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ぽっちゃり転生は二度美味しい! ~武術と料理で異世界無双~  作者: 西山暁之亮
第四章 吸血鬼? 何それ美味しいの!?
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第28話 裏路地の奥のヤバいヤツ

 さっきまでサキュバスのお姉さんの顔が聖母のように見えていたのに、今や舌なめずりをする悪魔に見える。

 その視線は僕の股間から始まってチャーミングなお腹のちょっと脇に移る。つまり、しまい込んだ財布だ。

 改めてサキュバスって怖いなって思う。

 このままついてったら気持ちいい通り越して気絶して、一緒にお財布が搾り取られていたかもしれない。

 そういえば、ニックがトラウマだって言ってたっけ。

 色町は好きだけどサキュバス相手はゴメンだとかなんとか。

 僕はそんなの引っかからないよと笑っちゃったけど……ゴメンねニック、君が正しかった。こりゃ無理だ。

「禁止って。カタいこと言うようになったのねぇモカ」

「前のあたしじゃないの。今の黙ってあげる代わりに教えて」

随分(ずいぶん)と買ってるじゃない。もしかしてそのオークさんに()れた? 面食いが珍しい」

 あのー、サキュバスのお姉さん。

 指に輪っか作ってもう一つの指スコスコ出し入れするの止めて貰えませんかね。舌をチロチロさせるのも。

 童貞には厳しいです。

 主に前屈みになる方面で。

 僕だって健全な男の子なんだぞ。

「先生はそういうのじゃない」

 そういうのじゃないのね。

 僕ちょっとショック。

 もちろんモカには僕への矢印を期待していないし、そもそも彼女は僕と釣り合わないくらい美少女だから今更だけどね。

 それでも可能性ゼロって言われると心が傷つきます。

「あっそ。でも知ってることなんてねえ。通り魔なんてそこら中にいるけど……」



「ギャアアアアアアアアアアアアアアア……あぁぁ」

「な、何だテメエうぎゃあああああああ……うぁぁ」



 タイミングを見計らったような悲鳴が上がった。

 とはいえ、ここではあんまり珍しいことじゃない。

 僕たちの会話の間にも、実は喧嘩の声が聞こえていた。

 声の大きさからして刃傷沙汰に発展したと見たね。四ヶ月もいるとそのくらいは解る。

 サキュバス嬢達も同じことを思ったようで「またか」とばかりに路地裏の方を向いた。みんなとばっちりを喰らわないようにと、そそくさと建物の中に避難してゆく。

 目の前のサキュバス嬢さんも建物に入ろうとしたんだけれども――いきなりコテン、と首を傾げた。

「……今のがそうじゃない? モカのお目当てのは」

 そう言われて、僕とモカは顔を見合わせる。

「? なんで?」

「サキュバスだからね。解るわ。何か吸い取られているような感じ。私たちが本気で相手した時に上げる断末魔みたい」

 本気で相手すると断末魔あげるんだあ。こわーい。

 それはさておいて、なるほど一理ある。

 男の精気を死ぬ直前まで吸い尽くすサキュバスさんだから声で解るのね。

 嬌声(きょうせい)もとい悲鳴ソムリエみたいなものか。知らんけど。

 しかしモカは納得したのか、ボウガンの(あぶみ)を踏んで弓を引く。

 ガチリと引き金が鳴ったところに短い矢をセットして、先っちょにニンニク一欠片を刺していた。

 ……そんなんでいいのかよヴァンパイア対策。

 仮にもファンタジックな世界なのだから、もっと祝詞だとか何とか無いのか。

「あんがと! 先生いこ!」

 ぴゅーっと走っていくモカ。

 僕もスキルで足が速くなったとは言え、足の速さで兎族には追いつけなさそうだ。



 ★



 モカが入っていったのは一ブロック離れた曲がり角。

 細い裏路地で、いつもならよっぽどのコトが無い限りは避けて通る場所。

 入り込んだらたちまちゴロツキに囲まれるような場所に、モカは躊躇(ちゅうちょ)無く入り込んでゆく。

 僕も意を決して入っていくと、そこには急にシリアスな風景が広がっていた。

「ひ、人が! カラカラになってる!」

 ゾッとした。

 多分倒れているのはここの住人だろうか。

 その殆どがミイラ化してる。

 おっかなびっくり歩きながら、彼らの体を調べてみる。

 外傷はなくて、吸血鬼に犬歯を突き立てられた跡もない。

 でもみんな僅かに口角が上がっているのは何故だろうか。なんで()()

「先生こっち! いた!」

 モカが手招きしている。指差すのは裏路地の丁字路の更に向こう。

 建物と建物の間、人二人がギリギリ入るような場所の奥にそいつはいた。

「アレがヴァンパイア!?」

 僕が想像していたソレとは全く違っていた。

 ヴァンパイアといったら伯爵めいた格好、つまりブラムストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」のイメージかと思っていた。

 でも目の前にいたのは真っ黒な鎧を着た男。

 ドラキュラのドの字もない、混じりっけ無しのやべーヤツだ。

 背丈はかなり大柄。身に纏う鎧は薄い金属なのか、思ったよりほっそりしたシルエット。

 ただ禍々しい呪文が全身に書かれていて、胸に埋め込まれた赤い宝石のようなものから赤い血管のようなものが伸びている。

 顔もフルフェイスで伺えないけれど、輝く光はモンスターの赤い目と同じだ。

 武器は持っていないけど、その手が掴んでいるのはミイラ化した男の首。

 今まさに食事中だったところを見つかったというか、そんな雰囲気が(ただよ)っている。

「僕の想像してたのと違う!」

「あ、あたしも。アンタ何よ! ヴァンパイアなの!?」

 そうなの?

 じゃあマジで何だろうコイツは。

 ヴァンパイアは僕たちを見るなりザッと背後へ飛んだ。

 四つん這いでこちらをジッと見ているのはまるで黒豹のようだ。

 そこからヴァンパイアはそのままずーっと睨んでくるだけ。

 どうしようか考えているのか、何も考えていないのか。

 伝わってくるのは躊躇(ちゅうちょ)のようなものだ。

 躊躇(ちゅうちょ)しているってことは、知性があるということ。

 もしかしたら戦力を図りかねているのかもしれない。

「――おりゃあ!」

 バヒュン!

 真横から風を切る音が響いた。

 あ、汚え!

 モカ、いきなり撃ちやがった。

 まあでも……ヒーロー戦隊ものみたいに、怪人相手に前口上なんて意味が無いよね。

 僕たちとヴァンパイアの彼我は二〇メートルを割るくらい。

 モカの腕なら鎧のスキマ、目を撃ち抜くこともできるだろう。

 ヒュルヒュルと風を切りながら、矢はヴァンパイアの真っ赤な目に向かってゆく。

 そのまま突き刺さるかなと思った瞬間。

 僕たちは度肝を抜かれることになる。


 カッ!


「うっそ!? ボウガンの矢を(つか)んだ!?」

ボウガンの矢を掴む相手に、武術は届くのか!?


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