バスを降りて
バスが僕たちの町に着いた。内田たちと丸山君たちは、国鉄の駅のバス停で降りた。
僕とまどかは、もう少し、自分たちの家に近いバス停で降りるため、彼らとはそこで手を振って別れた。
僕たちが降りるバス停が、そのバスの終点だった。
僕たちは、バスを降りると、二人で、大きく伸びをして、眠気を払った。
実は、僕はこのまま素直にまどかを家まで送って行こうとは、考えていなかった。
帰り道を少し遠回りして、あのお稲荷さんに寄って、まどかとの愛を、再度楽しもうと考えていたのだ。
僕は、ズボンのポケットに密かに忍ばせていたコンドームの袋を取り出し、まどかに見せて「お稲荷さんを拝んで帰ろう」とまどかを誘った。
それを、聞いたまどかは、あきれた表情で「もう、海でしたじゃん」と言った。
「だって、あの時は、子供たちが来て、ゆっくり、まどかを愛せなかったから……」と言うと、「もう、十分です!」とまどかは答えた。
「ねえ、そんなこと言わずに、せっかく、これ持って来たんだから……」と言うと、「そんな準備してるんだったら、何も海ですることなかったでしょ?」と、もっともなことを言った。
「いや、それは、まどかの水着姿を見て、つい興奮して……」と言うと、「夏未ちゃんのでしょ!?」と怒った。
「いや、そんなことないって……まどかだって、十分素敵だったよ」と言うと、「『まどかだって』……!? 」「ぜーたいに、イヤです!!!」まどかは、僕の不用意な返答に、本気で怒ってしまった。
「ごめん、ごめん」と手を合わせて、必死であやまる僕に、ふくれっ面でそっぽを向いたまま「イ~ヤ!」の一点張りだった。
「だいたいねー 君のせいで、まどかまで『ヘンタイ』にされちゃったんだからね! 分かってる?……まったく……少しは、反省しなさい!」そう言って、まどかは、僕のスケベなお願いを拒否した。
「でもさー、僕たちをヘンタイ呼ばわりした内田だって、着替えに行って遅かったのは、林の中で、夏未とやってたんだぜ……あいつらの方が、ヘンタイだって」
その、自分を正当化する僕の言い訳を聞いたまどかは「えーっ!? 男の子って、そんなこと話し合ってるの?信じられない……」と、ますますおかんむりになった。
その後、まどかは、僕が何を言っても「イヤです!」「しません!」の一点張りだった。
僕が、何か話しかけようとしても「イ~ヤ!」と言って、聞く耳を持たなかった。
いよいよ、家が近づいてきて、まずいと思った僕は、ふくれっ面で先を歩くまどかの手を取り、稲荷神社のある河原の方に向かう道にまどかを引っ張って行った。
「痛い!放してよ!」まどかは、僕が思ってる以上に怒っていた。
「ねえ、そんなこと言わず……せっかくの夏休みなんだから、そんな、ふくれっ面せずに、二人の楽しい思い出を作ろうよ……」
その僕の、即興のきざな言葉に、まどかは、少し反応した。
僕は、『しめた!』と思い、河原の公園のベンチにまどかを誘った。
まどかは、「しませんからね!」と先に断って、僕の横に腰をかけた。
僕は、そのベンチに座って、昔、この公園でまどかと遊んだ思い出話を始めた。
「昔さ、大水が出た後、そこに水たまりができて、いっぱいウナギがいたの覚えてる?みんなで、水に入って、ウナギを捕まえたよね?まどか、捕まえても、捕まえても、ヌルって滑って、水の中にウナギが逃げるから、最後は悔しがって半べそかいて……」
「僕が捕まえたウナギ、一匹まどかにあげたら、うれしそうに『ありがとう』って言ったよね……」
そんな、懐かしい話をいくつもしていると、やがてまどかは、僕の肩に自分の頭をもたせかけて来た。
そして「ケンジ君て、いつも、まどかに優しかったよね……」と、懐かしそうに言った。
夕日が、僕たちを赤く染めていた。僕は、ここぞとばかりに、まどかの中学時代に好きだったNSPの『夕暮れ時はさみしそう』を口ずさんだ。
まどかは、その僕の小さく口ずさむ歌を聞きながら、「どうせ、ヘンタイだからいいか……」と、お稲荷さん行きを許してくれた。




