おばさんの詮索
「ケンジ君、初めてじゃないでしょう……?」
おばさんは、うつろな目でベッドの上に横たわったまま、同じくベッドに横たわる僕に訊ねてきた。
僕は、その質問には答えなかった。
『答えなかった』というよりも、答える気力さえ残っていなかった。
それほど、まどかのお母さんとのセックスは、気持ちがよかった。
最高だと思っていたリョウちゃんのお母さんとのセックスの何十倍もよく感じた。
僕が黙ったまま、大の字になってベッドの上に仰向けになっていると、おばさんはヨロヨロッとお宮に置いてあるティッシュの箱からティッシュを手に取り、僕の小さくなっていく分身をそのティッシュで包んで、中の精液がこぼれ出ないよう手際よくコンドームを抜き取った。
「わぁ……いっぱい出てる……」
「気持ちよかったの……?」おばさんは、元気になって、嬉しそうに訪ねてきた。
「気持ちよかったです」僕は、もうろうとしたままの頭の中で、正直に答えた。
おばさんは、新しいティッシュで、小さく皮を被ってしまった僕の分身を拭きながら「うわぁ……かわいい……」と言って、喜んだ。
そして、僕の分身に残った精液を丁寧に拭きながら、先ほどの質問を再開した。
「ねぇ、ケンジ君、絶対に今日が初めてじゃないよね……?」
僕は、再び沈黙した。
「ねぇ、相手は誰?中学の女子……?」
僕が黙って答えずにいると、「まさか、ウチのまどかちゃんじゃないよね……?」と、真剣な目で訊ねてきた。
僕は、慌てて「違いますよ、まどかは、そりゃ、かわいいけど、小さいときから遊んでるし……幼馴染だから、そんな対象にはなりません」僕は、きっぱりと否定した。
「そう?それならいいんだけど……いい、おばさんと、こんな関係になっちゃったんだから、これから先も、ずっと、まどかちゃんには手を出したらダメよ。それに、『まどか』なんて呼び捨てにしないで、『まどかちゃん』て言いなさい」
僕は、おばさんのその気迫に、思わず「あっ、はい」と返事をした。
その僕の、返事を聞いて、おばさんは笑いながら「冗談よ……まどかちゃんを呼び捨てにするのは、別にいいわ……その代わり、恋人として付き合うのは絶対にダメ」
僕は、再度「はい」と答えた。
「でも、誰かな……?ケンジ君の初めての相手って……?」おばさんの詮索は終わらなかった。
「谷本のおばさん……?」
それは、ウチの地区の人ではなかったが、昼間でも時々シミーズ姿で家の前に出てきて、煙草をふかしているお婆さんだった。大人になって知ったことだが、その、お婆さんは赤線が廃止されるまでは、戦前から女郎屋で働いていた人だった。
「違いますよ」いくら、僕が年上の大人の女性好きでも、あまりにも歳が離れすぎていた。
「そうだよね……谷本のおばさんが、お金も持ってない中学生、相手にするわけないものね」おばさんは、そう、僕にも、谷本のおばさんにも失礼なことを言って「ぷっ」と笑った。
「でも、誰だろうな……?絶対に、初めてじゃないんだよな……」おばさんは、意外としつこかった。
そのしつこさと、失礼さに僕が、切れ気味に「初めてですって!」と大声で言うと、おばさんはびっくりして「ゴメン、ゴメン……もう詮索するのやめるから、怒らないで……」と謝って来た。
僕は、無言で僕の分身を拭いていたおばさんの手を払うと、さらに無言で脱ぎ散らかしたパンツやらズボンやらをはいた。
僕が、本当に怒っていることに気付いたおばさんは、僕の後ろから、裸のまま「ごめんなさい、本当に怒っちゃったの?ごめんなさい。申し訳ありませんでした……」と半べそをかきながら、何回も頭を下げてきた。
そんな、素直に反省をしているおばさんが可愛くなり、僕は上着を着終わると、黙っておばさんの方に振り向き、抱きしめてキスをした。
それが、僕の『許す』の合図だった。
おばさんは、突然のことで、初めは驚いていたが、涙を一筋流すと、すぐに僕の舌に自分の舌を絡めてきた。そして、唇を外すと「ありがとう……」と下を向いて言った。
僕は、その可愛さに、再び裸のおばさんを抱きしめた。
おばさんの柔らかい胸が、僕の胸でつぶれ、その感触で、僕の分身がまたしてもズボンの中で大きくなった。
それを察知したおばさんは、先ほどの涙は早くも忘れ「どうしたの……?もう一回するの……?」と笑いながら訊ねてきた。
僕は、そのおばさんの問いかけに、まんざらでもなかったが、とにかく、これ以上遅くなると、この家の前に住む僕の母親が心配すると思い、「イヤ」と頭を振って、抱きしめていた腕を離した。
おばさんは、自分の服を着ると、名残惜しそうに僕を見送ってくれた。
玄関を出る時、僕の手を握り、「ねぇ、また来てくれるよね……?」と言った。なんだか、ドラマで見る芸者と客との別れのようであった。
僕が黙っていると、「そうだ、明日……明日、夕方には帰ってるから、また、まどかちゃんの学校のお届け物持って来て」と言った。
僕は、まどかのお父さんのことが気になり、「おじさんは?」と訊ねた。
おばさんは頭を下に向けると「あの人は、いつも仕事で遅いから……9時より早く帰ってくることはないわ」とぶっきらぼうに言った。
僕は無言でおばさんの手を離して、玄関のドアを開けた。
外は、少し薄暗くなりかけていた。
そこに、ちょうど今年高校を卒業して、地元の電電公社で働き始めた姉が帰って来た。僕は、『まずい』と思ったが、目ざとい姉はすぐに僕を見つけ「あら、ケンジ、どしたん?」と、すかさず聞いてきた。