来ない月からの使者
それから後も、僕たちは、母やおばさんの目を盗んで、密会を重ねた。
ちょうど、その頃、ウチの隣が引っ越しをして空き家になり、それを機会に、ウチがその家を買い取っていた。
その家を建て替えて、そちらに移った後、今の家を壊して、今住んでる場所を庭にする計画となっていた。
庭のなかった家に育った僕は、その計画を喜んだ。その上、家を壊すまでの空き家が、僕とまどかの愛を育む場所に最適で、まどかもそのことを喜んだ。
僕は、夕方になると、隣の家の鍵を持ち出し、その家の和室でまどかが来るのを待った。
まどかは、「ちょっと、買い物に行ってくる」とか、適当な嘘を言って、家を抜け出して来ていた。
ものの30分もせずに家に戻るのだから、お互いの母親には、僕たちの密会は気付かれることはなかった。
しかも、まどかは、その行為中、外に声が漏れないよう、必死にあえぎ声を我慢していたから……
そんなことを、続けながら、夏休みももう少しで終了となったある日、まどかの元気のない様子に気付いた僕は、まどかに、「なんかあったん?」と訊ねた。
最初、まどかは、「何でもない……」と答えなかったが、僕がしつこく理由を尋ねると、初めて重い口を開いた。
「来ないの……」
鈍感な僕は、初めその言葉の意味が、よく分からなかった。
「何が来ないの?」
「……」まどかは、またしても沈黙した。
「だから、何が、来……」初めて、僕はそこで、まどかが『来ない』と言っているものが、何かに気付いた。
「まさか……来ないって……セイリ?」
まどかは、うつむいて『コクリ』と頷いた。
僕は、そのまどかの無言の返答に、一気にパニックに陥った。
「え~、なんで?……なんで、来ないの? だって、いつも、ゴム付けてたじゃん……なんで来ないんだよ? 単に、遅れてるだけじゃないの……?」
僕は、本当に焦って、取り乱し、そう言ってまどかに詰め寄った。
「だって、海の中では、付けてなかったでしょ? それに、お稲荷さんでも、何回か、そのまま、私の中に入れてたし……」
「イヤイヤ、海では、最後、ちゃんと外に出したし、お稲荷さんの時だって、最後は、ちゃんとゴム付けて……」
そこまで言うと、まどかは半泣きになり「いい、ケンジ君がそう言うんだったら……まどか、一人で何とかするから……」と言った。
僕は、その言葉を聞いて、やっと我に返り、自分を落ち着かせた。
「まどか、一人で何とかするって言っても、無理だから……もともと、俺の責任だから……」と言って、まどかの肩に手をかけた。
その手を、まどかは振り払うと「いいよ……ケンジ君には関係ないから……」と言って、両手で顔を覆い「うわぁー」と大声で泣き始めた。
僕は、その声が、隣の家にいる母親に聞こえるのではないかと『ヒヤヒヤ』しながら、それでも、『男の責任』という言葉を思い出し、泣き叫ぶまどかを両手で『グッ』と抱きしめた。
まどかは、僕の胸を濡らすほどの涙を流し、泣き続けた。




