泳ぎ疲れて
地元の小学生たちもいなくなり、夕方近くまでそこで過ごした僕たちは『そろそろ帰ろう』と言って海を上がった。
更衣室もないところだったので、僕と丸山君たちは、そのまま着替えず、その上に服を着て帰ることにした。しかし、内田と夏未だけは、気持ちが悪いので、着替えると言い、砂浜の横にある茂みに入って行った。
僕たちは、自分たちの簡単な着替えを終わり、内田たちが戻ってくるのを待った。
しかし、内田と夏未はなかなか戻って来なかった。帰りのバスの時間が迫っていた。
「あいつら、何してるんだよー」僕が言うと、「俺たち、見てこようか?」と丸山君が言った。
僕は、なんとなく、内田たちの戻りの遅い理由を感じ取り、「そのうち、戻ってくるから、いいよ」と言って、丸山君を抑えると、その場で、『あっち向いてホイ』などの、即席のゲームをして時間をつぶした。
そんなことをしていると、内田と内田に肩を抱かれた夏未が戻って来た。
夏未は、内田に寄り添い、うっとりとした表情をしていた。その、夏未の表情から、『やはり、二人は、茂みの中で、俺が想像したと同じことをしていたのだろう』と思った。
「お前たち、遅いよ……いったい何をしてたんだよ!」僕は、すでに想像のついている理由について、内田に訊ねた。
内田は、夏未に回していた腕を、僕の肩に回し換え「わりぃ~ お前たちの見て、夏未が発情してよ……」と、僕の耳元で小さな声で囁いた。
その、内田の答えに、僕が夏未の方を見ると、夏未もやはり先ほどのまどかと同様に、頬をピンクに染め、黙って下を向いた。
僕たちは、その後、何事もなかったように、みんなで、バス停に向かって歩き出した。
女子が三人かたまって前を、男子が三人かたまって後ろを歩いた。
みんなが『ワイワイ』言いながら歩いていると、未だに、恥ずかしそうに控えめなまどかの様子に美香が気付き、「どうしたの?まどか?元気ないじゃん?」と訊ねた。
まどかは、その美香の問いかけに、顔を上げ「ううん、元気だよ……」と、作り笑いをした。美香たちは、僕たちの海の中での行為の時、ちょうど昼食を取りに、近くの食堂に行っており、浜辺にいなかったのだ。
その美香の疑問にいち早く答えようと、内田が美香のところに駆け寄ると、先ほど僕にしたと同じように、美香の肩になれなれしく腕を回し、顔を耳に近づけて、ヒソヒソ話を始めた。
それを見て、まどかは、自分たちの先ほどの恥ずかしい行為をバラされると思い、急いで、僕の後ろに来た。
そして、じっと、内田と美香の様子をうかがっていた。
「え~!!! それって、ヘンタイじゃん!!!」内田のヒソヒソ話を聞いていた美香が突然叫んだ。
それを聞いて、僕の後ろに身を潜めていたまどかは、またしても真っ赤になり、下を向いて、僕の背中に自分の頭を押し付けた。
「ヘンタイか……?違いねぇ……よっ!ヘンタイカップル!!!」
内田は、面白がって、僕たちに向かってそう言った。
そばにいた夏未が「やめなさいよ……」と言って、内田をたしなめていた。
内田のからかいを聞いたまどかは、さらに自分の頭を僕の背中に強く押し付け、『グリグリ』と、黙って僕に抗議した。
僕は、「あはははは……」と笑うしかなかった。
事情のよく分かっていない丸山君だけが、そんな僕たちを不思議そうな顔で見ていた。
バスの中では、みんな静かだった。
見ると、僕たち以外はみんな泳ぎ着かれたのか、お互いの相手に寄り添うようにして、眠っていた。
僕も、バスに揺られていると、迫って来る睡魔に勝てず、まどかの肩に頭をのせたまま眠りについた。眠るまで、まどかは、ずっと僕の髪をなでていてくれた。
僕は、その眠りの中で、とても悲しい夢を見た。
その夢の中では、なぜかまどかは三歳くらいの幼い少女だった。
僕だけが、高校生で、そんな僕が、幼いまどかと砂遊びをしていると、いきなりまどかの母親が現れ「こんな、お兄ちゃんと遊んじゃダメ!」と言って、「まだ、遊ぶー」と駄々をこねるまどかの手を引っ張って、連れて行ってしまった。まどかは、何度も何度も振り返り、僕の方に手を伸ばして「おにーちゃん!」と言って泣き叫んでいた。
僕が「まどかー」と言って、追いかけようとした瞬間、僕は目を覚ました。
見ると、まどかも僕の頭に自分の頭をのせ、眠っていた。
僕が寝言で呼んだ自分の名前に反応して「うん?なに?」と言って、寝ぼけ眼のまま、僕の方を見た。
僕が「いや……何でもない」と答えると、「うん」と言って、また僕の肩に頭をのせ、眠った。
僕は、その安らかなまどかの寝顔を見て、『ホッ!』とした。




