おばさんの作った晩ご飯
おばさんは、僕を中に入れると「お腹すいたでしょ?おばさん、待ちきれなくて、先にいただいちゃったわよ」と言った。
テーブルの上には、蠅帳がかけられたトンカツののったお皿と、おひたしの入った小皿が置かれていた。それはおばさんが僕のために作ってくれた晩ご飯のおかずだとすぐに分かった。
それを見て、家を出る時すでに食べて来たことを言うのが申し訳なくなり、「おなかペコペコです」と言った。
「そこに座って。すぐに準備するから」そう言って、おばさんは、鍋の置かれたガステーブルの火をつけ、勝手場の方を向いてキャベツを切り始めた。
そして、背中越しに「でも、どうやって、今晩おばさん家に泊まるの許してもらったの?」と訊ねてきた。
僕は「山田君の家にみんなで泊まるをやめてこちらに来た」と言った。
「だから、母は山田君家に泊まってると思ってます」
そう言うと「あら、悪いことしちゃったわね……みんなと泊まった方が楽しかったでしょ?」と申し訳なさそうに言った。
「そんなことないです」僕は、すぐにおばさんの言葉を否定した。
「だって、男の子たちが集まって、どうせ、大人のいけないご本とか見るんでしょ……」
そう言っておばさんは笑った。
おばさんは、なかなか鋭かった。
そんな他愛もない会話をしていると、おばさんは振り向いて蠅帳をたたみ、トンカツののったお皿を取って、千切りにしたキャベツをトンカツの横にのせた。
そして、沸かし直したみそ汁とご飯をついで、テーブルに置き、僕の前の椅子に腰かけた。
「さあ、召し上がれ」そう言って、僕に食べることを促した。おいしそうな香りと、おばさんのニコニコした顔が、腹いっぱいのはずの僕の食欲を刺激した。
「いただきます」そう言って、僕はさめたトンカツにかぶりついた。
「どう?おいしい?」おばさんは、ガッツく僕をうれしそうに眺め「温かいときだったら、もっとおいしかったんだよ……」と言った。
その言葉を聞いて「スミマセン」と言いながら僕が顔を上げると、おばさんは「ほらほら、慌てない……」と言って、僕の口に付いたソースを人差し指で拭い、その指を自分の口に入れて舐めた。
僕は、照れながら、その色っぽさに『ドキッ!』とした。
おばさんは、僕の前に腰かけて、ずっとニコニコしながら頬杖をして僕の食べるさまを見ていた。
僕は照れくさくなって「どうしたんですか?」と訊ねた。
おばさんは「うううん……何でもない……」と言った。
しかし、そのあと少し間をおいてから「ケンジ君、おばさんが中学の時に好きだった男子に似てるの……」と言った。
「その子ね、ケンジ君と同じようにクリクリッとした大きいきれいなお目めしてた」
「毎日、その子に会うのが楽しみで、学校行ってたの……でも、その頃は、おばさん内気だったからさ、その子と話すこともできなかったの。遠くから見ているだけで幸せだった……」
僕は、一旦箸止め、その話に聞き入った。
「あはは……私も若かったな~ 今だったら、絶対逃がさないんだけどな……」そう言って笑った。
そんなおばさんの思い出話を聞きながら僕は二回目の晩ご飯を平らげた。
「おいしかったです。ごちそうさまでした」
「あらあら、ご丁寧に……お代わりはいいの?」
「もう、お腹いっぱいです。どうもありがとうございました」そう言ってお辞儀をした。




