怖い話
「だって、まどかと、少しでも一緒にいたいから」と、僕は答えた。
そんな、僕の言葉にも、しばらく、まどかは、無言だった。
そして、まどかは、思い切ったように僕に訊ねた。
「ケンジ君、まさか、私のママと変なこと、してないよね……?」
僕は、その的確なまどかの疑問に「そんなわけないじゃん……なんで、そんなこと聞くの?」と焦って、問い返した。母親同様、鋭い女の勘であった。
「だって、玄関のカギがかかってたし、さっき、床に落ちていた物、ケンジ君のアレみたいだったもの」とまどかは言った。
「あれは、ドレッシングこぼしたって、おばさん言ってたじゃん。そういえば、僕が行った時も、ドレッシングの瓶が床に転がってたもん。カギは僕がまどかん家に入った時、いつもの癖で、ついかけたんだと思う」そう言って、僕は焦りながら嘘を重ねた。
「ふーん、そうなんだ……でも、ドレッシング、ママの足にも付いてたよ」まどかの疑問は解消されていなかった。
「それは、瓶が落ちた時、飛び散ったんだよ……きっと」
僕は思いつくままの嘘を、まどかの新たな疑問に追加した。
「ケンジ君、ゴメンね。まどか、こんなこと言って、変だよね……?」
「でも、ママって、歳よりもずいぶん若く見えるし、娘の私が見ても、美人だもん。私なんかよりも、色気もあって、男の人に好かれるんだろうな~って」
「まどか、自分が嫉妬深いなんて思っていなかったんだけど、この前、ケンジ君と、ああなってからは、ケンジ君が、誰か他の女性に取られちゃうんじゃないかって、いつも不安になって……」
まどかは、下を向いたまま、そう言った。
「……」僕は、無言で、そのまどかの話を聞いた。
「まどかさ、もし、ケンジ君がママとそんなことしてたら、きっと、ケンジ君のおちんちん切り取って、それ抱きしめて、死んじゃうと思う……ママのこと大好きだけど、その大好きな人に、まどかのもっと大好きな人取られちゃうなんてショック大きすぎるもん……」
まどかは、冗談なのか、本気なのか分からない、そんな、『阿部定事件』を彷彿とさせるようなことを言って僕をけん制した。
僕は、そのまどかの言葉に「あははは……なにバカなこと言ってるんだよ、俺が愛しているのは、まどかだけに決まってるじゃないか」とわざとに大きな声で笑ったが、その顔は引きつっていた。
これで、ますます、おばさんとのことを、まどかに知られる訳にはいかなくなった。
僕の宣言を聞いたまどかは、急に元気になり「本当?本当に約束だよ……」と満面の笑顔で、僕に指切りげんまんをした。
「ケンジ君、帰るのが大変だから、もうここでいいよ……明日の朝も、一緒に学校行こうね」そう言って、塾の方に走って行った。
そんな、まどかを、僕は苦笑いしながら手を振って見送った。
帰りに、もう一度まどかの家に寄って、ゆっくりとおばさんと交渉しようと思っていた僕の考えは、まどかの言葉から受けた衝撃ですっかりなくなり、そのまま自分の家に戻った。
ただ、それ以降、自分のおちんちんを切り取られたくない僕は、まどかのいない時に、まどかの家に行くことは(しばらくの間)なくなった。




