第27話 ヴァンパイアをハンティングしよう!
「よく考えたらギルのアニキもそうじゃ無かった。何、強い人ってみんなそうなの?」
「僕が強いかどうかはわからないけど、ギルの強さは本物だと思うよ」
何度注意しても頑なに直さなかった戦い方だけど、ああまでやるとなかなかどうして。立ち振る舞いは堂に入っていた。
そもそもの話、あんな鉄塊みたいな剣を真正面から振り下ろすのはハンパな実力じゃ出来ないと思う。鬼気迫る強さへの執着も、生半可なものじゃない。
彼もまた、何かを抱えているのだろうか。
武術好きとしてはちょっと聞いてみたいのだけど、彼が避けてるからな。参った。
「本当に強い人って威張り散らさないんだね。あたし初めて知ったかも」
「わかんないよ。僕だって先生だぞって威張り散らすかもしれない」
「先生はしない」
何故断言するのだろうか。
ふと、モカがのぞき込むように僕の顔を見てくる。
こうして見るとやっぱり美少女だな。
その大きな目でジーッと見られると困る。
恥ずかしくって目を反らすと、モカは再びニヤニヤ顔に戻った。
「なになに、やっぱあたしの可愛さに惚れた?」
「うるさいな! ホントにご飯作ってあげないぞ!」
「それはやーだー!」
やかましく叫んだと思ったら、エステルみたいにピッタリ側にくっついて歩こうとする。
この調子だと心労でガリッガリに痩せてしまいそうだ。
そんなモカと一緒の帰り道。適当に見つけた露店でパンを買って昼飯にして、買い食いして歩いてたらやっぱり衛兵さんの職質に出くわす。いつものようにギルド証を出して、「ランクA!? お前が!?」っていつものようにビックリされたあと、二、三質問されて終わり。これも慣れた。
ちなみに今僕の冒険者ランクは事実上最高のAを貰ってる。カーラさん、いつの間に中央ギルドにお伺い立てたんだ。
彼女曰く「先生って呼ばれてるのにCじゃハクがつかないだろ」だって。そういうのいいです。
ただコレはコレでけっこう得だったりする。
たとえば職質。
ランクAなんてなんてそうそういないので、衛兵さんの魔法による名簿照会が早い。何十分も拘束されることは無いから楽だった。
そんなこんなで、ゼロゾーンについたのは腹時計で十五時ぐらい。
朝市や平和な市内を満喫したからか、このダークファンタジーめいた雰囲気に「帰って来ちゃったか~」と肩を落としてしまう。
「ここの雰囲気、もう少しなんとかならないかな」
「あたしは嫌いじゃ無いよ? 刺激的だし」
そう言って早々にパンを食べたモカは、何故かボウガンを手に構えた。
ゴロツキに絡まれたでもないのに何をしているんだろうかコイツは。
「何でボウガン?」
「何でって。これからヴァンパイア狩りするんだけど」
「!?」
むせた。
せっかく買ったパンが思いっきり地面に落ちた。勿体ない。
砂を払ってパンを口へ放ると、改めてモカの予想斜め上の言葉を問いただす。
「何だっていきなりヴァンパイア狩りが始まるんだよ」
「昨日ママ言ってたじゃない」
「確かに言ってたけど! ゼロゾーンに出るなんて一言も言ってなかったじゃん!」
「大体その手の注意はゼロゾーンの中の話だよ。『向こう側』だったらやたらいる衛兵に絶対見つかるのに、見つからない。マフィアもやられてるっていうなら、ここしか無いんじゃない?」
ウサ耳のくせにいっちょ前に理論的なこと言ってる。
言われたことは確かにその通りだ。
消去法で考えても、最近世間様を騒がせているヴァンパイアがココにいることは濃厚。
だからって今の今始めるヤツがどこにいるんだっての。
いたか!
目の前に!
「他の奴らが首かっさらう前に私たちで狩っちゃおうよ」
「もしかして珍しく朝起きてたのはソレのため?」
「いーやー? 今考えた。先生もいるし丁度良いかなって」
「そ、そうなんだ。で、ヴァンパイアってそもそも昼に見つかるの?」
「さー? そろそろ夕方だし、寝起きを襲えるかもね」
さいですか。
これはアレだ。
この子はこういう子。
気分とノリでコロコロ変わる、刹那を生きてるウサ耳。
最早ここまでくると突っ込んだ方が野暮かもしれない。健人覚えた。彼女と一緒の時は振り回される前提だ。
と、いうわけで。
今日の午後は予定を変更しましてヴァンパイア狩りになりました。
ファンタジックここに極まれりだ。
僕、休日なんだけど……と言ってもモカはお構いなし。
ここだけはカーラさんと似てる。
似ちゃいけないと思うんだけどな。
ホントは皆のためにカレーを作りたかったのに。どうしてこうなった。もう慣れたとはいっても、こんなガラの悪いトコ歩くのは嫌なんだけどなぁ……。
「あら、モカじゃない。なぁに? いよいよ客取り始めたのぉ? オークなんて金持ち引っかけてやるわねえ」
こんな危なっかしい場所で声をかけてくるのは、大体カツアゲか、こういうサキュバス娼婦のお姉さんだったりする。
ただ今回は僕ではなくモカに話しかけてきた。その口調は客に語りかける甘ったるいものではなくて親しみがこもっている。
どういう関係なのかとふと妄想を膨らませて、止めた。モカはモカだ。
そんなしょーもない事を考えていると、僕の事を客と言われてムッとしたモカ。何をするかと思ったら、いきなり僕の腕をギューッと抱きしめた。
モカさん当たってます。
当たってますがな。
君の弾力あるものがッ!
僕の弾力あるボディに当たってますってば!
流石の僕も心臓に悪いです!
「ちがわい! この人は先生! もの凄い強い冒険者なんだよ~」
「冒険者? まぁだそんな危ないことやってるの? ショーに戻ればいいのに」
「余計なお世話だよ。こっち振り回してる方が楽しいし」
ジャカ、と自慢のボウガンを掲げるモカ。
矢がこっち向いてるんですけど。危ないから止めて欲しい。
「全くもう。親切で言ってやってるのに。そんなんじゃ通り魔にやられちゃうわよ」
「その通り魔を狩ろうとしてんの。最近見ない? 男をカラッカラに干すヤツ」
そう言うとサキュバス嬢がうーんと考えながら、ススススとこっちに寄ってくる。
え、何ですかいきなり。
僕お客じゃないよ。
昼真っからエッチなのはいけません。
「教えていいけど、このオークさんがお客になってくれるなら」
屈まれて思いっきり胸チラされた後、フーッと耳に息を吹きかけられる。
うっひょう!
ゾワゾワする!
――これがサキュバス。
男がどう足掻いても心が揺らぐという種族。
触れられる感触はエステルやモカと変わらないのに、手を握られただけでこちらがトロけてしまいそう。
膝から崩れそうになったとき、みゅーっと頬を引っ張られる。モカだ。
その刺激で桃色空間に染まっていた視界が一気に引き戻った。
「ハッ! 僕は何を!」
「先生を魅了魔法で落とそうとするのやめてくれない? それ禁止されてるはずだよ」
「あら残念。ウワサの凄腕コックさんの味見したかったのに」
今の魔法だったのか。危ねえ。
よくよく見たらサキュバス嬢の頭に天使の輪っかよろしく、輝く魔法陣が回っていた。
サキュバスの他、この世界には対女性特攻のインキュバスもいます。が、時はジェンダーレス時代、男の娘インキュバスもいてこれもうわっかんねえなってなる事もあるとかないとか。
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