高校入学
高校に入学すると、僕はまどかと同じクラスになっていた。
そのことに、僕は『この高校に入学できて本当によかった』と、改めて感謝した。
高校は、いろいろな近隣の中学からの寄せ集めだったので、1学期の初め頃は、やはり、同じ中学の仲間とだけつるみ、よその中学から来た奴らとも少しづつ話をし始めるというような状態だった。
まどかは、高校に入り、ますます、学校では物静かになり、美人の大人の女性といった風格が出てきていた。
でも、そんな、物静かで目立たなくしているまどかでも、やはり、その顔やしぐさの可愛らしさから、他校から来た男子生徒らの注目の的で、よく、そいつらの話題に上っていた。
そんな、なんとなく、クラスのみんなが打ち解け始めた7月の初め、よその中学から来た丸山君が、そこにいた男子全員を教室の前に呼び、このクラスの美少女コンテストをやろうと言い出した。
その時間は、体育の時間で、男子だけが女子よりも先に授業が終了し、男子は皆、教室に戻ってきていたのだ。
「なあ、みんな、このクラスで、誰が一番かわいいと思う?」丸山君が、皆に問うた。
「俺は、やっぱり、伊藤さんが一番だと思うけどな」そう言うと、さっさと黒板に『伊藤まどか』と書き、正の字の一の字をその横に書き入れた。
それを見て、他の奴らも「僕も伊藤さん」「俺も、まどか」「俺も」「俺も」……数人の男子が一気に手を上げ、瞬く間に、まどかの横の正の字は二つになった。
他の女子の名前も、2、3人出るには出たが、やはり、まどかの名前の横についた正の字の数がダントツに多かった。
そんな中、丸山君が僕に訊ねた。「ケンジ君も伊藤さん?君たち、仲良さそうだもんね?」
僕の本当の答えは『yes』だったが、おばさんとの約束のこともあり、そして、その答えが、あまりにも普通すぎたので、少しみんなと違うところで「僕は、『須藤夏未』さんに一票」と言った。
それは、丸山君と同じ中学から来た、少しきつい印象のある美人だった。
性格もしっかりしているような感じで、彼女と同じ中学の女子はみんな彼女の取り巻きだった。
「へ~意外だなー……夏未は確かに顔は美人だけど、性格きついぞ。中学の時も、同じクラスにいた気弱な男子をつるし上げて泣かせていたもん」と、丸山君が言った。
「まーでも、個人の趣味ってことで……『須藤夏未』に一票。他には……?」
「俺、まどか」「俺も」……その後も、まどかの票は伸び続けた。気が付くと、クラスの男子の半数以上がまどかに入れていた。
そんなことを、教室の前で『ワイワイ、ガヤガヤ』やっていると、体育の授業を終えた女子たちが教室に戻って来た。
その先頭にいた例の『須藤夏未』が、黒板に数名の女子の名前とその横に複数の正の字が書かれているのを見つけ、口を開いた。
「ちょっと、あんたたち、そこで、何やってるのよ?」すでに、ケンカ口調だった。
そんなキレ気味の夏未に丸山君が「このクラスの女子のミスコン、このクラスのミスユニバースは、『伊藤まどか』さんに、決定しました。夏未、お前にも一票入ってるぞ。おめでとう……」そう言って茶化した。
「ふざけないでよ」夏未は黒板消しを取ると、怒ってその黒板の文字を消しにやってきた。
その剣幕に、多くの男子が凍り付いた。女子たちは、夏未と同じように怒って、ざわついていた。
そんなところに、まどかと、気づかいの宮本さんが二人で教室に戻って来た。
それを見つけた丸山君が「おお、これはこれは、ミスユニバースの『伊藤まどか』さん、ささ、こちらへ……」そう言って、まどかの方へ走り寄り、まどかの手を取って、教室の前に連れて来た。
男子が、「わー」と言って、拍手をした。
前で黒板を消そうとしていた夏未と、そこにいた女子全員の鋭い視線が、まどかの方に注がれた。
丸山君は、そんな女子の雰囲気は気にもせず、
「まどかさん、あなたが見事、このクラスの男子による、第1回ミスコンテストで、初代女王に選ばれました。喜びの声を一言」
そう言って、マイクを持ったように握った自分の右手を、まどかの口の前に持っていった。
事情の呑み込めていないまどかは、戸惑って「えっ……?ちょっ……わたし……」と言いながら口ごもり、不安そうな目を、僕の方に向けた。
隣の教室で授業をしていた先生が「こら! お前らうるさいぞ!」と言って、怒鳴り込んできたことで、そのまま、全員が急いで席に戻って、その場は終了した。
僕は、その時、夏未がずっとまどかの方をにらんで見ているのに気付き、得体のしれない不吉な何かを感じた。




