第24話 コロッケ一つでフェスのように
「今日はいいおイモを見つけたからコロッケだよ」
「「「イヤッフウウウウウウウウウ!!!」」」
夕飯時のギルド『灰狼』はフェスのように盛り上がった。
やかましいことこの上ないんだけど、喜んでくれるのは純粋に嬉しい。
今更だけどイモって言ってこの世界で通じる。というか、僕が買ってきたのはまんまジャガイモだった。味も似てる。こっちの方が若干甘いかな?
醤油もそうだったけど、この世界の食事事情に関しては元の世界と似ているところが多い。とりあえず皆の味覚の好みが僕の世界と一緒で助かった。
お陰様でコロッケは最初のハンバーグと同じく皆の大好物。
各々の席に回ってコロッケを配ってゆくと、置いた瞬間彼らの口の中へと運ばれていった。
「んまあああい! 先生の料理サイコー!」
ウサミミをビーンと伸ばして喜んでいるのは兎族のモカだった。
常にへそ出しシャツにホットパンツという、常に夏真っ盛りみたいな姿。
エステルとは対照的に表情がコロコロと変わるし、メイクもバッチリ決まっている。間違いなく美少女の類いなのだけれどもとにかくやかましい。
端的に言えばギャルだけど、いつも手放さない大型ボウガンこそが彼女のトレードマーク。職業も『ハンター』だって。賞金首モンスター専門らしい。やっぱりひと狩り行くヤツじゃんね。
「モカはコロッケ好きだね」
「もともとお芋スキだったけど! ニンジンと一緒に練って揚げるなんて思いつかなかった! 先生サイコー!」
ムチューッと投げキッスを飛ばしてはカラカラと笑っている。食事中なのに彼女はいつもうるさい。注意しても聞かなさそうなので僕はとっくに諦めた。
それでもいつも美味しそうに食べてくれるのは嬉しいかな。彼女は兎だからと、安直にニンジンや野菜を混ぜたのが良かったみたい。
他の連中は肉を入れたりクリームを入れたりと微妙に変えてるけど、それも好評。
買い出しに付き合ってくれたエステルも、モカの隣で黙々と口に運んでいた。
「先生の料理好き。斬新。美味しい」
「だよねだよね。もう外食出来ないよね!」
エステルにガッと抱きついているモカ。エステルは食べるのに集中したくて引き剥がそうとするけれども、嫌な顔はしていなかった。
「ただ、太る。美味しすぎて、食べすぎるから」
「うぐっ! そ、それを言っちゃあ……」
エステルがナイフのような鋭い一言を放つと、他の女子達も「ぬぐ!」だの「うっ!」だの言っている。女の子だからやっぱそこ気にするよね。
一応彼女たちにはサラダ多めには出してるんだけど……もう少しヘルシーな献立も考えておこう。
「なんでえなんでえ。乙女共はそんな事気にしてるのか。俺たちはありがたく頂くぜ」
そう言って「おかわり!」と大変元気な声を上げるのは、ハゲ頭にやたら傷のある冒険者。眉すらそり込んだ彼の名はニックという。
見た目からしてザ・ゴロツキだけど、なんと元は上級騎士の三男坊らしい。
彼もまた紆余曲折あってここにたどり着いたんだとか。時々自嘲気味に没落騎士と言う割には寂しそうな顔をするので、そこのところは首を突っ込まないでおく。
「ニック。あんたちょっと太ったんじゃあないの?」
「いーんだよちょっとくらい。見ろ先生を。こんなんでもメチャクチャ強い」
「先生は先生だから強いんでしょ。見てよこの柔らかいの。同じ太るにも極めるってのはこういう事なのよ」
「二人とも。僕のお腹タプタプしながら話すのは止めようか」
そう言ってお代わりのコロッケを皿に置くと、二人は素直に食べ始めた。子供か。モカに関しては太るの気にしているんじゃなかったのかと突っ込みたくなったが、止めておいた。
因みに僕のチャーミングな部分はよく触れられる。
ほっぺとかお腹とか二の腕とかアゴとか。
嬉しいやら悲しいやら。
慕われている、ということで割り切るコトにした。
「確かにエステルやモカの言うとおり、我々は少しばかり胴回りが膨よかになったな兄弟。我も先生に胃を掴まれてからというもの腹の肉が増えてきてしまった。栄養満点の料理は我の創作意欲に拍車をかけてくれるものだが、悩ましいものである。うん、うん」
やたらと早口でまどろっこしい言い方をするのは、錬金術師のフードを片時も脱ごうとしないヴィクトール。
彼の来歴は解りやすい。錬金術師としてエリート街道まっしぐらだったのに、実験の最中に学園を爆破したとか何とか。
天才とバカは紙一重でバカの方にはみ出た人ですね。わかります。これでも意外と社交的だから驚くんだよね。
その他にも語りきれないほどいる。
女の子だけでも他にずっとボンテージ姿のヤツもいるし、どう見ても幼女だけど大酒飲みのドワーフ娘やキツネ耳生やした和風な幼女まで。どいつもこいつもキャラクターが濃すぎるから割愛させて。
「おお、やってるねえ」
カランとドアのベルが鳴る。
ギルドの入り口を見ると、入ってきたのは疲れた様子のカーラさんだった。
「おかえりなさいカーラさん。ギルドの会合でしたっけ?」
「そうだよ。また下らない案件押し付けられてさ。こっちはそこそこの所帯なんだから、たまにはカネになる仕事よこせってんだ。適当に貼っとくからみんな見とくれ」
と言いながらスタスタとクエストボードの前に来ては、羊皮紙をペタペタと貼っている。ギルド連合からの連絡とか、手配モンスターの賞金とか色々だ。
ギルドの皆は食べ終わると、クエストボードに集まり書類とにらめっこ。
こいつらこんなんでも仕事熱心だったりする。イリーガルな方法を使っているかもしれないけど、変なことに手を染めるよりは何倍もマシだ。
そんな彼らを見ているカーラさんの目はとても優しい。僕もついついママと呼んでしまいそうだ。
「ご飯まだなら食べます?」
「いただこうかね。い〜いにおいだねェ。あのコロッケってヤツかい?」
「はいどーぞ。いいカニも手に入りましたから、カーラさんにはカニクリームコロッケです」
カリカリに焼いたパンとサラダを添えてカウンターから手渡すと、カーラさんはとても綺麗な所作でナイフとフォークを使い、カニクリームコロッケを口に運んでゆく。
「いつも美味いねえ」
たった一言だけど、全部詰まったような感想。
顔が「疲れに染み渡る」とか、そう言ってる。
よかった。口にあったみたいだ。
「……ウチの連中、すっかりケントに懐いたね。助かったよ。大所帯になってアタシじゃ回りきらなくなってきてたんだ」
「僕も一時はどうなるかと思いましたけど……カーラさんの言うとおり、可愛い奴らですね」
「そうだろうそうだろう。みーんなウチの子さ。アンタもね」
「そりゃどうも。ただ……」
チラリとギルドのロビーの端を見る。
そこにはもともと、鉄塊のような剣を背負った男――ギルが座っている場所なんだけど、今は空席。
これだけカオスとした空間なのに、そこだけは誰も座ろうとしなかった。
この世界のジャガイモっぽいイモはケントの世界のものにソックリでおいしい。
特に『東の国』のリューイチ・カワーダ男爵が品種改良した通称『男爵いも』は特に人気品種。
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