第15話 悪名高いギルドマスターの噂
もうやめて! 僕の事で争わないで!
「おいギルドマスターさんよ。最初から疑問だったんだが、アンタどこのモンだよ」
「ギルドマスターとはいえ冒険者に強制はできないはずだ。そもそもワシらが許さねえ」
「所属を。事によってはギルド連合に申し立てます」
あーもーメチャクチャだよ。
三馬鹿がとうとう剣の柄と弓に手をかけ始めた。
僕苦手だからねこういう場所!
喧嘩良くない!
ラブアンドピース!
……と、言えれば良いんだけど萎縮してしまう。
その一騎当千のスキルはどうしたとか言われてもね。
武術は簡単に人を一方的に殴るものじゃないんですよ、という言い訳だけ言わせて。
技と心は別モノなのです!
「言いたくなかったんだけどねえ。ギルドマスターの首飾りだけじゃダメかい?」
胸の谷間から引っ張り上げたのは、ネックレスの先についた長方形の飾り。鎧の人が下ろした剣の柄頭に両手を当てているゴツいヤツだった。
けっこう精巧に出来ていて、これがギルドマスターの証だって言われても全然納得できる。カッコイイな。僕あれ欲しい。
ただそれを見せても、アインツさん達は首を振るばかり。納得してないみたい。
「名を。事によってはエルフも命を賭します」
格好いいこと言ってるイケメンは絵になるけどマジでやめろ。
お前が幼馴染みだったらブン殴ってる。
でも僕が女の子だったらその言葉惚れる。
クソが。何で男共に矢印向けられてるんだもう!
一触即発の事態にも、ギルドマスターさんは引かないどころかさらに目を輝かせている。
こういう修羅場とか鉄火鳩とか慣れてる人なんだろうな。
「そんじゃ教えてやるよ。アタシの名はカーラ。カーラ=ヴィアルド。冒険者ギルド『灰狼』のマスターだ」
「カーラって……まさか!」
「それとも『赭熊のカーラ』って言った方が通りがいいかい?」
カーラさんが名前を出した途端、ギルドがシーンと静まった。
ジェイクさんなんかおもっくそビビってる。
おいふざけんなその筋肉は飾りかよ!
てか、二つ名あるんだ。カッコイイな。
でもビビるほどの人なのか?
「アインツさん。しゃぐまのかぁらって誰?」
「悪名高い冒険者ギルドの長ですよ勇士。王都のどこかにあるというギルド『灰狼』。その長カーラ=ヴィアルドは元山賊ながら王都を襲ったグリフォンを一刀両断。その巧を讃えられ、王から直々に騎士号を賜ったとか」
「え、すごい人じゃん」
それだけ聞いたら英雄レベルだけど?
グリフォンってアレでしょ。鷲の頭に獅子の体を持つってボス級のモンスター。
僕の世界ではまるっとファンタジーのボス格か強敵で出てくるヤツ。
王様が元山賊に騎士号与えるくらいだから、相当なモンスターだったはずだ。
「ですがその名を後ろ盾に、王都の闇で好き放題やっているとか。筋者の元締めに近いという話です」
前言撤回、まるっとやべー人だ!
そう聞くとカーラさんの雰囲気も納得だ。
「ワシも聞いたことがある。王都のゴロツキ共もマフィア共も赭熊のカーラには頭が上がらねえと」
「大将、アイツはマズい。ギルドも本当にあるかどうかもわからねえって話だ。マフィア自体がアイツのギルドなんて話もあらぁ」
冷静に聞いてると全部推測の域を出てないけど、皆の態度がカーラさんのヤバさを物語っている。
確かにもの凄いオーラだし、存在がまるまる怖い人だけれども。
でもその顔からは、外道みたいには見えないけど……どうなんだろう。
そうしているうちに、カーラさんはため息。
つまんなそうに口を尖らせていた。
「ほれ見ろ。アタシの名前聞いた途端ビビりやがって。誰かこの『赭熊のカーラ』と素手喧嘩しようってタマはいないんかい。あぁ!?」
カーラさんの凄みに、シーンと静まるギルド。
わぁん揃いも揃ってタマ無しだぁ!
アインツさん命を賭するんじゃなかったんかい!
なんで弓持たないで震えるジェニファーさんの肩抱いてるの?
そういやこの二人、何かといい雰囲気だったこと今更思い出した。
このクソイケメンめ! お幸せにな!
「ったく。じゃ、コイツは連れてくからね」
むんずと腕を組まれる。その爆乳がムニュンと当たる。
うひょーとか思ってもカーラさんの顔が怖い。もっかい言う。怖い!
そして体重三桁以上の僕を片手でズルズル引きずっている。
なんていう力だ。これがギルドマスターなのだろうか。
グリフォンを一刀両断したってのは本当みたいだ。
「い、いやでも僕は!」
「いいのかいホントにここにいて。今まではたまたま運が良かっただけなんだよ?」
「へ!?」
「さっき言っただろ。アタシが見逃したところで別のギルドマスターが来たら同じことさ。ギルドマスターは皆【人物鑑定A】を持ってる。ギルドに所属しているか、ギルドに足を踏み入れた人間のステータスが全部見える。冒険者登録した時点で半分詰んでるのさ」
そんな無茶苦茶な!
「そしたら行き先は戦場だ。コボルトだのキラーベアだので満足してたアンタが、連日ドラゴンとタイマン張る勇気あんのかい?」
「はう!」
耳打ちするのはわざとらしい甘ったるい声。
確実に僕の弱点を突いてくるのがとても嫌らしい。
「アタシは親切で言ってやってるんだ。アンタは強いが、進んで戦う気は無い。そう言うヤツが無理くり戦いに出された末路は、そりゃあ悲惨なモンなのさ」
なんでそう言って少し悲しそうな顔になるの?
意味ありげな表情の裏が読めない。
人の顔を窺って十七年生きてきた僕を以てしてもだ。
「心配しなくていいよ。ウチのギルドがアンタに一番いい場所だ。メンバーもアンタみたいな一癖も二癖もある連中ばかり。仲良くなれるさ」
いやそこの三馬鹿もかなりキャラが濃くて面白かったですけれど。
それ以上となると僕が捌ききれるかどうか。
僕のチャーミングボディーすら霞んでしまうのでは?
「大将!」
「ケント君!」
「ニャー! 行っちゃうのニャ!? ホントに!?」
「ほれ、一番親しくしてくれている時に挨拶済ませな」
何それ勝手に。
僕はまだ行くとはハッキリ決めていないのに!
――でも。
この人に真っ直ぐに見つめられると反論が出来なくなる。
どうしてこの人の瞳に母性みたいなのを感じてしまうのだろう。
どうして「頼っていいかも」って、顔から読めてしまうのだろう。
恐ろしいはずなのに、どうして母性のようなモノを感じるのか。
このカーラという女性、何者……!?
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