お見舞い
僕たちは、それぞれの部活が終わると、みんなでまどかの入院している病院に向かった。
病院に入る前に、みんなでお金を出し合い、病院の前にあった花屋で見舞いの花を買った。
内田が、その花束を抱きしめ「まどかちゃ~ん」と言った。それを見て、みんなが笑った。そんな、みんなの様子を、僕は冷めた目で見ていた。
まどかの病室に入ると、おばさんがいた。
おばさんは、見舞いの一群に僕のいるのを見つけると「あら、ケンジ君……」と声をかけてきた。
花束を持った内田が僕の方を『チラッ』と見たのち、「こんにちは、伊藤さんのお見舞いに来ました」と言って、頭を下げ、花束をおばさんに渡した。
「まあ、きれい。皆さん、ご丁寧に、どうもありがとう」と言って花束を受け取ると、「まどかちゃん、お友達がお見舞いに来て下さったわよ」と言って、その花束をまどかの座っているベッドに置いた。
ちょうどお昼で、まどかは病院のお昼ご飯を食べている最中だった。
突然の僕たちの訪問に、まどかは、食べていた箸をおくと「あら、内田君……ヒカル君も来てくれたの?」と驚いた表情で言った。
まどかは、僕と二人でいる時は小学校の頃の呼び名の「ケンちゃん」と言っていたが、学校のみんなの前では僕のことを名字で呼んでいた。
さらに、僕の前では小学校の時と同じ、相変わらずのおてんば娘であったが、学校に行くとほとんど男子と話すことはしていなかった。
「皆さん、ありがとね。何にもないけど、これでも食べて」おばさんは、お見舞客が持って来たであろうお菓子の箱を開け、僕たちに差し出した。
「ありがとうございます」遠慮を知らない内田が一番にそのお菓子に手を出した。
それにつられ、一緒に来ていたみんなも「いただきます」と言って、お菓子を手に取った。
僕だけが遠慮をして取るのを躊躇していると「ケンジ君も遠慮せずに……」と言ってそのお菓子を手に取り、僕の手に押せてくれた。その時、おばさんは僕の目を見て『ニコリ』とほほ笑んだ。僕は、昨夜のおばさんの白い裸体を思い出し『ゴクリ』と唾をのんだ。
「みんな、心配してくれて、ありがとうね。でも、明日無事に退院できるから、大丈夫よ。学校に行くようになったら、また、仲良くしてやってね」
その、おばさんの言葉を聞いて、菓子を食べていた内田が口を『モゴモゴ』させながら「ハイ!」と大きな声で言った。
僕は、おばさんに『まどかのことを心配して来たんじゃない、全部、内田のつまらぬ作戦のせいなのだ』と告げ口をしてやりたい衝動にかられた。
「ほら、まどかちゃんもみなさんにお礼言わないと」
おばさんは、ずっと黙っているまどかに言った。
「みんな、ありがとう」まどかは、恥ずかしそうに下を向いたまま『コクリ』と、お辞儀をした。
「伊藤さん、早く元気になって学校に来てください。僕たち待ってるから」内田が調子のいいことを言った。
まどかは、その内田の言葉に『ニコッ』とすると、無言で頭を下げた。
その様子に、内田は満足そうだった。
見舞いを済ませ、病院を出た内田は、とてもテンションが上がっていた。
スキップをしながら僕たちの一番前を行き、僕たちの方に振り返ると、「よし、よし、よし」とガッツポーズをし、「やった~!!!まどか~お前は俺のもんだ」という、何の根拠もない雄たけびを上げながら万歳をした。
そんな内田を「ヒューヒュー」という口笛でみんなが冷やかした。
「でもよ、まどかの母ちゃんもきれいだったな~あの母ちゃんにして、あの子ありだな……」内田がおばさんのことを評して妙に難し気な言い回しをした。
「俺、あの母ちゃんでもいけるわ」
その内田の言葉に「俺も」「俺も」と皆が賛同した。
「なんだよ、結局みんな熟女好き……?」山田君がそう言って笑った。
僕は、そんな盛り上がるみんなの様子を『俺はその美人の熟女のすべてを知っている』と、ちょっとした優越感に浸りながら、冷ややかに見ていた。
当然、その日の午後もまどかのいないまどかの家へ行き、おばさんと一戦を交えた。
その時、「みんなが、おばさんのこと美人だって褒めてたよ」と伝えた。
それを聞いたおばさんは「まあ、うれしい、あの子たちも可愛かったわよ……浮気しちゃおうかな……?」と笑った。
それを聞いた僕は、「ダメだよ、あいつらは女のこと性の対象としてしか見てないんだから……」と不機嫌におばさんの言葉を否定した。
「あら?妬いてるの……?だって、ケンジ君とだって、私にとっては浮気だよ……同じじゃないの……?」おばさんは、僕の顔を覗き込み、いたずらっぽく笑いながら言った。
「違うよ……僕は……僕は、おばさんのこと愛してる」
「あら?ほんと?……ありがとう。私もケンジ君のこと愛してるよ……」
「でもね、私、男の人の『愛してる』って言葉は、全く信用してないの……」
「今までにいろいろあったから……だから、ケンジ君も、私に気を使って、そんなこと、言わなくてもいいのよ。私だって、ケンジ君みたいな若い子が、本気でこんなおばさん相手にしてくれてるなんて思っていないから……」
「愛や恋なんてことは抜きにして、セックスだけ楽しみましょう……その方が、ケンジ君も気が楽でしょ?だから、可愛い彼女さんができたら、いつでも、私のこと捨ててくれていいのよ……」
「いえ……俺は……」おばさんの言ったことを否定しようとした僕の言葉をさえぎるように、おばさんは僕の頬にキスをした。何か、悲しいような、嬉しいような、複雑な気分だった。
「ただし、何度も言うけど、まどかちゃんだけはダメよ……」おばさんの再三の忠告が僕の心に響いた。




