第16話 僕、王都にいってきまぁす!
カーラさんの言っていることはメチャクチャで、やってることは殆ど拉致。
名前を出したら皆ビビって、僕のコトも半分脅してるくせに。
何で僕の心は揺れているんだろう。
――もしかしたら、僕はもう殆ど覚悟してたんじゃないかな、と思った。
どうして僕はここに呼ばれたのか。
どうして僕はこのスキルを得たのか。
正直に言えば、半分くらいは解っていた。
僕の存在は、この辺境のサーラの村で料理人兼冒険者やってのらりくらりする為じゃあ無いんだろうなって。
……のらりくらりスローライフしていたかったけれどね!
王都に行けば、その理由くらいはわかるかも。
世界を救えとか言われたらノーサンキューだけど、せめて理由は知りたい。
その道先案内人がこんな姐さんだなんて予想できてなかったけど!
「肚ァ決まったかい?」
「い、いや! いきなり過ぎて、その!」
「何言ってんだ。人生なんていきなりもいきなり、行き当たりバッタリさ。これも縁だよ」
最後に「みつを」って綴ったら色紙が売れそうですね。
いやそういう事ではなくて。
貴方の言うことは何となく解ってきたけど。全体的に強引すぎるってばよ!
「アンタもわかってたんだろ。いずれこうなるって」
「……そう、ですよ。僕の力、強すぎるって。何か意味あるんだろうなって」
「なら何も解らないまま鉄火場に出されるより、落ち着いて考えられるところがいい。それがウチだって言ってんだ」
「あのう。そう言って僕の事危険なクエストに出したりしません?」
「出さないよ。約束するさ。ある意味保護みたいなもんさ。それはアタシの趣味でね」
「趣味?」
「気にしないで良いよ。それにアンタにだって悪い話じゃないと思うんだけどね」
「?」
「こんな芋娘達よりも、王都にはいっぱい可愛い子がいる。腕っ節が強いってのはモテるぞ~?」
……我ながら単純極まりないと恥じることではありますが。
この時天秤がガシャーンと傾いた気がした。
そう来たか神様、と心の中の自分が膝をピシャーンと叩いた。
めくるめく妄想が頭の中に駆け巡る。
この三馬鹿が全部美少女だったらな~とか思っていたけれど!
そういう可能性もアリアリなんですね!?
顔が緩んでいるのが解った。
それを見てか、カーラさんは「うわぁ」と若干引いている。
ちょっと。
そういうの傷つくだろ。
そっちが言い出したのに!
「……そういうので釣れるかなとか思ったんだけど覿面じゃないか。単純なんだねアンタ。まあいいさ、ほれ別れの挨拶」
「だから急だって!」
「そのくらいがいいよ。ダラダラやってると傷になる別れだってあるんだ」
いちいち名言っぽいこと言うなこの人。
確かにダラダラやったら未練タラタラになるかもだけど!
ええい、もう!
「あ、う。み、みんな! LINE……いや、て、手紙書くから! ちょ、ちょっと王都行ってきます!」
「「「ええぇ~!?」」」
すまん皆。
ここの生活めっちゃ良かったけど、僕には使命があるかもしれないし、無いかもしれない。
この世界に呼び出されたのは何か意味があるってことなんだと思う!
知らんけど!
ついでに今度こそハーレム展開になったなら幸せです!
