第13話 お関わりになりたくない姐さん登場
「あの通り。みんな今更何だって反対してて。ケント君じゃなきゃヤだって。私もちょっとヤだな」
ちょっとですか。
ジェニファーさん、もう少し嫌がってくれてもいいんですよ。
さてさてこの状況。
嬉しいやら悲しいやら。
僕彼らの胃袋をガッチリ掴んでいたのか。
こういう時僕どういう顔したらいいのか解らない。
「やめて! アタイの為に争わないで!」
ってお決まりの言えばいいのかな。
ちょっとふざけた感じで。
……いや、余計に混乱を招きそうだからやめとこ。
真面目に考えると、こんなに放置されていたのに今更来たギルドマスターに非難囂々って感じかな。
人数が足りないところ上手に回していたのに、急に本部から全く現場を知らない人材を押しつけられたら、そりゃ現場は怒る。
これ僕が飲食店でアルバイトしてた時の話ね。
大人のいざこざ見て「うわぁ」って引いたことある。
それが目の前に起きてる。
中心は僕かもだけど、ちょっと他人事に感じてしまった。
「そう言われても困ったねェ。これでも会合の名代で来てるんだよ。アタシの一存じゃあ無い」
冒険者達のやり玉になっていたのは濃い茶髪の女性だった。
後ろ姿しかわからないけど、肩甲骨まで伸びた髪に使い古したファー付きのロングジャケットを着ている。
身長は僕より高い。
一七〇センチくらいかな?
その背後にはプルプルと震える、僕よりちょっと年上の男の人。
多分料理人。手で解る。勇んできたのに拒絶されたって泣きそうな顔してる。可哀想。
それはそうとあの女性、こんなにブーイング受けてどっしり構えてるなんて。余程ハートが強いんだろうな。
一体どんな人なんだろう。
佇まいは完全にマフィア然としているし、口調も姉御肌。
低いけど優しそうな、でも切れたナイフのような鋭さの声音。
興味本位で背後から近づいて――ハッと気づいた。
「どうしたんでぇ大将?」
「この人、めっちゃくちゃ強いかも」
「えっ!?」
近づいて解る強者のオーラというか。
腰に吊ってる幅広の剣の柄に、右腕を自然に預けているけど……間合いに入った途端、剣が伸びてきそうだ。
これ以上近づいたら危ない。
……なーんて妄想していたら、
「おや。骨のあるヤツがかかってくるかと思ったんだけどねえ」
と言って、女性が振り向いた。
……うわ、この人めっちゃ美人!
妙齢、という枕言葉を付けるのは失礼かもしれないけど、それがピッタリ合う。
胸もメチャクチャデカくて、白シャツの胸元がはだけて谷間が見えてる。
体つきもグラマラスで、甘い声をかけられたら頬が緩んでしまいそう。
そして目が凄い。
ややつり目で大きい。
茶色の瞳はやたらとギラギラしているけど、荒んだ景色も見たような淀みも見える。
「なんだいこの鞠みたいな男は。気配はもっと大きいヤツだと思ったんだけどねぇ」
「あ、戻ってきたニャ! ケントも言ってやってニャ! ここはケントの厨房だって! 今更料理人なんてお呼びじゃないニャって!」
もちろんこここでミーアのお望み通り、
「……ギルドマスターさん、はるばる王都からお越し頂いたところ悪いけど、ここはもう僕の場所でね」
なーんて言えればいいんだけど。
初めての人、特にこうオラオラしてそうな人にはつい――
「いやその、僕の厨房ってワケでは……」
と、目を泳がせて日和ってしまう。
あまりにも情けなかったのか、奥でミーアたちが思いっきりずっこけていた。
期待に添えず申し訳ない。
こわいモンはこわいんだ。
「アンタがこいつらの言うケントかい? 記憶喪失の武術家って聞いてたけど。なんだいオークみたいな体つきじゃあないか」
「よく言われますけど、これでも人間です……」
「人間!? いやぁ珍しいモン見たねえ。こんなに丸々太ってるなんざ、上流階級でもそうはいないが――はて、なんでそんなに慕われてるんだい?」
「いや慕われているというか、仲良くさせて頂いてて」
自分でも何でこんなに敬語になってるかわかんない。
だって自分の領域にズケズケ入ってくるんだもの。
こっちは混乱するっての。
「謙遜しなくていいよ。さっきっからアンタの名前ばっかり出てきやがる。余程の実力者なんだろうさ」
「いや実力者って程では……」
という僕の言葉を遮って、ずずいと前に出てくるのはむさ苦しい三人。
「お目が高いなギルドマスターさんよ。大将はソロでコボルトの群れを倒しちまうくらいだぜ!」
「さっきもキラーベアを一人で倒した。素手でだ。俺の防具着てくれるなんざ、ドワーフとして鼻がたけえや!」
「勇士ケントは間違いなく剛の者。エルフの里にいたなら、吟遊詩人が讃えるほどにね」
やめろおおおおおここで株上げんな!!
三人ともドヤァと胸張ってるけど、僕的には逆効果だからね!
ほら見てよ!
ギルドマスターさん「へぇ……」ってめっちゃ興味持ったじゃん!
こういう人とお関わりしたくないのに!
絶対ろくな事起きないからね!?
「腕っ節は強く、料理もできると。こっちはウチのギルドにこそ料理人が欲しいくらいなのにねえ」
「それは、その……ご愁傷様です?」
「喧嘩売ってんのかいアンタ。まあいい。ケントとやら。ちっとツラ見せな」
ギルドマスターさんはズカズカと近寄って、僕に思いっきり顔を近づけてくる。
ぬぅああああ!
この美人だチックショー!
てか何歳だこの人。
思ったより若く見えるけど、雰囲気が歴戦と言うか熟練というか。
暫くギルドマスターさんは僕をジロジロ見ていると、彼女の目に小さな光が灯った。ポワッと燐光みたいなのを上げてる。魔法かな? それとも何かのスキルかな?
と、思ったその時。ギルドマスターさんがいきなり目を見開いた。
「これは……!」
え、僕また何かやっちゃいました?
……みたいにオロオロしていると、彼女はニマニマして僕に耳打ちしてくる。
「どおりで。アンタは世界樹に呼ばれた別の世界の人間。異世界から呼ばれた魂――召喚者か」
心臓が、跳ね上がった。
ば れ た !
もしかしてこれはスローライフの終焉か!?
どうするケント!
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