次の日
次の日の朝、僕はいつもより少し遅めに家を出て、まどかの家にまどかを誘いに行った。
昨日の朝とは違って、またしても、ショボくれてしまった、まどかが下を向いて出て来た。
僕は、元気の失せたまどかを励まそうと、わざと大きな声で「おはよう」と声をかけた。
しかし、まどかは、そんな僕の朝の挨拶にも下を向いたまま、小さな声で「おはよう」と言っただけだった。
僕は、まどかの手を取ると、おばさんに「行ってきます」と頭を下げて、歩き出した。
そんな、僕たち二人を、おばさんは小さく手を振りながら「ケンジ君、お願いね……」と言って心配そうに見送った。
僕たちは、学校の近くで、皆に見られないよう、繋いでいた手を離した。そして、僕がまどかの前を歩いた。
教室に着くと、いつもまどかが言っているように、入り口で、皆に「おはよう」と大きな声で言った。その後ろにいたまどかは、蚊の鳴くような声で「おはよう」と申し訳程度の挨拶をした。
それを見た、夏未が「あら、今日はお二人で、ご登校なの?いつも仲が良くていいわね?」と、嫌味なのか、正直な感想なのか分からないことを言った。
僕が、席に着くなり、男子が僕のところに寄って来て「お前、昨日大変だったんだってな?」と聞いてきた。
もうすでに、昨日のことは学校中に広まっていた。
僕と、まどかと、丸山君と、美香が授業中に一人ずつ校長室に呼ばれ、事情を聞かれた。
僕は、相手の奴らが『クズ工』の奴らであったこと、相手の奴らと面識はなく、『クズ工』とも、もめてももめごともなかったこと、それと面識のない奴らであったにもかかわらず、僕とまどかの名前を知っていたことを伝えた。
そして最後に「君は、なぜ、そんな、面識もない他校の生徒が、伊藤まどかさんを連れて行ったんだと思う?」と聞かれたので、僕は「ウチのクラスの『須藤夏未』がまどかに対して行っているいじめの延長だと思います」と、はっきりと夏未の名前を出して答えた。
僕が、校長室を出る時、後ろで「今の彼の最後の発言は、彼の憶測で、しかも個人名も出ているから、記録からは削除しておくように」という校長の声が聞こえた。
僕は、心の中で「クソが……」と思った。
昼休みには、中村先生にも、例の『相談室』に呼ばれた。
「ケンジ、お前、今日の校長らの聞き取りで夏未の名前出したそうじゃないか……?そんな、憶測の段階で、はっきりと個人名あげると、もし違っていた時、名誉棄損てことにもなりかねんからな……今後、めったなところで言ったらいかんぞ」そう言って、先生は僕にクギを刺した。
「憶測じゃ、ありません!確信があります!」僕は、その大人の意見に、つい興奮し声を荒げた。
「まあまあ、落ち着けケンジ、何度も言うが、お前の確信だけでは、お前の反対の立場にいる者を納得させることはできんのだよ。はっきりとした証拠がないと。お前が、お前の言ってることが真実だというんだったら、皆が納得するだけの証拠を持って来い。それができんで、そんなこと言いふらしてたら、今度はお前が叩き潰されるぞ」
「そんなこと『クズ工』行って、あいつら探し出して、あいつらに誰から頼まれたのか聞けばいいじゃないですか?僕はちゃんとあいつらの顔、覚えていますよ……」
「それが、他校の生徒だから、そう簡単にも行かんのや……それに、それをしたところで、あいつらが正直に話すかどうかも分からんじゃないか。先生らは警察じゃないんだから……」
「じゃあ、警察に言えばいいじゃないですか?」
「それもな……それができれば楽なんだが、まどかが何かされたわけでもないからな……」
「何ですか!?それ!まどかが、あいつらに何かされた方がよかったんですか?まどかは、あの時、あいつらに、十分怖い思いさせられてますよ!!!」
僕は、中村先生との会話に腹が立ち、その部屋を飛び出した。
「いやいや、そうじゃない、まあ待て、ケンジ!」
そう言って、僕を引き留めようとする先生の声が後ろに聞こえた。




