしてちゃっかり朝ごはんにありつこうとしたイケメン君こと(すすむ)に、

「味薄くない?」

 とか言われて、後追いで顆粒(かりゅう)だしを入れたりする。

 ……てかアイツいつも飯食いに来てたな。

 同じご飯食べて太らないってチートなのか?

 今考えるとあの日常、なんか恋人のような感じじゃね、と思ってしまった。

 ハッキリ言っておくけれど僕は男の子の体で、女性が好きな男の子の心を持ってますからね。悪しからず。

 そりゃストーカーちゃんもおこです。

 ヒロイン候補生も嫉妬(しっと)する。

 どうだイケメン君の胃袋は僕が(つか)んでいたんだぞ、ザマァみろ。

 ――と、そんな感じで。

 今迫る危機に、またもや妄想で現実逃避していたのだけれども。


「……(すすむ)、大丈夫だったかなぁ」


 ベンチと化した朽木(くちき)に腰掛けて、ふと思うのは友の無事。

 いつも(ののし)り合ってるけど、唯一の友達だ。

 あのあと刺されてないか心配でならない。

 それにストーカーちゃんも心配といえば心配。

 けっこう可愛かっただけあって、あの形相はトラウマ級だったけど……あんな事で全国ニュースデビューとか可哀想だ。

「というか……百歩(ゆず)って病院ならわかるけど、何で森?」

 んで、最初の疑問に戻る。

 無限ループって怖くね?

 思考の堂々巡りをしていても始まらない。

 何とかして文明のある場所に辿(たど)り着かないと。

 この場所が文明のある場所なのかどうかと言う疑問は、今のところ無視しておこう。

 そこんとこ考えれば考えるほどしんどい。


 サクリ、サクリ、パキパキ――。


 急に聞こえてきた足音に、僕はパァァと明るくなる。

 落ちている小枝を踏むその音は、絶対に人間の二足歩行の音。

 もしかしたらさっき朽木を派手に倒したから、音で気づいてくれたのかもしれない。やったぜ。

 何で「人のもの」なのかわかるかって言えば訓練してるからね。主に家で。

 お座敷武術家やってると、一番怖いのが家人の足音。

 見つかって母親に「(ケン)ちゃん何やってるの?」って言われたら恥ずかしいからね。

 廊下の足音を敏感(ビンカン)に察知して練習を中断するとかもうベテランの域ですよ。

 そういうしょうもないエピソードはさておいてだ。

 僕のここだけ武術家顔負けの察知スキルは、ビンビンに人の気配を察知していた。

 サクリ、サクリという足音はだんだん多くなってくる。

 というかいきなり()()()

 誰も彼もが忍足でやってきた節があるけど、何故だろうか。


 ――もしかして、猛獣(もうじゅう)が近くにいるとか?


 それなら尚のこと助かった。

 僕みたいな肉の塊(ミートボール)、格好の餌食(えじき)だからね!

「助かった! すいません! そこ……の……?」

 顔を上げて見えたその光景に、僕は言葉を失った。

壁ドンの時に握る拳も、立派な武術の一つだったりする。


「面白かった!」「続きが気になる!」「ナイスカロリー!」などありましたら、ブクマや★★★★★などで応援いただけると嬉しいです。

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[一言] ああ、あらすじのアレが……!
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