僕への聴取
「ケンジ、お前は、ウチのクラスでいじめがあると思っているのか?ないと思っているのか?」先生の質問は、そこからだった。
僕は、はっきりとした口調で「思っているんじゃなくて、いじめはあります」と断言した。
その言葉に、先生はノートに文字を書いていたペンを置き「そうか……やっぱりな……
いや、前の二人は、二人とも、『いじめなんてない』って言うんでな」先生は困ったようにつぶやいた。『僕に、他の人の言った内容をばらしていいのか?』と思いつつも、まどかまでが、いじめの事実を否定していたことを知り、驚いた。
「いやな、先生も、まどかの最近の様子は、気にはなっていたんだ。そしたら、今朝、お母様がみえられて、『どうも、うちの子がいじめにあっているみたいだ』って相談を受けたんよ。それで、まー、放置はできんと、皆から話を聞かせてもらおうと……」
すべての秘密事項を、先生は僕に打ち明けた。
「ケンジ、お前が、まどかのお母さんに話したんか?どうして、先生に先に教えてくれんかったんや」そう言って、先生はいじめの自分への報告が遅くなったことに対して、僕を責めた。
「いや、昨日相談しようと、放課後来たけど、先生帰られた後だったんで……」僕は、とりあえずの言い訳をした。
「いやいや、別に、お前を責めとるわけじゃない。もう少し、早く相談してくれとったら、あそこまで、まどかを苦しめんでもよかったんじゃないかと……まー済んだことは今さら言っても仕方ない。そしたら、事のいきさつを、先生に分かるように教えてくれるか?」
僕は、昨日、おばさんに話したと同じ、僕たち男子が勝手に行った女子の人気投票でまどかがダントツ一位となった時から夏未たちのいじめが開始されたこと、まどか自身は、何ら女子から顰蹙を買うようなことはしていないこと、朝や昼休みに、まどかのことを女子全員が無視していること、それをやめるよう丸山君が夏未に申し入れると、今度はまどかを遊びに誘い、その遊びの中で、まどかをコテンパンにしたこと……すべてを、正直に、時系列に沿って先生に説明した。
それを、黙って聞いていた先生は「分かった。まどかのお母さんから聞いた内容とほぼ同じや……ケンジ、先生はお前の話、信じとるし、おそらく、間違いもないんやろ……だけどな、事実はそうであっても、いじめ問題の一番厄介なところは、そこに、人の心が絡んどるってとこなんや。その人に好意を持っている者から見える内容と、悪意を持って見ている者とでは、同じもんでも、違って見えるんよ。だからな、先生は、明日から、全員に、この話を聞こうと思っとるんや。みんなが、まどかと夏未のことをどう思っとるのか。まどかも、先生が見る限り、相当限界に来とるみたいやし、そうそう、時間もかけとれん。早急に何とか改善せんと……」
先生は、この問題の早期の全面解決に対する意気込みを僕に語った。
「だから、この問題は、先生が絶対に、何とかいい方向で解決するから……だから、ケンジも先生に協力してくれ。そして、この問題が解決するまで、もうしばらくの辛抱やから、それまで、まどかをお前が盾になって守ってやって欲しいんや。お前は、まどかの昔からの友達なんだろ?こんな時こそ、友達としての力、発揮せな、あかんぞ……」
僕は、その先生の言葉に、思わず泣きそうになった。
そして「はい、僕がまどかを守ります」と宣言をした。
先生は、そんな僕の両肩をごっつい両手で『ポン』とたたくと「頼んだぞ……よっしゃ、今日は帰ってよし。遅うまで済まんかったのー、気を付けて帰れよ」そう言って、僕を相談室の外まで見送ってくれた。
いろんな、秘密事項も漏らしてしまう危うさはあったが、僕は、この先生なら、きっと今の問題を解決してくれるに違いないと、なんだか久々にうれしい気持ちになった。




