第18話 もうお家に帰りたぁぁぁぁい!!
「うるっさ。凄い声出すね。もしかしてスキル【バインドボイス】持ちかい?」
知らねえよそんなスキル!
飛竜がやかましく吠えそうなスキル名ですね!?
いやまぁそんなことはどうでもよろしい。
何だこのいかにもな建物は!
おもっくそ「はい、こちらマフィアの事務所です」みたいな雰囲気は!
「騙されたああああああああちっくしょああああああああああああ!!」
「こらこら人聞きの悪い。いったいどこの誰が騙したって?」
「アンタですよ! 貴方でございまするよカーラさん! どこが! これのどこが冒険者ギルドなんですか! 街のどん詰まり! スラム街の奥の奥! 誰が依頼持ってくるんですか!」
「意外と喋るんだねアンタ。こんなナリでこんな場所でも、けっこう需要があるんだよ?」
「その需要! 絶対悪いヤツ! お天道様に顔向けできないヤツ! 僕、暗殺とかヤですよ!?」
「それこそ人聞きの悪い。暗殺なんてアサシン商会の専門さ。ああそこの二つ先がそうなんだけど。あとで挨拶いこうか。気の良い奴らばっかりだよ」
あるのかよアサシン商会!
しかも指差したの廃寺院だよね!?
可愛いツインテ巨乳の貧乏女神様が住んでるとかじゃなくて、表情の無いバーコードの入れ墨入れたハゲがアジトにしてそうなやつ!
「物騒! アンド物騒! やだ帰る! サーラの村に帰る!」
「好きにすりゃいいが……どうやって帰るんだい?」
うっ。
し、しまった。
そこ考えてない。
「ケントは異世界からの召喚者だろう? 地理なんて解らないはずだ。それに馬車で一晩かかったのをどうやって戻るつもりだい?」
「ぼ、僕も馬車を!」
「ここで馬車乗るにはそれなりの社会的地位が必要さ。客装って馬車ごと盗む馬鹿が横行してねぇ。証明出来る何か持っているか、そういうやつと随伴しなきゃホームにも入れないんだよ」
よしそいつブン殴ってやる。
じゃなかった、ええ何それ。
馬車って公共の乗り物じゃないの?
「観念しな。でも言っただろう。悪いようにはしないって。な?」
「そういう事言っても! 騙されない……ぞ……」
「ダメかい? アンタのコトはけっこう気に入ってるんだけど」
そうやって甘い声で、胸元ガッツリ開けて迫ってくるんじゃあない!
やめろおおおおお切なそうな顔するなよぉおおお!
ワザとやってるって解っててもこっちが悪いような気がしてくるだろおおお!
「いいから入りなよ。絶対仲良くなれるからさ」
「う、うう……で、でも!」
「いいから。異世界のメシ食えば皆も認めてくれる。ガキ共も腹減って気が立ってるからね、美味しいの頼むよ」
そう言われると引くに引けなくなってしまう。
どんな人にも頼りにされるとね。
僕としては手を伸ばさずにはいられない。
単純と言われても仕方ないよ。
だって僕、前の世界ではホントいらない子だったから。
必要とされたいと思うし、必要だと思われたなら望むことをしてあげたい。
当然、常識の範疇内で。
常識の範疇内で!!
「ああそうだ。一つだけ先に許しといてやる。今日はあの馬鹿共殴っていいよ」
何それ。
そんなにヤンチャな子供達がいるってことかな?
まあいいやもう。
どうせ戻れないし。
この人の甘言に釣られてきたのは僕のミスだし。
中身を見てから考えても遅くは無いよね――?
★
「あぁ? なんだテメェ。どこから来やがった」
「ギャハハハハ! 何コイツ。撃っていいの?」
「ママ、斬っていい? 新品のナイフ試したい」
「興味深い。その腹回りの肉。爆薬でどれだけ飛び散るかな?」
「……帰れデブ。殺されてえか」
――前略、サーラの村の皆様。
――お元気ですか。僕は早くも命の危機に瀕しています。
――たすけて。
騙された、と叫ぶコトも出来ない程に、僕は圧倒されていた。
ギルド作りこそサーラの村と同じだったけど、メンツが本当にヤバヤバのヤバだった。
ジェイクさんの強面なんか屁に見える厳つい連中。
顔にガッツリ傷は入ってるし、皆首元とかに同じ入れ墨がある。
多分あれだろこれ、罪人の証とかだろ。
テーブルにガッツリと足を上げて、広げられているのはカードと掛け金。
どう見てもゴロツキです。
本当にありがとうございました。
そうかと思えば陰気くさい魔法使いなのか錬金術師なのかわかんないヤツが、ミニ四駆の大会よろしくテーブルに薬品だの何だのを置いて実験してる。
それ零したらどうするつもりだよ。
ドクロマークついてる瓶とか無造作に置くなよ!
