手ごわい相手
「今言ったこと、私が言ったって絶対に誰にも言わないでね……」気の弱い宮本さんは、そう言って、僕を口止めした。
「分かってる」
僕は、そのまま、教室に戻ったが、もうすでに鍵がかけられており、皆、帰った後だった。
そのおかげで、僕の怒りは、少し収まった。もし、そこに夏未の姿を見つけていたら、思わず、殴り飛ばしていたかもしれない。それ程、その時の僕の怒りは大きかった。
次の日、僕は学校へ行くと、一番に夏未のところへ行った。もう、すでに夏未の周りには数人の女子が、集まっていた。
宮本さんも、登校しており、自分の席に座って、一人で本を読んでいた。
僕は、宮本さんの方を『チラッ』と見て、夏未のところに行き、こう言った。
「須藤さん、もう、まどかのことを、いじめるの、やめて欲しいんだけど……」
結局、僕も、丸山君と同じように、そう、ストレートに言うことしかできなかった。
違ったのは、宮本さんから昨日聞いた話を思い出し、怒りがぶり返してきていたため、丸山君よりも、かなり声がデカかったということくらいだった。
夏未を取り囲んでいた女子が、一斉に僕の方を見た。
本を読んでいた宮本さんも、顔を上げ、心配そうに、僕の方に目を向けていた。
「あら、あなたも、私に、変な言いがかりつけるの……?」
「……」
「仲良くしてるわよ、昨日だって、そんなに親しくないのに、昼休みのドッジボール誘ってあげたじゃん。あなただって見てたでしょ……」
「それだって、皆がまどかだけを標的にして、ボールぶつけまくってたんだろう……?」
僕は、興奮して、つい宮本さんから聞いた話を口走ってしまった。
宮本さんの驚いた視線を感じた。
「あら?それこそ、聞き捨てならないわね……誰か、そんなことした?……それに、そんな事実でもないこと、誰が言ったのよ?」
そう言って、夏未は、自分の周りを囲む、女子たちを見た。
皆、怒りの目で、首を横に振った。
遠くで、その様子を見ていた、宮本さんが、思わず顔を伏せ、本に目を戻した。
「それは……」僕は、ネタ元をバラすこともできず、口ごもってしまった。
その僕の様子を見て、夏未は勝ち誇ったように「ほーら、言えないじゃない……だいたい、事実じゃないんだから、言えるはずないわよね……?」と、大笑いをした。
「そうか……伊藤さんが言ったの?彼女、あなたにおへそ見せるくらいの、大の仲良しだそうじゃない?彼女が、そんな作り話したのね。『ダーリン、まどか怖い~』とかなんとか言って……」
「そうそう、彼女だったら、あり得るかも……」周りの女子が、夏未の言葉に同調した。
僕は、それ以上、夏未に何も言えなくなった。
「ほらほら、そんな、つまらないこと私と話してると、可愛い可愛い『ハニー』が、ヤキモチ妬くわよ」そう言って、アゴで、入り口の方を指した。
そこには、その僕と夏未のやり取りを聞いていた、登校したばかりのまどかが立っていた。
「早く、行って、可愛い『ハニー』を抱きしめてやんなさいよ。だいたい、あなたたち、おへそだけじゃなくって、その下の方も見せ合ってんじゃないの?」そう言って、夏未は大笑いした。
それを聞いた、周りの女子たちは「いやらしー……」と言って、眉をひそめた。
僕は、自分の、怒りにまかせた行動を後悔した。
僕は、夏未を囲む女子たちの嘲笑を背中に受けながら、入り口で立ち尽くすまどかのところに行った。
そんな、僕の様子を、クラスのみんなが見ていた。
僕が、まどかの肩に手を置いて、彼女を席まで連れて行こうとした時「触らないで……」とまどかが言った。そして、僕の手を払いのけると、一人で自分の席に行って座った。
その間、ずっと、まどかは下を向いていた。
その様子をじっと見ていた夏未は「ほーら、私なんかとしゃべってるから、ヤキモチ妬かれて『ダーリン』振られちゃったじゃないの……」そう言って、またしても大笑いした。
周りの女子たちも、一斉に笑った。
僕は、みじめな思いで、自分の席に着いた。姉より、手ごわい女がいることを、その時、初めて知った。




