セイジツさんの追及
その日の、僕たちの1時間目は、中村先生の日本史の授業で、先生は、そのまま職員室には戻らず授業を始めた。
授業が始まって、30分ほど経過した後、職員室の事務員さんが、中村先生を呼びに来た。
「今授業中なんで……」と中村先生が言うと、「急ぎの電話がかかってきています」と言って、強引に中村先生を連れ出した。
先生は、「お前たち、しばらく自習をしとってくれ」と言って、その事務員さんと教室を出て行った。
その後、慌てて教室に戻って来て、「ケンジ、ちょっと来い」と言って、僕を例の『相談室』に引っ張って行った。
「お前、タイヘンなことになったぞ……今な、夏未の母上からえらい剣幕で電話があって、夏未が、お前に殴られて、泣きながら帰って来たと……それと、お前、夏未のことを『ヤリマン』とかいう下品な言葉で、侮辱したそうだな?……どうして、そんなことをしたんだ?」
僕は、夏未のことを殴ろうとはしたが、まどかに直前でとめられ、殴ってはいなかったにもかかわらず『殴った』と言っている夏未の嘘に愕然とした。
しかし、まどかにとめられなければ、当然夏未を殴っていたわけで、僕は、それに反論すること自体が、何か卑怯に思え、そのまま黙っていた。
先生は、沈黙する僕に苛立ち「なぜ、黙ってる?黙っていたら、先生は、お前を守ってやることさえできん……ケンジ、先生に、事のいきさつを教えろ!」と怒鳴った。
「先生に、話したところで、何も守ってくれないじゃないですか?」と、僕は答えた。
それを聞いて、先生は「ケンジ、この前のことを、勘違いして、まだ怒っているのか?」と聞いた。
「……」僕は黙っていた。
「ケンジ、この前のことは、お前の誤解だ。
学校は『葛山工』との関係が悪くなるのを嫌がって、調査をしない方針だが、先生は、いま『葛山工』の知り合いの先生にお願いして、お前たちを襲った奴らを特定してもらっている最中なんだ。まどかが望むんだったら、この前のこと、『強姦未遂』で、警察に訴えてもいいと思っている。
ただ、それをすると、まどかにダメージもあるし、仮にまどかが了解しても、学校は警察が学校のことに介入するのを一番嫌うから、校長だって、絶対に反対するだろう。
それでも、それしか真実を知る方法がないのなら、先生は教師を辞めることになっても、それをする。
だから、先生に、何があったのか、教えてくれ……頼むから、ケンジ……先生は、お前たちを信じているから、お前たちを、俺は守りたいんだ……頼む……」
そう言って、先生は僕の両腕を握り、涙を浮かべ頭を下げた。
しばらく、沈黙の時間が流れた。
その間、僕は、ずっと迷っていた。
しかし、最終的に、この先生は、僕たちのことを見捨てはしないと確信した。
そして、僕は、静かに口を開き、昨日あったこと、内田が岩田というやつから聞いた話の内容などを先生に説明した。
それを聞いた先生は、驚き「それは、本当か?」と言った。
僕は「本当です」と答えた。
「分かった、ケンジ、後は先生に任せろ。お前とまどかは、俺が絶対に守ってやる……」と言ってくれた。
そこに、自習をしているはずの、まどかとウチのクラスの全員がその部屋にやって来て、「セイジツさん、ケンジはちっとも悪くないんだ!」と言ってくれた。
そのみんなの訴えに「分かっとる、分かっとる」と先生は嬉しそうに答えた。




