恋人になって
その日は、まどかがいじめられていた時と同じように、二人そろって学校を出た。
僕たちは、家が近づくと、いつもの通学路ではなく、少し遠回りをして、河原の公園の方を通って家に帰った。
帰る間中、ずっと僕の肩に頭をもたせかけていたまどかに、僕はこう言った。
「僕たちが、付き合い始めたこと、まどかのお母さんには内緒にしておいてね……」
「どうして?」まどかは、僕の肩に乗せていた顔を上げて僕に訊ねた。
「どうしてって……」僕は、そのうまい答えに迷って、少しの間、次の言葉が出なかった。
「ママ、私が、ケンちゃんと付き合うようになったこと聞いたら、きっと喜ぶと思うよ。
だって、いつも、ケンちゃんのこと褒めていたし、私に『彼氏はできたの?』って、しつこいくらいに聞いていたもの……きっと、反対はしないと思うけどな~」
まどかは、僕のお願いに、少し不満そうに反論した。
「いや……まどかのお母さんに知れると、たぶん、ウチの母親にも知れて、おそらく、騒ぎ立てると思うから……その上、ウチの姉なんかが知ると、もっと厄介になりそうで……自由に、まどかに会うこともままならなくなりそうで……」
僕は、その理由を、母や姉のせいにして、何とか話を取り繕った。
まどかは、その僕の答えを聞いて、少し残念そうに「そうか……ケンちゃんのお母さんとお姉さんか……?だったら。ウチのママに『絶対、言わないで』ってお願いしたら?」
「絶対ダメだって……女の人って、そういうの、つい、話しちゃうじゃん?それに、俺、まどかのお母さんに知られるのも、なんとなく恥ずかしいよ……これから、自由にまどかを誘いづらくなっちゃう」
僕は、適当なことを言ってごまかした。
まどかは、少し考えたのち、つまらなそうに「うん、分かった……ケンちゃんが、そう言うのなら、ケンちゃんの言うとおりにする」まどかは、しぶしぶ、僕の言ったことに賛同した。
「その代わり、毎日、登下校は一緒にしよう。朝は、早く家を出た方が、坂を下りた下の四つ角で待っていること。そこから、一緒に学校へ行こう」
まどかは、その僕の提案を、今度は嬉しそうに「うん、分かった」と答えた。
次の朝、二人で登校すると、中村先生が、僕のところに来て「ケンジ、ちょっとまどかを連れて、職員室に来い」と言った。
僕は、おそらく、昨日のことを叱られるものと思い、隣のクラスに、まどかを呼びに行き二人で職員室に行った。
二人で職員室に入ると、中村先生は僕たちを廊下に連れ出し、窓から外を眺める格好で、僕たちに背中を見せたまま話し始めた。
「お前たち二人は、付き合っているのか?」
その先生の問いかけに、まどかがいち早く「はい」とはっきりした口調で、嬉しそうに答えた。
答えをごまかそうとしていた僕は、驚いてまどかの横顔を見た。その顔は、何とも、清々しく、満面の笑みを浮かべていた。
僕は、その笑顔につられ、思わず「はい」と、まどかの答えを追認する形で答えた。
「そうか……まあ、お前たちもいろいろあったからな……それに、若い楽しい時期だから……
先生は、そんな若いお前たちの恋路を邪魔しようなどという野暮な考えは持っていない。
ただ、お前たちは、今、高校生だ。自分たちの本分は勉強をすることだ。それを、忘れちゃいかんぞ。
それと、昨日お前たちがしていた以上のことは、成人して自分の行動に、ちゃんと責任が持てるようになった後でないと、絶対にしちゃいかんぞ……それと、学校では、昨日のようなこともやめろ……」
中村先生は、少し、言葉を選びながら、そう僕たちに説教をした。
僕たちは、そんな、中村先生の言葉に、黙って頷いた。
先生は、僕たちが自分の話を素直に聞いたのを見ると
「約束だぞ、お前たちが、今先生の言ったことを守ってくれるのなら、先生は、昨日見たことを、誰にも言わん。だから、これからも、節度を守って、大いに青春を謳歌してくれ」
そう言って振り向くと、ごっつい手で、僕とまどかの肩を『ポン!』と叩いた。
僕たちは、その中村先生の言葉を聞いて嬉しくなり、「ありがとうございました」と、頭を下げて、お互いの教室に戻った。
「じゃあ、また、帰る時ね」と、バイバイの手を振って。




