第12話 サブキャラがヒロインをねだるのは贅沢ですか?
「雷の精霊? んにゃ、ワシの知る限りではいねえな」
ですよね。
流石にそんなのは!
「どこぞの金持ちはサンダードラゴンを飼ってるって聞いたこともあるが……一番現実的なのは北の霊峰のサンダーバードあたりか。普通なら即死級の雷撃ってくるけどよ、そのローブは耐えられるぜ!」
いや現実的なのがいるんかい!
というか即死攻撃なの!?
「勇士ケントの力ならいけそうですがね。我々Cクラス冒険者では入山もできないでしょう」
行けませんって。
行きたくありませんって。
ガッカリしているところ本当に悪いけれど、僕的には助かった。
とりあえず北の山には近づかない。
健人学んだ。
絶対行かねえからな。
「俺らのお勤め無けりゃあ、王都に連れてって何とかできたのになぁ」
「王都に?」
「そうでさ。あすこなら色んなギルドがあって無数のクエストがありますぜ。雷の精霊だろうがサンダードラゴンだろうが、よりどりみどりでさ!」
謹んでお断りいたします。
確かに王都とかに行けば、僕が何でここに呼ばれたのかわかるかもしれないけど……ギルドの偉い人達に、僕の力がバレたらそれこそコトだ。
絶対ヤバいクエストか、戦場の最前線とかに回される。
僕知ってる!
肉壁にされるんだろ!
激重案件ばっか任されるんだろ!
ヘビーなのは体重だけでいいよ!
「い、いいよそんなとこ! ……って、『お勤め』? 何、ジェイクさんたち何か悪いことしたの?」
「いやいや、俺たちゃクエストの契約でこのサーラの村にいるんでね。半年間このド田舎に詰める代わりに、そこそこいい報酬が貰えるんでさ。ギルドのお墨付きでね」
「じゃが蓋を開けてみりゃけっこう過酷で。世界樹の森は魔力が豊富でモンスターがわんさか。鍛冶工房の設備もイマイチだし娯楽もねえ。ワシぁ何度か逃げようかと思ったワイ」
「しかし腐ってもギルドお墨付きのクエスト。逃亡は即ち冒険者登録剥奪。割に合わないと聞いていましたが、ここまでとは私も想像していませんでしたよ」
ガッカリと肩を落とす三人をみて、なーるほどと手を打つ。
この世界で冒険者ギルドに所属している冒険者は、基本的にクエストと呼ばれる契約で動いている。
期間はまちまちで、それこそちょっと空いた時間にというものから、ガッツリ年単位というのもあってかなり幅がある。
ジェイクさん達みたいないかにも冒険野郎がなんでこんな所に留まっているのか不思議でならなかったけど、今ようやく理解出来た。ここに留まっていること自体がクエストなのね。
「でも俺ァは今そうは思っていねえですよ。大将のメシがありますから」
「ワシもそれだ。防具の一着や二着、お釣りが出らぁ!」
「お恥ずかしながら、私も。エルフの舌を唸らせるとは、流石です勇士」
この時だけ僕よりイカつい、人生経験もある人達が子供みたいな顔になる。
それだけこの世界って、料理が大切なんだろうな〜なんて思う。
「じゃあ、今日も帰ったら何か作ろうか。好きなの作ってあげるよ」
そう言うとはしゃいで喜ぶオッサン×3。
これが美少女とか、運命のヒロインとかだったら良いのになぁ。
そう思ったのは数え切れない。
十から先を数えるのはやめた。
パンを食った枚数なんていちいち覚えてらんない。
無駄無駄です。
……人って罪な生き物だ。
この仲間とワイワイやる関係、元の世界では欲しくてたまらなかった光景なのに。
今は『もっともっと』『ああ神様どうして』――なんて思ってしまう。
そりゃ周りにいますよ美人は。
この世界の女性たち綺麗ですよね!
例えばジェニファーさんみたいな糸目のおっとり美人とか。
僕の事完全に子供扱いしてるけど……ああいう人、アパートの隣に引っ越してきて欲しいよね。
例えば美少女だけど僕の事時々肉だと思って噛みついてくる猫娘のミーアとか。
時々マジで肩を噛んでくること以外はパーフェクトです。
何で噛むんだよって聞いたら、
「全体的に美味しそうなのが悪いニャ!」
……だって。誰が肉だ。
例えば僕のアゴとか二の腕とか隙あらばタプタプしてくるギルドの給仕さんたちとか。
構ってくれるのは嬉しいけど料理中は危ないし、タプタプされる度に僕の自尊心がゴリッゴリ削れるんだよねアレ!
確かに魅力的な異性たちは見渡せば居るけど!
なんか!
なんかちゃう!
もっとこう、さ。
僕の武術が光るような可憐な女性が出てくるとかさ。
護ってあげたい人が出てくるとかさ!
弟子にしてあげたい子が出てくるとかさ!
百歩譲って僕を嫌いでも段々デレてくるとかさ!
やっぱしそういうの求めるってのは、贅沢な悩みですか?
……贅沢ですよね。解ってる。
サブキャラがようやくメインに立てただけ満足しろって事ですよね。
贅沢なのは腹回りだけにしとけってか。やかましいわ。
★
夕焼け空の中、森の街道をむさ苦しい男達と談笑しながらサーラの村に戻る。
手には袋いっぱいの魔物石。
これで明日はもうちょっといい肉でも買おうかな~とか、それとも包丁を新調しようかな~とか思いながらギルド出張所の扉を開けると、何やら異様な空気が漂っていた。
「あ、ケント君!」
カウンターからバタバタと走ってきたのは受付嬢のジェニファーさん。
おっとり糸目の彼女の眉が、何だか困った感じの八の字になっている。
「? 何かあったんです?」
「それが。王都から料理人を連れてギルドマスターが来てくれたんですけど……」
なんで料理人?
僕がいるのに?
……いや、思い出した。
僕が来るちょっと前、料理人がキラーベアに襲われて大怪我したんだけっか。
王都に代わりの料理人を要請していたけど全然来なかったんだよね。
困ってるところにちょうど料理が出来る僕がやってきて、今に至るというわけだ。
濃厚なホワイトシチューが冒険者に受けて、今や金曜日の定番メニューになった。
自分の事なのにすっかり忘れてた。
この二ヶ月とっても忙しかったからね。
「帰れニャ! ここのご飯はケントが作るって決まってるニャ!」
「そうだそうだ! 何ヶ月も放っといて今更何だ! ここはケントのメシで成り立ってるんだぞ!」
「どこのギルドマスターだか知らねえが、ケントの代わりの料理人なんていねえ! おとといきやがれ!」
わーお。
大ブーイングじゃん。
というかミーアが尻尾を逆立てて怒ってる。珍しい。
他の冒険者達も一緒になって何かに抗議をしているようだ。
……気のせいだろうか。
その争いの中心になってるの、僕の名前のような気がするんだけど……?
ところでミーアの噛みつきは甘噛みでは無くマジのパワーで噛んできます。痛い。
「面白かった!」「続きが気になる!」「ナイスカロリー!」などありましたら、ブクマや★★★★★などで応援いただけると嬉しいです。