第17話 城塞都市の端っこで騙されたと叫ぶ
「さ、見えてきた。ここがアリアンナ王国の王都ファリズンさ」
「結構遠かった……途中の村で一泊するとは思わなかった」
サーラの村から馬車で出て一晩。
途中の馬車駅兼宿泊所で泊まってから、午前中ずっと走ってようやくたどり着いた。
慣れない旅路にげっそりしていたけれども、王都について僕の疲労は一気に飛んだ気がする。
「うわぁ、凄い景色!」
「そうだろうねえ。この大陸一番の城下町だ。真っ白な高い城壁が見事だろう? 『白亜の城塞都市』なんて言われてるくらいだからねえ」
もの凄く高い城壁が目の前にそびえ立っている。多分高さは一〇〇メートルくらいあるかも。
城壁の上には弩砲のようなものが一定の間隔で配置されていて、その横には豆粒みたいな衛兵がにらみを利かせていた。
これまたバカでかい城門をくぐり抜けると、わっと目に入るのはおびただしい人、人また人。
同人誌の即売会よりかは密集度高くないけれど、観光地のようにとにかく人で賑わっている。
目抜き通りはそのまま奥の城に繋がっていて、馬車がひっきりなしに走っている。
奥の城もこれまたファンタジーな感じで、中央には巨大なクリスタルのようなものが浮かんではクルクル回っていた。
すげえ。
絶景だ。
写真撮りたい。
スマホ無いけど。
露天も多いしお店もとにかく派手な装い。
立ち並ぶ建物も確か僕の世界ではジョージアン様式って呼ばれていたヤツだ。左右対称の建物がみちっと建っている。ちなみにこれも動画の知識です。
この町並み、ファンタジーな種族達がいなかったらフランスとかイギリスあたりの観光地だよって言われてもわからないかもしれない。
「奥が見えない。とんでもない都市なんですね」
「ちっとは期待してくれたかい? 可愛い子なんてそこら中にいるよ」
「でしょうね! これだけ広ければ!」
「鼻息荒いね。まあ童貞には仕方ないか」
そのやたらと童貞って言ってくるのやめてくれませんかね?
もちろん捨てる予定は……あ、あるんだよね?
あるのかなぁ。
わかんない。
「さあここで降りるんだ。馬車は主街道くらいしか走れないからね」
言われるまま降りたのは馬車の駅の終点のような場所。
広いホールに馬車が無数に停まっている。これだけでもテンションが上がる。
カーラさんは御者に金を支払うと、
「ついてきな。迷子になるんじゃあないよ?」
と言って雑踏をスタスタと歩いていく。僕は人にぶつかりながら必死についていった。
「人が、人が多い!」
「我慢しな。ここら辺だけだからね」
「カーラさん。『灰狼』ってギルドはここから離れてるんです?」
「冒険者がいるところは大抵そうだよ。さっきの目抜き通りは観光客もいりゃ別の国の貴族だって通る場所さ。冒険者みたいに腰に剣吊ってるのがワラワラいたら引くだろう? お外向きの配慮ってやつだ」
なーるほど考えられている。
僕も一回だけ海外旅行行ったことがあるけれど、警察官とはいえガッツリ銃持ってるのは怖かった。そういう配慮って大事だよね。
暫く進むとカーラさんの言うとおり人通りは減ってきた。それでも僕がいた日本の街くらいはいたけれどね。
進んでいくウチに今度は工房街とか、変なスモッグめいた煙を吐き出してる錬金術師たちの区画とかを横切ってゆく。
そろそろ着く頃かな、と思ったけれどカーラさんは構わず進んでゆく。
「カーラさん? まだ進むんです?」
「もうちょっとだよ、もうちょっと」
そういってもうけっこう経つのだけれども。
今度は歓楽街というか、少し大人の街の区画に入ってゆく。
「はぁいオークさん。昼間から遊んでかない?」
キョロキョロしているうちに、際どい服装のお姉さんに話しかけられた。
もう胸なんかギリギリ布で隠しているような感じ。
ガッツリ編み目の食い込んだガーターベルトと、ファー付きの……なんだろこれ。マフラー? をヒラヒラさせている。そこに香水でもつけているのだろうか、やけに鼻腔を刺激する甘い匂いが漂ってきた。
頭にコウモリの羽根がついているんだけど、このひと人間じゃないのかな?
「どーお? 安くしておくわよ~?」
「あ、あのぼぼぼ僕は」
「コラコラ、子供が遊ぶにゃ早いよ」
もじもじしていると、むんずと手を掴まれて引かれる。
まるで母親にオモチャコーナーから引き剥がされる子供の気分だ。
「せいが出るね。でもこいつをカモるのは無しだ。ウチの身内だよ」
「あ、カーラのママ! ゴメンなさ~い、地方のおのぼりさんかと思って。服着たオークって金だけは持ってるからさぁ」
「いいさ。サキュバスなんだからうんと搾り取ってやるといい。別のヤツをね。こいつは新入りさ。そうみんなに伝えておいてくれよ」
はーい、とサキュバスのお姉さん。
引っ込んでいく先に、何やらごっつい大人がいる。
こわ。
こっっっわ!!
もしかしてこれヤバいヤツだったのでは?
というかどんなところ通ってるんだよコレ!
「まあアンタなら、そこらの構成員が束になってもかなわないだろうがねぇ」
「構成員!? ちょ、ちょっと。何ですかここ! どんどん治安が悪くなってくるんですけど!」
「もうちょっと。すぐそこさ」
もう僕その言葉信じない。
だってさっきのエッチ区画通り過ぎたら今度は一気に街道が古くなったから。
あれだけ綺麗に敷かれた石畳が、段々とボロボロになってゆく。
建物もいろんな意味で迫力があるというか幽霊屋敷のよう。
そこらじゅうから喧噪が聞こえてきて、路肩には物乞いさん……。
……と見せかけて目が鋭い人達が座ってる。見張っているのかこれは?
さっきからカラスみたいな黒い鳥が建物の縁に停まっていて、痩せた犬がうろついている。
道も狭くなってきて、やたらと強面の人達とすれ違う。
みんな睨みを利かせようとして、けどカーラさんの顔を見て会釈してゆく。
僕知ってる。
こういうのスラム街って言うんだ。
今すぐ逃げようと思ったけど、手はギュッと握られていた。
さてはこれを見越して手を握ったのか? と疑いたくなるほど。
そうしてたどり着いたのは道のデッドエンド。
そびえる建物は城壁にもたれかかるように建つ、増築に増築を重ねたビルのような五階建ての建物だった。
「ここが冒険者ギルド『灰狼』さ」
「や、ヤダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
心の底から。
肺の奥から。
腹の中の空気を全身全霊で吐き出して、絶叫した。
異世界にもスラムはある。なるほど一理ある。
だからって自分が来る事になるとは。どうするケント!?
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