「旦那ァ! そりゃ無いですぜ!」
「大丈夫! 死に別れじゃないんだからまた会える。それに、僕が何者なのか知りたいんだ」
「大将……」
僕の言ってることと、皆が感じたことは多分違うけど似たようなものだと思う。
それに今考えれば、このタイミングで良かったのかもしれない。
嘘ついてたコトは辛かったし。
そもそも苦手だからボロ出ちゃうし。
皆の厚意にぶら下がるのも、何だか気が引けていた。
料理とお仕事で返していたつもりだったけど、それでもね。
よく見れば三馬鹿達が泣いてくれてる。
ちょっとうるっと来ちゃうじゃないか。
でも多分これでいいんだ。これで。
その濃いキャラクターの思い出と貰った防具は宝物です。
「みんな親切にしてくれてありがとう。本当に嬉しかった」
「勇士……」
これは本心。
……あ、そうだ忘れてた。
「それと、そこの料理人さん!」
「ハヒィ!」
料理人さんが半泣きで返事をしていた。
この先の不安が今にも爆発しそう。お気の毒に。
「僕のレシピ! 部屋のメモに書いてあるから! 金曜日にホワイトシチューだけは忘れないでね。みんなが好きなヤツだから!」
「いい別れの挨拶じゃないか。それじゃ行くよ」
「ちょっと! 解ったから離して! 引きずらないで! あ、当たってるし!」
「なんだい胸当たって恥ずかしいのかい? これだから童貞は」
僕がタップしてるのに、カーラさんは構わずズルズルと引きずってゆく。
そうしてギルドの前にあったのは中々にゴツい馬車だった。
カーラさんは僕を放るように馬車に乗せると、御者さんに「急いで出してくれ。ここ寒くてかなわないよ」と一言。
シートベルトは無いのかな? と思ったその瞬間、馬車は勢いよく走り出した。
ゴチンと鼻を打ったのがちょっぴり痛かった。スキルのお陰で鼻血も出ないけどね。
「ケント君!」
外の声に、思わず馬車の窓から身を乗り出す。
見えたのはギルド出張所から出てきた皆の姿。ジェニファーさんが叫んでる。
大きく手を振ってくれた。
それが嬉しくて、思わず僕も手を振る。
見えなくなるまで手を振っていると、僕は涙を拭いて馬車の中に戻った。
「ホントに親しまれてたんだね。ちょっと悪い事したかな?」
「い、いいですよもう。僕が決めたことだし」
「ならよかった。それにしてもいい人材見つけたモンだ。ウチも料理人がすぐ辞めちまってねえ」
見つけたって言うか拉致だけどな。しかも半分脅しみたいに。
まあ「女の子にモテるかも」なんて甘い言葉に乗ったのは僕だし、王都に行けば何かあるかもと思ったのはそもそも僕だから文句は無いよ。
半分はね。
半分は、ね!
それにしても、この人のギルドってどんなところなんだろうか。
ウワサ通りにヤバかったら即座にサーラの村に戻ろう。
てか、今更疑問が思い浮かんだんだけど。
カーラさんのギルド、料理人が足りないならそれこそあの宮廷料理人なり何なり雇えば良かったのに。何で僕なんだ?
「だったらあの元宮廷料理人を何で雇わなかった、って顔してるねえ」
「心が読めるんですか貴方は」
「アンタの顔にそう書いてあるだけだよ。もちろんアタシだってそうしたいさ。けど現実はなかなかね。理想とはいかないんだ」
はぁー、とため息をつくカーラさん。
どいうことなんだそれ。
王都っていうくらいなのだから、治安はこんな場所よりいいはずだけど。
「そう不思議な顔しなさんな。じきに解る。それに言っただろう。人は納まるべき場所があるってね。ピーンと来たのさ。アンタはウチに来た方がいいって」
「は、はぁ」
「アンタなら、アイツらも認めてくれるさ。その腕っ節があればね」
「腕っ節って。僕のステータス見ただけじゃないですか」
「十分だよ。それもアンタの顔に書いてあるからね」
その時の顔は、ほんのちょっぴり母性のようなものが見えた。
僕が必要ってことならやぶさかじゃないけれど、ちょっと強引すぎやしませんかね本当に。
「ええと、ケントって呼べばいいかい? アタシのコトはカーラでもいい。ギルドの連中はママって呼ぶけどね」
「ママ? 子供ばっかりがいるってことです?」
「子供ぉ? ……あっはっはっはっは! まぁそんなモンさね」
顔がほころんだ。なんだ怖い顔のくせに嬉しそうにはできるんだ。
なるほど、見かけによらず孤児とか集めてるとかそういう系か?
ならまあ、ちょっとくらい強引でも許してあげようかな、なーんて。
……思っていた、僕が馬鹿だった。
出会いと別れは突然来るもの。たった数ヶ月でも、ケント君には宝物のような思い出。
そしていよいよめくるめくヒロイン達との異世界ラブコメの予感!
……が、何やら不穏な空気が……
「面白かった!」「続きが気になる!」「ナイスカロリー!」などありましたら、ブクマや★★★★★などで応援いただけると嬉しいです。