崩れ落ちた砂城
まどかがリビングの扉を開けると同時に、コタツに入って座っていたおばさんは、下を向いたまま「今晩は、いつも、ウチのケンジが、お世話になっています」と頭を下げた。
僕の彼女に対して、ウチの母を演じてくれたのだ。
しかし、それは、まったく無意味な演技だった。
「『ウチのケンジ』……って……ママ、なに言ってるの……?」小さな声で、まどかがつぶやいた。
その声を聞いて、おばさんは驚いて顔を上げた。見る見るおばさんの頬が紅潮した。
「なんで、ママがここにいるの?」
まどかは、目の前の状況がすぐには理解できず、再びそう訊ねた。
「……」僕は、まどかの後ろで、これから起こるであろう、最悪の事態を予感し、青くなってそこに突っ伏していた。
「まどかちゃんこそ、なんでここに……」
おばさんは、そう言うと、まどかを見ていた目を『パッ』と僕の方に向けた。そして、にらんだ。
僕は、おばさんの目をまともに見ることができず、まどかの後ろに隠れていた。
まどかは、あまりの衝撃に、しばらく無言でいたが、やがて、ゴミ箱の中の大量のティッシュの山に気付いた。
そして、その目は、ベッドの半開きの宮棚の戸に移った。
そこに何が入っているかは、何度もこのベッドで僕と繫がったまどかが一番知っていた。
まどかは、そのまま、黙って、ベッドのところに行って、ベッドマットを覆うように置かれていた掛布団に手をかけた。
慌てて、おばさんがそんなまどかを制した。
「待って……まどかちゃん……」
まどかは、そんなおばさんの言葉を無視して、『パッ』とその布団をはぐった。
そこには、僕のシャツやパンツ、おばさんのスリップやブラジャー、パンティーやストッキングが散乱していた。
おばさんも、服を着るのが間に合わず、下着をつけず、セーターとブラウス、スカートだけを身に着けていたのだ。
「……」三人ともが声を発することができず、部屋の空気が凍り付いた。
「なに……?これ……?」やっとまどかが、小さくつぶやいた。
おばさんが、声にならない何かを言いながら、自分のパンティーとストッキングを、そこから『サッ』と取って隠した。
「サイテーーー!!!」
まどかは、そう叫んで、持っていた布団をベッドにたたきつけると、部屋の出口に立っていた僕を突き飛ばして、部屋を飛び出した。
「まどかちゃーん!!!」おばさんは、大声で、まどかを呼んだ。
そして、僕に向かって「何してるの! 早くまどかを追って!!!」と言った。
僕は、服もパンツもつけていない状態だったので、せめて、パンツだけでもはこうと、慌ててベッドの上にあるパンツを取りに行ったが、おばさんは怒って「そんなことは、後でいいでしょ! とにかく、早くまどかを捕まえて!!!」そう叫んだ。
僕は、おばさんに言われるまま、まどかを追って、部屋を飛び出した。
『ブオーン』
まどかは、後から追って来た僕を無視して、単車で走り去った。
僕は、すぐに、走って後を追ったが、追いつけるはずもなく、すぐにまどかを追うことを断念した。
下の階の女性が、『何事か?』と、ドアを開けて顔を出したが、僕の顔を見ると、すぐにドアを閉め、中に引っ込んだ。
僕は小さな声で「スミマセン」と頭を下げた。