極めつけはここにいる女性達がみんな強そう。
エルフってアインツさんみたいな礼儀正しい人ばっかり想像してたけど、僕のコトを豚を見る目で蔑んでいるのはやたらとナイフを身につけたスレンダー美女。
灰色の肌に真っ白なボブの髪がとてもステキ。
ただし、目がやばい。
人殺すの朝飯前って顔してる。
顔も無表情。殺人機械か?
そうかと思えば爪に色塗ってる褐色肌のウサ耳が僕を見てゲラゲラ笑ってる。
娼婦とは言わないけど、ギャル系なのかな――と思ったら横にごっついボウガン立て掛けてる。一狩り行くの?
あと完全に殺意向けてるのが奥で黙って座ってる人。
背中に「ドラゴン殺しまーす」みたいな大きな鉄塊もとい剣を背負ってる。
この人だけヤバい通り越してエネミー沙汰。目が赤くないだけマシ。
エトセトラ、エトセトラ。
マフィアどころじゃ無かった。
気分は山賊のアジトに来た気分です。
ホントにギルドか?
依頼人が来たら秒で殺されるだろこれ。
常に首元に刃物を当てられている気分。
僕にスキルが無かったら「あっこれ死んだわー」って笑っちゃうレベルだった。
「あわわわわわわ」
「何ビビってんだい。ほら皆! こいつは新入りだよ!」
そう言うとヤバい連中がドッと笑った。
ダメだ帰りたい。
お家帰りたい。
てか異世界から元の世界に帰りたい。お母さーん!
「ほら名前! 仲間になるんだから」
「仲間だァ? ママ、こいつ使えンのかよ。魔法使いのかっこしてるけど杖持ってねえじゃねえか」
ハゲの傷だらけ野郎が立ち上がり、蛮刀を肩にトントンしてる。
怖い通り越してファンタジーだよ。
いやここファンタジックな世界だけどさ。
「いいとこに気がついたね。ケントは武術家さ。レアモノだよ。冒険者ランクは最初からCだ」
さらっと僕の個人情報流すのね。
ランクCも隠しておきたかったのに。
案の定、笑い声にザワつきが混じり始めた。
「武術家ァ!? こんなんで最初からランクCだとぉ!? おい聞いたかよ皆。こいつのぷよぷよ拳でドラゴン倒すんだってよ!」
再びゲラゲラと笑われる。
何だか芸人にでもなった気分。
ジェイクさんの時はカッとなったけど、もう僕はとにかくここから逃げたい。
笑われたっていい。
馬鹿にされたっていい。
ほんと苦手なんだよこういう相手!
ここでかっこ良く――
「失礼な人だね。そうだ、ちょっと外の空気吸ってみようか。その蛮刀、持ってきていいよ。何なら背中から斬ってもかまわない。何、ハンデというヤツさ」
なんて首クイして挑発すればかっこ良く決まるんだけど。
「そ、そうですよねぇ! アハハ僕ちょっと間違えて来ちゃったみたいです。大人しく山に帰りますね~というわけでお邪魔しました……!」
取り繕って逃げる。
僕の悪い癖だけど今回は許して!
「お待ち。まだ自己紹介してないのに逃げるなんて何事だい」
「ぐええ! く、首! 首を掴まないで! 苦しい!」
ざんねん、健人は逃げられなかった。
もの凄い力で首根っこを掴んできたのはカーラさんだった。
ケントは逃げだした!
しかしカーラに回り込まれてしまった!
「面白かった!」「続きが気になる!」「ナイスカロリー!」などありましたら、ブクマや★★★★★などで応援いただけると嬉しいです。