内田の話
「よー、ケンジ、迷惑かけたな~」内田は、5人組にしっかり、お灸をすえた後、そいつらを追い返した。
まどかと一緒にいた斎藤君も汽車に遅れると言って、先に帰った。
そこには、僕とまどかと内田の三人だけが残った。
「しかし、あいつらが言ってた、『大高』のカワイ子ちゃんが、まどかのことだったとはな~やっぱり、まどかは、男を虜にする何かがあるんだろうな~」と内田が言った。
「そんなことないよ……だって、肝心な男性には、見向きもされないんだもん……」
「えっ!?今のは聞き捨てならねーな。それって、俺のことか?」内田がふざけて言った。
「ブーっ、内田君ではありませ~ん」
三人は、しばし、中学の時のように時間を忘れて、他愛もない話を続けた。
「でも、なんで、一年のお前が、あれだけ怖がられてるんだ?」僕は、先ほどからの疑問を内田にぶつけた。
内田は、待ってましたとばかりに、得意げに話を始めた。
「『クズ工』の入学式の時によ、三年の番張ってた野郎らが俺を見つけて、因縁つけて来たのよ……まーちょっと、俺も入学式だからってんで、おしゃれして、ボンタン履いて髪ガッチガチに固めて行ってたから、目立っちゃったんだろうなー
まー俺も、空手習ったり、それなりにケンカには自信あったんで、そいつらと、やり合ったのよ。そしたら、そいつら、見掛け倒しで、からっきし弱くて、あっという間にかかって来てた三人まとめて、のしちゃったんだわ。そしたら、次の日から、『おれが頭だ』ってなって、なんか、入学して二日目から番張ることになったわけよ」
「まー、そのお陰で、僕は命拾いをしたってわけか」そう言って僕は笑った。
「そうだぞ、ケンジ。俺に感謝しろよ。さっきの岩田もなかなか強えーから、まともに張り合ってたら、お前、病院送りじゃすまなかったかもな……?」
「そうなの?よかったーケンちゃんが無事で……」まどかが、胸をなでおろした。
「ところで、お前ら、今はさすがに付き合っとるんか?」内田が突然聞いた。
まどかが、『チラッ』と僕の方を見た。
僕は、そのまどかの目線には気づかないふりで、「そんな……俺たち、幼馴染だから……」そう言って、答えにならない答えをした。
まどかは、黙って、下を向いた。
「なんだよ、ほんと、ケンジは慎重派だな……俺だったら、すぐに押し倒すけどな~」内田が大笑いをした。僕も、苦笑いをした。まどかだけ、笑っていなかった。
すっかり、辺りが暗くなったので、僕たちは帰ることにした。
別れ際、「まー、また困ったことがあったら、いつでも俺んとこ言って来い。俺は、頭は弱いけど、腕っぷしなら強いから。今日みたいなことがあったら、任せとけよ」
「ありがとう」「ありがとう」僕たちは、内田と握手をして別れた。
後ろで、内田が「まどかー、ケンジがじれったかったら、お前の方から押し倒してやれ!!!それでも、ダメだったら俺んとこへ来い。お前だったら、いつでもウエルカムだぞ~!!!」と叫んだ。
その声に、まどかは振り返り「ありがと~う!!!」と言いながら、大きく手を振った。
そして、僕の横に駆け寄ると、「内田君と友達でよかったね」と言った。
「うん、よかった。あいつには、感謝しないとな」と僕は答えた。
「ほんと、今日の内田君、カッコよかったね。なんだか、好きになりそう……」
その、まどかの言葉に、僕は、少し内田に嫉妬し、まどかの方を『チラッ』と見た。
まどかは、そんな、僕の視線を感じたのか「私、内田君と付き合っちゃおうかな~」と言って僕を見た。
僕は、そんなまどかの言葉に、慌てて「それは、ダメだよ」と言った。
「どうして……?」まどかは、いたずらっぽく笑いながら、僕に問いかけた。
「どうしてって……だって、あいつは、手が早いから……」
「そんなの、お互いに好き同士だったら、いいんじゃない?」まどかは、笑いながら言った。
「ダメだよ、そんなの……絶対にダメ!」僕は、つい興奮しすぎて大きな声で、まどかの言葉を否定した。
そんな僕の声を聞いて、まどかは僕の左手にすがりつき「あれ?ケンちゃんて、もしかして妬いてるの……?」と、自分の母親と同じことを言って、笑った。
まどかの柔らかい胸が、僕の左腕に触れた。そして「押し倒しちゃおうかな~……」と小さな声で言った。
僕は、動揺して思わず上を向いた。
そんな、おばさんとの約束を破らざるを得なくなる状況を変えようと、僕は、内田が言った夏未のことを口にした。
「でも、夏未って『ヤリマン』だったんだな~?」
それを聞いた、まどかは「そんなこと、女の子に対して言っちゃダメだよ~……」と、僕を叱った。
「だって、内田が……」
「こら、他人のせいにしないの!」
そんなまどかの言葉に「ゴメンナサイ」と素直に、僕は頭を下げた。
「素直で、よろしい」そう言って、まどかは、僕の頭をなでた。そのしぐさまで、まどかの母親と同じだった。
まどかが、僕の頭をなでる時、ますます、まどかの胸が、僕の左腕にあたり、その柔らかいマシュマロのような胸がつぶれた。
僕は、一生懸命、他のことを考え、ムクムクと起き上がりかけた、分身を抑えるのに必死だった。
いよいよ、自分たちの家に近づいたとき、まどかが急に真剣な顔になって言った。
「ケンちゃん、私、明日、もう一度、夏未ちゃんに、私へのいじめやめるように頼んでみる」
僕は、驚き「えっ!?」とまどかの顔を見た。
「だって、セイジツさんが、しばらく様子見ようって……」
「だって、こんなことがいつまでも続くのなんて、私、耐えられないもの……ケンちゃんと違う学校に移るのも嫌、私のせいで、好きな人が危険な目に合うのも……」
そう言って、僕の左腕にすがっている両手に一層力を込めて、腕を引っ張った。
それは、まどかが言った「好きな人」という言葉に気付かない鈍感男への精一杯のアピールだった。
そんなまどかのアピールにも、僕はおばさんとの約束を守るため、鈍感男を貫いた。
「夏未への直談判なんて、絶対にダメだからな!」
まどかは、そんな鈍感男の腕を離すと、走って自分の家の玄関に行き、「ケンちゃんの言うことなんて聞かな~い!」と言って、自分の家に入った。
中で、おばさんが「こんな遅くまで、何をしてたの?」とまどかに訊ねていた。
まどかは「何でもない」と言って、奥に入っていた。開いたドアから僕を見つけたおばさんは、僕のところに来て、僕にも「何があったの?」と聞いた。僕も、まどかと同じように「何でもない……」と言った。
おばさんは、その二人の同じ答えに不信感を抱き、「あなたたち、まさか……」と言いかけたところに、中村先生の声が聞こえた。
「お母さん、遅くなって、すみません」おばさんに、昨日の件を説明に来たのだ。
中村先生は、おばさんの隣にいる僕を見つけ「なんだ、ケンジ、今帰りか?こんな遅くまで何をしてたんだ?」と聞いてきた。
僕は、おばさんに答えたと同様に「何でもありません」と言って、頭を下げ、その場を離れた。




