第14話 脅迫と書いてスカウトと読む
何故、バレたのだろうか。
というか世界樹に呼ばれたって何?
やっぱりあの巨木の事?
ちょっといきなりすぎてワケがわからない。
僕のステータスにそんな事書いてあったっけ?
『所属は……何ですかこれ。よ、読めない。あと変なマークついてますね。何だろコレ?』
不意にジェニファーさんの二月前の言葉を思い出す。
慌てて手首を叩いてステータスを見ると、やっぱりあった木のマーク。これは召喚者って意味なのか?
受付嬢は知らないけれど、ギルドマスターなら知っている知識って事?
そりゃそうか。
異世界からの人間なんて居たとしたらトップシークレットだよね。ハハハハ……。
やっべえ。
ダラダラと脂汗が出てきた。
『これがステータス。エルフの里では『己の窓』とも。人からは中身が見えません。唯一【人物鑑定】のスキルを持つギルド関係者が見えることを除けばね』
追い打ちのようにアインツさんの言葉を思い出した。
他人のステータスを覗けるのは、【人物鑑定】のスキルを持つギルド関係者――だったか。
……そうなるとまさか。
この人ギルド『マスター』って言うくらいだから全部見えてるんじゃないか!?
「大方、別の世界のメシが大当たりってトコか? いやあ上手く取り入ったモンだねえ」
「うっ!」
「そんでオークに疑われて、記憶喪失だの言って哀れんでもらったってわけだ。見た目によらず強かなんだ」
「あう、あううう」
やめてえええASRMみたいに耳元で囁かないでえええええ!
「その『筋力値A』って意味知ってるかい? 巨人族と腕相撲できるレベルさ。コボルトなんて赤子の手を捻るようなものだった、だろう?」
「や、やめて! それ言わないで!」
「ハハーン。解った。あんたチヤホヤされるぬるま湯から出たくないんだ。だから謙虚なフリしてるんだねえ」
ひいいいいいい!
全部バレてるー!
ふっざけんなこれ個人情報丸見えじゃないか!
ギルドマスターだからって職権乱用だろ! 訴えるぞ!
……というのが効かない人なんだろーなーわかるよー空気で解る。
法律だの規則だのナンボのもんじゃいって顔してるモン!
「勿体ないねえ。うん、勿体ない。こんな物件そうそう無いよ。いやあアタシが見つけて良かったねぇ。他のギルドマスターなら次の日に戦場かAランククエストへ連行だよ連行」
そういうのヤダー!
なっなななななななんとかして逃げられないだろうか。
……ダメだこの人、「隙」が無い。
片腕を剣の柄に乗せてるだけなのに。
何だこの人!?
更に汗をかいて固まっていると、ギルドマスターさんは僕の耳にフッと息をかけてきた。
「ひゃあん!」
「なんだ本当に子供かい。童貞臭い。これじゃ女と寝るどころか手もつないだことないだろ」
直球で言うヤツきらい。
そうだよ悪いか!
今は肩を噛まれたりタプタプされたりするけどな!
これでも進歩したよ!
「……ぼ、ぼぼぼ僕をどうするつもりですか!?」
「怖がんないでいいさ。取って食いやしないし、悪いことは言わないよ」
というと、周囲から安堵の声。
僕もホッと一息。
ギルドマスターさんは立ち上がると、ニヤリと意味ありげに微笑む。
「でもね、人って言うのは納まるべき場所に納まるモンさ。アンタの居場所はここじゃあないと踏んでいるんだが、どうだい?」
「どうだい、って言われましても」
「ニブいね。アタシんとこ来ないかって事さ」
えぇーここまでのフリ、全部スカウトだったってこと!?
……そりゃそうか。
この人冒険者を募って仕事回すギルドマスターだから。
いい冒険者がいれば引き抜く。
誰だってそうする。
僕だって同じ立場ならそうする。
でも何だろうこの、外堀から少しずつ少しずつ埋められていく感じは。
この人力もそうだけどタダモンじゃない。
知らず知らずに相手を自分のペースに巻き込んでる。
どんな人生送ったらこんな風になるんだ?
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりケント君を連れて行くって事ですか!?」
「そうだよ。今決めた。こいつ記憶喪失って言ってただろう? じゃあウチが責任持って治してやるよ。これでも冒険者を助ける相互扶助会の長の一人、ギルドマスターだからね」
ジェニファーさんにそう言うけど、僕にはわかる。
この人の行間の言葉がわかる。
『そういう事にしといてやるから、観念しろ』
って、僕に向かってそう言ってる。
これで僕が嘘ついてた事バレたら皆が失望しちゃうぞとか、実力隠してたぞとかそう言わんばかりだ。
「ケント君を連れて行かれると困ります。私たちのご飯が!」
「ニャ! ケントの腕噛めなくなるのは嫌ニャ! 作ってくれるクッキーが無くなるのも嫌ニャ!」
解ってたけど女性陣、僕の事自体が好きとか言ってくれませんよね。
みんな僕の料理の腕だけ目的だったんだねチックショウ!
「料理人連れてきただろう。期待して良いよ。元宮廷料理人だ。ギルド連合のワビ入れだよ。わざわざギルドマスターであるアタシが出てきたのもその一環さ」
「元宮廷料理人……で、でも!」
おい、今揺らいだぞ。
ジェニファーさん揺らいだぞ。
僕そういうのわかる。
かなしい。
「さっきも言ったけどギルド連合の名代で来たんだ。人事権に受付嬢がとやかく言える話じゃないよ」
ジェニファーさんが「うぅ……」と肩を下げる。
――それを合図に。
ギルド内が、殺気立った。
や、やめて! アタイのために争わないで!
……がマジになりそうです。
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